2018年02月21日

一帯一路と白色艦隊

 先週の金曜日に旧正月を迎え、中国や東南アジア各国からの旅行者が押し寄せています。週明け、あるパーティーで都心の大型ホテルを訪れたのですが、大きなスーツケースを引いたアジアからの観光客グループをそこここで見かけました。

<中国で15日から始まる春節(旧正月)の大型連休を目前に控えた13日、中国各地の鉄道駅などは故郷や観光地に向かう人たちでにぎわった。連休期間中に海外へ向かう旅行客は過去最多の約650万人と予想されている。>

 世界各地の有名観光地でこうした光景が見られているのでしょう。4~5年前にデンマークのコペンハーゲンを観光した時のこと、世界三大ガッカリとしても有名な(?)人魚姫の像を見に行くと、そこにいたのは中国系の一団とインド系の一団。ああ、世界の成長センターはここなんだなぁと感心した覚えがあります。それは、同じく世界三大ガッカリの一つ、ブリュッセルの小便小僧を見に行った時も同じでした。

 こうして世界中に飛び出していく中国人。この勢いは旅行熱だけでなく、生活に困窮している層は移民として、あるいは今や経済力や軍事力を通じても対外拡張主義の圧力が強まっています。言うまでもなく、一帯一路を通じ沿線各国への経済的な影響力の拡大や、海のシルクロード、さらには北極海を経由する新たな航路の開拓によっても、外へ外へと進出しているわけですね。その一連の膨張は、習近平国家主席に言わせれば「中国の夢」。「中華民族の偉大な復興」と何度も繰り返しています。
 その行きつく先は何なのか?よく言われているのが、清国の最大版図の回復。乾隆帝の時代の再現を狙っているとされています。数年前にイギリスのエコノミスト誌は皇帝の衣装を纏った習近平氏が右手にシャンパン、左手に子供のピロピロ笛(吹き戻し)を持つ表紙絵を掲載し話題を呼びました。

 清国の最大版図の回復というだけでアジア各国にとってみれば非常に大きな脅威。日本にとって長期的には最大の脅威といっても全く過言ではありません。が、ヨーロッパにとってはこんな表紙絵で揶揄できるぐらい、現実の脅威とは感じずにむしろビジネスパートナーとして捉えているように見えます。
 では、本当に中国は清国の最大版図程度で膨張主義を止め、自制するのでしょうか?すでに脅威にさらされている我々からすれば、そんなことはないだろう。弱みを見せれば必ず出てくると思います。ある外務官僚は、
「そもそも、清国の最大版図、乾隆帝時代の回復って、乾隆帝は漢民族ではなくモンゴル系。そもそも、中華民族の偉大な復興ってのが欺瞞であることが良くわかる」
と看破しました。そのうえで、
「一帯一路はヨーロッパを飲み込むように、一応の終点をドイツ・ハンブルグに置いている。海の方はアフリカ各国に到達し、物量作戦でアフリカ各国を取り込んでいるのはよく知られている通り。さらに、大西洋を越えて中南米に到達している」
と教えてくれました。日本ではあまり大きく報道されていませんが、たしかに一帯一路構想とは無縁と思われていた中南米諸国にも参加するよう呼び掛けています。

<中南米33カ国で構成する中南米カリブ海諸国共同体(CELAC)と中国の閣僚級会合が22日、チリの首都サンティアゴで開かれ、中国はシルクロード経済圏構想「一帯一路」に中南米諸国も加わるよう呼び掛けた。ロイター通信が伝えた。「米国の裏庭」と称されてきた中南米では近年、中国の影響力拡大が著しい。>

 記事にもある通り、「アメリカの裏庭」と言われていた中南米の国々にもしっかりと手を伸ばしている中国。一帯一路以外にも、台湾と国交を結んでいたサントメプリンシペやパナマといった国々を着々と寝返らせ、台湾との断交、中国との外交関係を回復させています。
 さて、上記CELACにも出席していた中国の王毅外相は、2013年の外相就任以来去年末までで重複を含めると112か国、269回の外遊をこなしています。一方、ほぼ同時期に成立した第2次安倍政権の外相、前任の岸田氏から現職の河野外相までを合わせても62か国124回です。彼我の差は2倍。とよく言われますが、ここで注意したいのが中国という国の行政と政治の関係です。
 共産主義を掲げる国は大抵そうなんですが、党が政府を指導するとされています。行政機関としての外務省(外交部)のトップはこの王毅氏ですが、党側の外交トップは別にいます。今は、楊潔チ(よう・けつち)国務委員。王毅氏の前任の外相で、2013年から中国共産党中央外事工領導弁公室主任を務めています。この人もおそらく王毅外相と同程度の外遊を行っているでしょうから、実際は彼我の差は4倍に開くといってもあながち間違いではないでしょう。資金の豊富さや軍事力も大きな武器なんでしょうが、外交も人と人の関係が作るものですから、トップを知ってるか知らないか、会って話したことがあるかないかは大きなアドバンテージになります。こうして作り上げたネットワークが国際世論の形成にも大きな影響を与えているのは言うまでもありません。

 さらに、中国には壮大な外交構想があるようです。ある外交関係者は、
「中南米まで一帯一路を繋げば、次は第3パナマ運河を作って太平洋に抜けてくる構想まである。かつてオバマ政権時代、太平洋を米中で分割しようというプランがあったが、背中からアメリカの支配圏に切り込むアイディアだ」
と解説してくれました。

 それを聞いて私が思い出したのは、第一次世界大戦直前に当時の新興大国アメリカが大艦隊を送り出し世界一周させた故事。グレートホワイトフリート(白色艦隊)と言われたこの艦隊は、大西洋岸のハンプトンローズを1907年末に出航。南米大陸を南下し、マゼラン海峡を経てサンフランシスコへ。そこから太平洋を横断し、当時日露戦争に勝利した日本・横浜にも寄港しています。そして、南シナ海、インド洋を通り、スエズ運河を抜けて地中海へ。最後にジブラルタルに寄港し、大西洋を横断、ハンプトンローズに戻るという、1年3か月あまりの大航海でした。


 この艦隊の目的は、新造艦を連ねて世界一周をすることで自国の海軍力を誇示することにあったと言われています。新興国が世界の覇権を掴もうとした象徴的な動きだったわけですね。特に、日露戦争後ロシアの圧迫から解き放たれた日本海軍をけん制する目的が濃厚にあったとされ、白色艦隊が太平洋を横断しだすとヨーロッパ各国のメディアは「日米開戦の危機!」と報道。日本国債が暴落したという逸話もあったそうです。

 軍艦を使うほど荒っぽいやり方ではありませんが、一帯一路の構想は世界を一周するネットワーク構築、自分たちの国力を誇示するやり方。まさに現代の白色艦隊と言えるのではないでしょうか。目先の経済的利益で日本企業も乗り遅れるなとばかりに色気を示しています。私企業がどんな意思決定をしようともリスクは自分たちで取るわけですから結構なのですが、国策として一帯一路に乗っていくのは控えめに言っても相当に慎重な判断が必要です。外交判断は企業の意思決定と同列に考えるべきではありません。

 110年余り前、我が国は白色艦隊を大歓迎しました。相手が戸惑うほどの大歓待で迎え、日米開戦の危機をやり過ごしたそうです。一方で、艦隊が寄港する同じ時期に海軍大演習を行い、大規模な離島奪還訓練を行っていたという逸話が残っています。今求められているのは、先人たちのこのしたたかさではないでしょうか。
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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