2018年04月03日

また出た認知的不協和

 今週から新番組『飯田浩司のOK!Cozy Up!』がスタートしました。朝6時から8時までの生放送なのですが、初日はメジャーリーグ中継のため1時間の短縮。今朝、初めて6時スタートのフルバージョンで放送しました。
 6時台は私と新行アナウンサーの二人での進行。ということで、ニュース解説も私がやることになりました。これが、ザ・ボイス時代と大きく変わったことの一つ。今までの取材で学んできたこと、コメンテーターの皆さんとの議論の中で培ったことを出す機会です。
 今日は、昨日発表された日銀短観に対する各紙の報道についてお話ししました。ここでは、放送では時間の関係でお話しきれなかったことを書きたいと思います。

 まず、昨日発表された日銀短観について、今朝の各紙の報道を見ると日本はまた不景気に突入してしまったかのようです。

<日本銀行が2日発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、代表的な指標の大企業・製造業の業況判断指数(DI)がプラス24で、昨年12月の前回調査から2ポイント悪化した。DIの悪化は2016年3月以来8四半期(2年)ぶり。原材料高が響いた。海外経済の追い風はまだあるが、円高やトランプ米政権の保護主義政策で、企業の先行きへの見方は慎重になっている。>

<日銀が2日発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)は、原材料価格の高騰で大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)が前回(昨年12月)調査から2ポイント下落のプラス24となり、2016年3月以来、2年(8四半期)ぶりに悪化した。トランプ米政権の保護主義的な通商政策や円高・株安の影響で、3カ月後を示す先行きも4ポイント下落のプラス20と1年半(6四半期)連続で悪化した。>

 毎度書いていますが、政治的主張では右と左にクッキリ分かれる2紙が、こと経済に関してはほとんど一緒です。この日銀短観の記事を見てください。見出しも、リードもほとんどコピペかというくらいにそっくりですね。
 日銀短観というものは、3か月ごとにおよそ1万社に景況感を聞く調査。その回答を、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた指数として表します。ということで、記事の元となるものは数字ですから、政治的主張の左右に関わらず結論が同じであっても全く問題ありません。ただ問題なのは、これが揃って間違っている可能性が高いものだからです。

 日銀短観を含め、大抵の指標は発表直後にホームページで公表されます。今回ももちろん日銀ホームページに公表されていました。


 大企業・中堅企業・中小企業それぞれの数値など細かいものも発表されていますが、上記の記事の内容を検証するには要旨で十分です。この業況判断DIを見ますと、大企業製造業の数値は24。前回調査の去年12月が26なので、たしかに2ポイント減少しています。今まで順調にこの数字が伸びていたので、2年ぶりに2ポイントの減少というのも、間違っているとは言えません。
 が、「景気に影」と言われるほどの景気の急減速が起こっているのでしょうか?この数値は先ほども書きましたが、景気が「良い」-「悪い」ではじき出しますから、数値がプラスということは景気が「良い」と考えている企業の方が多いということですね。不景気になりかかっているときに、こんなに景気が良いと考えている企業が多いなんてことがあるんでしょうか?
 また、この日銀短観は足元の景況感のほかに、3か月後どうなっているでしょうか?という見通しも聞いています。ということで、3か月前の見通しと、足元の景況感を比較することができるんです。大企業製造業で前回調査時の予測が21。しかし、今回の数値は24でした。3か月前に思ったよりも景気は同じか若干良いということ。この傾向は、大企業の非製造業や中堅企業、中小企業も同じです。

 ここまでは今朝もお話ししましたが、ここで時間切れでした。私がもう一つ注目していたのは、製造業における「需給・在庫・価格判断DI」というもの。この中の「国内での製商品・サービス需給(需要超過-供給超過)」を見ると、大企業で前回調査-1から0に。中小企業でも-13から-9に。大企業では0、中小企業ではまだまだマイナス圏ということで、まだまだ供給の方が多い、つまりデフレ圧力があるということですが、それもだいぶ収まってきました。
 また、在庫水準を見ても在庫が圧縮されつつあります。
 一方でマイナス幅が大きいのは雇用人員判断DI。企業側から見ればこの部分が問題で、ここから「人手不足倒産が起こる可能性がある!」「経済成長を阻害している!」という批判が起こるわけですが、他方ここ20年以上実質賃金が一貫して減り続けています。これらを総合して考えれば、企業セクターは決して景気が悪いわけではない。しかし、それを賃金の形で還元出来ていない。ここが一番の問題です。本来これほど労働組合に期待が集まる舞台はないのですが、連合はむしろ緊縮を標榜してしまう体たらく。結果、ほったらかしにしていたら賃金が全く上がらず景気も上向きにならないので、"官製春闘"と言われても総理官邸が介入する事態になるわけですね。

 それにしても問題は、前々回の当ブログにも書いた「認知的不協和」問題。認知的不協和とは、自分の認識と新しい事実が矛盾することを快く思わないこと。アベノミクスは失敗だ、金融緩和は効かない、財政出動は問題外と批判してきた各紙からすれば、この短観の内容は受け入れがたい。そこで、少しでも悪くなった数字がないか探したのでしょうか...?やっぱり、1次ソースに当たるクセを付けないと見出しの印象でニュースの判断を誤ってしまいますね。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

最新の記事
アーカイブ

トップページ