2018年05月14日

防人たちに尊敬を

 放送でも扱いましたが、北朝鮮情勢が緊迫している裏で中国が対外影響力向上に向け着実に歩を進めつつあります。

<中国が建造している初の国産空母が13日、中国遼寧省大連市を出港し、最初の試験航海を始めた。昨年4月に進水し、航海に必要な装備の設置を進めていた。2020年の就役とみられていたが、中国メディアは19年に早まるとの見方を伝えている。>

 これも放送で触れましたが、空母そのものでは防御力も弱く、空母打撃群と呼ばれるイージス艦や潜水艦などを引き連れた艦艇のセットを作らない限り単独では意味をなさないという指摘もあります。さらに、この空母打撃群は定期的にドック入りして検査・整備をしたり、訓練につかったりするので1セットや2セットあってもサイクルを回せず、最低でも作戦行動・訓練・ドック入りの3セットないと使い物にならないと指摘する向きもあります。また、この先無人機やAI戦闘の時代になれば、空母のように人員も燃料も喰う装備は割に合わなくなるので、中国がこうした時代遅れになりそうな兵器にカネを浪費するのはむしろ好都合だという指摘もあるのは確かです。

 ただし、この毎日の記事にある通り、前者の指摘に関しては中国は急ピッチで艦艇の整備を進めていて、早晩空母4隻体制になるでしょう。仮に太平洋で中国海軍と対峙するとすると相手は米海軍、あるいは日米同盟ということになりますが、まだ彼我の差はあれど着実に詰められていることは事実として認識しておくべきでしょう。
 また、この先無人機やAI戦闘の時代になるとはいえ、現時点ではそうなっていないわけです。まだまだ空母打撃群や戦略原潜が抑止力になるからこそ、米海軍も運用を続けているわけですから、将来の需要はそれとしても決して侮ってはいけません。適切に恐れ、適切に備えることが重要です。

 と思いながら新聞をめくっていると、日本の備えについてはちょっと心配なニュースが伝えられました。
<自衛隊の主力隊員になる「自衛官候補生」の入隊が4年連続で採用計画人数を下回ったことが13日、分かった。2017年度の採用では計画8624人に対し、試験を経て入隊の意思を示したのは6852人(18年3月31日現在)だった。少子化などが背景。防衛省幹部は「任務はきついかもしれないが、国防を担う人員確保は喫緊の課題だ」と不安感を強めている。>

 自衛隊の募集を担当する方に取材すると、
「世の中の景気が良くなると自衛隊の募集は厳しくなり、景気が悪くなるとラクになる」
と話していました。ある意味、雇用の調整弁としての機能もあるわけですね。上記共同通信の記事にも<少子化などが背景>と書いてありますが、もしそうなら少子化自体はすでにこ20年以上も続いているわけで、その間ずっと計画割れしていなくてはおかしいはず。となれば、実は少子化は理由ではなく、待遇面などの見直しが必要なのではないでしょうか?駐屯地ではトイレットペーパーが不足することもあるそうですし、そうなると日々の給料も推して知るべし。財務省の敷く緊縮路線の中、装備品へ割く予算が増えれば増えるほど現場の福利厚生が後回しになっていくという実態があります。

 そしてもう一つ、一連の"日報問題"では、10年以上前に現場が戦闘状態だったのかどうかでいまだに国会審議が止まる始末です。PKOや国際協力で海外に出るときには、日本国内にいる時とは違う緊張感の中で仕事をしなくてはいけません。
 災害救助もそうですが、出動の際には一般人とは違ったリスクを覚悟のうえで出ていきます。ある幹部自衛官は、憲法前文にある、
「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」
という精神を体現するのは我々を措いて他にないのだという自負心と職業意識が我々を動かしているのだと語ってくれました。ところが、今回の騒動。現場を歩いて取材をすると、「我々の覚悟は何だったのか?」という声が聞こえてきます。

 四方を海に囲まれた我が国は、海の守りを固めなくてはいけません。中国の空母打撃群と対峙することを余儀なくされるであろうこの情勢ではなおさらのことです。ただでさえ、長期間洋上で外部との連絡も遮断される"艦隊勤務"は若い人たちからは敬遠されて、特に海上自衛官の募集は非常に厳しいといわれています。そこへ来て待遇面の不満や、上に書いたような世間一般の冷たい接し方、報じられ方があっては、いかに我慢強く士気高い自衛官にも限度というものがあるでしょう。誰がこの平和を守ってきたのか?その献身への尊敬と、そのしるしとしての待遇改善が急務なのではないでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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