2018年03月08日

リニア"談合"事件について

 先週末、いわゆる「リニア談合」事件で初の逮捕者が出ました。

<リニア中央新幹線の建設工事で大手ゼネコン4社が談合したとされる事件で、東京地検特捜部は2日、大成建設元常務の大川孝容疑者(67)と鹿島の営業担当部長大沢一郎容疑者(60)を独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで逮捕し、発表した。3兆円の公的資金を含む総事業費9兆円のリニア建設は、大手ゼネコン幹部らが刑事責任を問われる事態に発展した。>

 JR東海が発注したリニア新幹線工事について受注調整を行ったのではないかという疑いで、東京地検特捜部が捜査に乗り出した今回の事件。1990年代に社会的にも大問題になった建設大手、ゼネコンの談合事件が相次ぎましたが、あれから30年あまりが経つわけで、まだそんなことしてるのか!?という世間の憤りはもっともです。
 しかしながら、同時に当時問題となった事件と今回のケースには相違点もあります。たとえば、今回のケースは民間と民間の契約がもとになっているという点。
 この点をもって、独占禁止法は適用されないのではないかと指摘する向きもありますが、念のため言い添えておきますと、独占禁止法それ自体は官民の契約だろうと民間同士の契約だろうと競争環境を歪めたなどの条件を満たせば法律違反となります。過去には、民間同士の取り決めを巡っても独占禁止法違反を問われた案件もありました。ただし、ここ最近、特に特捜が動いて世間が注目する事件は官の発注した公共事業を巡るものが多く、何となく「談合事案=官民癒着」というイメージから、今回のリニア談合はそれに当たらないとされたのかもしれません。

 また、今回のリニア工事には総工費9兆円のうち、3兆円の財政投融資が入っています。逆に、これをもって公共性が高い、準公共事業ではないか!税金が無駄に使われた!独禁法適用も当然!という主張も見られます。しかしながら、このリニア工事は当初JR東海が単独で行うことを表明。所管の国土交通省も冷ややかながら「やりたきゃどうぞ」とばかりに認可を出した経緯があります。

<自力建設がもたらすのはリスクだけではない。会長の葛西敬之、前社長で副会長の松本正之、そして山田は、いずれも国鉄民営化の経験者。政治家と官僚が蠢く魑魅魍魎の世界を、よく心得ている。民間会社として経営の自由度を確保することの重要性もわかっているのだろう。>
(引用者注:肩書はいずれも当時)

<政治主導の優先順位を覆して後発のリニア中央新幹線が追い抜くのは困難。国交省も「国が優先しなくてはならないのはリニアよりも整備新幹線だ」(幹部)との姿勢を崩していない。>

 当時の国交省には、リニアをやるならその前に整備新幹線という意識が濃厚にあって、財政出動をしてまで支援する意向はほとんどなかったようです。また、当時のJR東海の経営幹部は(今もそうですが)国鉄の民営化の時期に政治や官庁の意向に翻弄された経験を持っています。霞が関や永田町に振り回されず、自分達で意思決定するためには、自分達で資金も何もやるしかない。そう腹を括ってこのリニア事業はスタートしているわけです。
 一方、財政投融資の活用は、完成時期の前倒しを要請した安倍政権になってから。この時期はたしかに工事の契約をするよりも前ですが、しかしながらこれだけの難工事、単純な一般競争入札でより低い金額を提示した社が受注するというものではありません。そもそも、大深度地下を時速500キロのスピードで往来するリニアに耐えられるようにトンネルを掘れるのか?フォッサマグナを安全に、工期内に掘るだけの技量はあるのか?リニア技術そのものが革新的なものであるので、それを土台で支える構造物は100%安全であってほしい。そんな要請を受けた時、責任をもって工事を担える会社が日本にどれだけあるのか?大手ゼネコンに限られてしまうのも不思議ではありません。

 JR東海の建設部門の幹部に話を聞いても、
「今回のトンネル工事は本当に難しい。中央構造線なんて地層はグシャグシャ。もちろん超音波とか技術を駆使してこの先を調査するんだけど、正直50センチ掘り進んだら何が出るかわからないようなものなんだ」
と、工事の難しさを教えてくれました。フォッサマグナを掘りぬく工事の難しさは、北陸新幹線の工事でもわかります。この時は真正面から掘り抜くことをせず、長野から一度新潟県上越市方面に北上して、日本海沿いまで出てから西へ進むルートを選択してます。今回は真正面からフォッサマグナに挑む、鉄道工事としては日本初の挑戦なのです。それを、たとえば舗装工事や水道管交換などにかかる一般競争入札と同次元で扱い、競争を歪めたとするのが果たしてフェアな態度なのでしょうか?

 受注できる会社が限られ、割けるリソースも限られているから均等に受注したとして、それは競争を歪めたことになるのか?高度技術と独占禁止法の関係を見る上でも、非常に興味深い案件です。検察リークで記事が量産されていますが、一方向のイメージだけで判断するのではなく、今後の大規模インフラ事業をどう考えるかという視点で見ていきたいと思います。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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