2018年05月03日

増税のためなら手段は問わない?

 2019年の消費税増税に向けて、これを後押しするような動きが目立ってきました。

<経済同友会の小林喜光代表幹事は26日、産経新聞などのインタビューに応じ、消費税率を来年10月に10%へ引き上げると同時に、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を平成37年に黒字化させるためには、「消費税率を14%まで引き上げるべきだ」と語った。>

<日本銀行は1日までに、政府が2019年10月に予定している消費増税に伴う家計の負担増が、約2・2兆円になるとの試算を発表した。
 税率が8%から10%へと引き上げられるが、食品などへの軽減税率の適用や教育無償化などの政策効果で、14年4月の前回増税時と比べて約4分の1の負担増で済むとみている。>

 消費税増税そのものは2019年の10月に予定されていますから、まだまだ1年半後。にもかかわらず、どうしてこの時期にこんなに動きがあるのか。関係者に聞くと、スケジュールを考えれば当然なんだそうです。
「2019年10月に増税するためには、2019年度の税制改正や予算に織り込む必要がある。その編成作業は今年、2018年の秋ごろから本格化するのだが、その時のたたき台になるのが、6月ごろに出されるいわゆる"骨太の方針"(経済財政運営と改革の基本方針)。この"骨太"の中身を詰めるのがまさに今この時期。今、増税の方向を確定させれば、あとは自動運転で増税に行きつくから、分かっている人間は今動くのだ」
と解説してくれました。まさに今正念場ということなので、いろいろな記事も出て世論を動かそうとしているわけですね。
 しかし、中にはちょっと眉に唾して見ないといけない記事も見られます。水曜日のCozy Up!でも6時台にお話ししましたが、上に挙げた2つ目の読売の記事がそうです。実は、まったく同じ内容で各紙書いていたのですが、読売はたまたまこの日の1面の肩の記事にまで上げていたので取り上げたというわけです。いろいろ不自然な点があるのですが、まずはこの記事のソース、日銀の展望レポート(経済・物価情勢の展望)を見てみましょう。


 このレポートの表紙を見ると、<公表時間 4月28日(土)14時00分>となっています。土曜の昼にリリースされていますから、遅くとも翌日曜日の朝刊の締め切りには十分間に合います。ところが、記事が紙面に載ったのは5月2日水曜日。一社の抜けがけもなく、各社火曜の紙面に載せていました。ネットでは土曜日にはもう見ることができたのに、このタイムラグは何なのでしょうか?土・日・月とお休みで、火曜日に記者クラブに出社したらレポートが出ていたから記事にしたのか?と勘ぐってしまいます。

 そしてもう一つ、これは放送でもお話しましたが、読売はじめ各紙の記事にある消費増税時の家計全体の負担額が次回増税時は軽減されると予想されるという点も疑ってかからなければいけません。展望レポートの36ページのコラムに詳しい根拠が書いてあります。
 消費税が導入された1989年に関してはデータがないので割愛したようですが、3%から5%に上がった1997年、5%から8%に上がった2014年と比べて2019年はどうなるかを予想しています。レポート曰く、過去2回は負担を軽減する措置があまりとられていなかったのでショックが大きかったが、今回は軽減税率や支援給付金、教育無償化などの効果もあり、4分の1程度まで負担が和らぐとしています。
 たしかに、2014年の増税時はさしたる負担軽減策がなく、頼みの綱は当時成功を収めつつあったアベノミクスの勢いのみ。増税の負担8.2兆のほぼすべてが家計に覆いかぶさってきました。一方で、1997年の増税時は負担軽減政策を講じていたと記憶していたのに、記憶違いだったのかな?と、見出しを見た時にまず気になりました。
 そこで調べてみますと、なるほど日銀が言う通り、1997年度で見れば間違いではないことがわかりました。あくまでも"1997年度で見れば"です。単年で見ればそうかもしれませんが、経済は1年でリセットするものではなく継続していくもの。前後数年で見ると大間違いであることがわかりました。


 この中の4ページの表を見てください。たしかに1997年度は消費税増税で負担が増える一方、負担軽減策は行われませんでしたから負担純増です。が、この負担増が予想されていましたから、増税の3年前の1994年から所得税・住民税の定率減税などの負担軽減措置が行われていました。特に、1995年の抜本的税制改革では税率構造の累進緩和や課税最低額の引き上げなどの負担軽減策が恒久的措置として盛り込まれましたから、この効果は翌々年の消費増税のタイミングでも効き続けていたはず。なぜ、その政策効果を97年度にスタートしていないということだけで無視するのでしょうか?

 また、これだけ年度をまたいで対策を打ったにも関わらず、1997年の消費税増税後は景気が落ち込んでしまいました。アジア通貨危機などの影響も否定はしませんが、であれば通貨危機の影響を受けた諸外国と同等か少し遅れて景気が回復してもおかしくなかったのに、日本の経済だけがそうはいきませんでした。消費税増税の影響も大きかったことが推定されます。もちろん、時の政権もそこで手をこまねいていたわけではなく、翌年の特別減税、さらに翌々年の恒久減税と負担軽減策を追加していきます。こうした施策も1997年の増税に対する負担軽減策として行われたものですが、やはり97年当時は存在しなかった政策ということで無視されています。
 次回増税の影響は軽微であるという結論から逆算して、都合のいいデータだけを持ってくる。典型的なチェリーピッキングでしょう。

 そもそも、2014年の消費税増税当時もメディアでは「影響は軽微!」の大合唱でした。が、結果はどうなったか。4年経ってようやく増税前の水準まで経済が回復した程度ですね。「影響は軽微!」にまた踊らされるのか。受け手側の我々国民が問われています。
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プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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