2018年02月27日

『体感物価』って?

 先週末に1月分の消費者物価指数が公表されてから、『体感物価』という不思議な言葉が新聞の見出しに目立つようになりました。このところの原油高に引っ張られる形でガソリンや灯油の価格が上昇したことに加え、年明けからの列島に到来した寒波で暖房需要や発電需要も伸長。さらに寒波の影響で生鮮食料品、特に葉物を中心に野菜も高い!こうした家計の実感もあって、『体感物価』というものに説得力が増しているのかもしれません。

<総務省が26日発表した2017年平均の全国消費者物価指数(15年=100、生鮮食品を除く)は、前年比0・5%上昇の100・2と、2年ぶりにプラスとなった。原油高でエネルギー関連が上昇したのが主因で、食料品も値上がりした。需要の増加などを背景とした物価の上昇は経済の好循環につながるが、ガソリンや灯油など生活必需品の上昇は生活を圧迫し、消費に影響を与える可能性もある。>

<消費者の「体感物価」が上昇ピッチを速めている。エネルギーや生鮮食品など節約が難しい品目の値上がりで、家計の節約志向がぶり返す懸念が出ている。
 1月の消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、エネルギーも生鮮食品も含む総合ベースで前年同月比1.4%上昇。消費増税の影響を除くと、14年7月(1.4%)以来の伸びだ。>

 だいたいどの記事も、総務省統計局発表の消費者物価指数のうち、エネルギーや生鮮食品も含む「総合」の数字を『体感物価』と定義しているようです。足元の数字を参照しておきますと、

<全国 平成30年(2018年)1月分 前年同月比 総合:1.4%  生鮮食品を除く総合:0.9%  生鮮食品及びエネルギーを除く総合:0.4%>

 たしかに総合指数では前年同月比プラス1.4%となっていますが、エネルギーや生鮮食品といった、値動きが激しくかつ海外要因や自然現象の影響を受けるものを除いた総合指数、俗にコアコア指数といいますが、こちらでは前年同月比0.4%の上昇にとどまっています。
 問題は、こうした数字をどう読み解くか、そして現実の政策に落とし込んでいくかですが、経済メディアは判で押したように「物価が上昇してきているのだから、金融緩和の副作用が出始めたのだ!さあ、とっとと出口戦略、金融緩和の終了と金融引き締めだ!」という論を立てています。年金生活者の方々などのインタビューを交えつつ、「物価が上がって生活が苦しくなっているのだ」と持っていくわけですね。
 素朴な生活実感としてはたしかにそうで、物価上昇に見合うだけの賃金上昇がなければ実質賃金が下がり、暮らし向きは悪化します。ただ、物価上昇にはコストプッシュ型とディマンドプル型の2種類があって、それぞれその要因も違えば対応する処方せんも違うはずなのです。今回の物価上昇は、主としてエネルギー価格の上昇や気象要因の生鮮品価格の上昇ですから、コストプッシュ型インフレといえます。金融緩和の副作用というか結果として物価が上がったわけではありません。
 専門家の中には、日銀は消費者物価指数の中でもこの総合指数で2%上昇を目標としているので、すでに達成したも同然だ。だから金融緩和を止めるべきだと主張する方もいます。
たしかに、2012年に政府と日銀で交わした政策協定では、物価目標の定義を書き込まなかったので解釈の余地がありました。しかし、その後2014年?にイールドカーブコントロールと共に導入したオーバーシュート型コミットメントでは、<生鮮品を除いた消費者物価指数が前年同月日で安定的に2%を越えるまで>と明記されました。


 従って、今の金融緩和の物価目標は生鮮食品を除く総合指数(俗に言うコア指数)となります。こちらは、直近の値で前年同月日0.9%プラス。決して満足いく数字ではありません。やはり、ここで出口戦略となれば、目標を達しないまま金融緩和を終えることになります。

 さて、金融緩和の政策効果を測る指標として、上に挙げたCPIコアコア指数があります。こちらは前年同月日たったの0.4%しか上昇しておらず、今金融緩和をやめて引き締めに転じるのは時期尚早であることは明らかです。にもかかわらず、総合指数が2%までいかずともその近くまで来たからと言って引き締めに転じては、金融緩和のメリットの部分まで奪い去ることになります。
 具体的には、雇用です。
 金融緩和のデメリットはインフレになることですが、メリットとしては雇用を産み出すことが言われています。現在の日本の失業率は2.8%(12月、季節調整済み前月比)、有効求人倍率は1.59倍(12月分、季節調整値)まで来ています。よく、団塊世代が引退したから人手不足になり、だから雇用が回復しているんだという人がいますが、この入れ替わりの需要のみが存在するのなら、どうして雇用者数が増えているのか説明がつきません。入れ替わりだけなら雇用者の椅子の数は増えませんから、雇用者の総数には変化がないはずです。ところが、2013年以降、雇用者数は月毎の上下はありながら総じて増加傾向にあります。これは、経済のパイが大きくなって、今まで働いていなかった人の分も含めて椅子の数が増えているということではないでしょうか?
 雇用が生まれ、失業率が下がっていけば、つれて経済的要因の自殺者数も減るということもまた、統計的に証明されています。労働需給が引き締まって人手不足感が強まれば、ひところ話題となったブラック企業は労働者が集まらずに人手不足倒産していくことでしょう。これはある意味自然淘汰ですから、企業倒産といっても我が国経済全体から言えば悪いことではありません。人手不足の文句を言う前に、雇用者の待遇改善を進めればいいわけですから。

 こうした恩恵を、ここ数ヵ月の『体感物価』とやらが多少上昇したからといって、帳消しにしていいのでしょうか?私は、金融緩和はそのままに、エネルギーや生鮮食品の価格上昇には的を絞って一定の補助を出すなどの政策で手当てする方がよほど理に叶っていると思います。もちろん、特定の層に恩恵が偏るなどの歪みが生じる可能性がありますから、制度設計は知恵を絞る必要があると思いますが。しかしながら、『体感物価』上昇という小の虫を気にするあまり、金融緩和の恩恵という大の虫をわざわざ殺す必要はありません。大の虫も小の虫も生かすのが政治の役割なのではないでしょうか?

 もちろん、今市場では国債が枯渇していて値動きも限られているので、結果として日銀は国債を買って金融緩和しようにも出来ない状態に陥ってしまっているのはわかっています。だからこそ、政府が国債を発行する絶好のチャンス。すなわち、思いきった財政出動が出来るチャンスなのです。すでに2018年度本予算は審議の真っ最中で積み増しも期待できませんから、勝負は2018年度補正予算。老朽化した橋やトンネルといったインフラ整備、医療・福祉・介護、リカレントも含めた教育、現場の隊員さんの福利厚生まできちんと行き届く防衛費などなど、ワイズスペンディングすべき対象はまだまだ沢山あると思うのですが...。
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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