2018年02月15日

定年延長は人手不足の処方箋か?

 今週はインフルエンザにかかりまして月曜~水曜のボイスをお休みしてしまいました。ご迷惑をお掛けした関係各位、特に急な代打を引き受けてくれた箱崎アナ、新行アナには足を向けて寝られません。ありがとう。持つべきものは頼りになる後輩だなぁと、頼りがいのない先輩は病床でラジオを聴いておりました。
 私は先に患った息子の看病をしていて伝染りましたが、まだまだ猛威を振るっております。どうぞ皆様、ご自愛くださいませ。

 さて、そんな折りに家で新聞をチェックしていてひっくり返ったのがこの記事。

<25年までに厚生年金の支給開始が男性で65歳に引き上げられ、定年や再雇用で収入が減る「60歳の崖」が課題となっている。人手不足が続くなか、経験豊かなシニアの士気低下を防ぎながら、雇用を維持する動きが広がってきた。>

 もともと、2013年の高年齢者雇用安定法の施行で、企業は定年後に働きたい社員を年金支給が開始される65歳までは雇用しなくてはならないことが決まっています。雇用の方法は3通りあって、一つは定年延長。2つ目が嘱託などの再雇用、そして定年制度そのものの廃止です。この内、厚生労働省の就労条件総合調査の最新の数字、平成29年の調査結果では、83.9%の企業が再雇用制度を採用しています。
 理由は記事にもある通り、人件費の問題。
 ここ10年で定年を迎えてきた世代と言えば、団塊の世代。年功序列賃金制度のど真ん中にいた彼らは総じて定年時に高い賃金を得ていました。現役時代は、若い時期に低賃金で苦労したんだから仕方がないだろうと正当化されてきましたし、一度上げた賃金をおいそれと下げられないのが日本型雇用制度。定年という区切りでようやく下げることを呑ませられるという経営側の意図もあり、多くの企業がこの制度を採用してきました。

 ところが、このところ定年後再雇用の制度を見直して定年を延長しようという動きがにわかに出て来ています。その動きは、民間のみならず、官にも。

<政府は、原則六十歳と定める国家、地方公務員の定年を三年ごとに一歳ずつ延長し、二〇三三年度に六十五歳とする方向で検討に入った。人件費の膨張を抑制するため、六十歳以上の職員の給与を減額するほか、中高年層を中心に六十歳までの給与の上昇カーブを抑える考えだ。>

そして、メディアにも。

<朝日新聞社は10月から、社員の定年を65歳に延長した。勤務日数や転勤に一定の制約を設けていた従来のシニアスタッフ制度に代えて「60歳以降も戦力として働いてもらう」(重野洋労務部長)ことが狙い。>

 子育て世代に手厚く!と旗だけは振りますが、やっていることは官もメディアも高齢者優遇。そもそも高い人件費を多少押さえたとしても、上記日経の記事にある通り60歳到達前の8割の水準が維持されれば、それは若手を2~3人分になるでしょう。人手不足を理由に、今すでに自分達の手元にいて、新たに採用活動しなくて済む60歳以上を繋ぎ止めれば当座はしのげるでしょう。問題は、この手当ては5年、10年先を見据えていないことです。皮肉にも、同じ昨日の日経にこんな興味深いデータがありました。

<厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、2016年の正社員の所定内給与(6月分)は32万1千円と、4年前から4700円増えた。ところが、45~49歳は7千円減り、40~44歳は4500円減った。20~34歳や55~64歳といった年齢層は7千~8千円程度増えているのと対照的だ。>

 記事にはグラフがあって、それを見ると一目瞭然なのですが、30台後半から40代の世代がM字を描くようにボコッと凹んでいます。この世代は、本来ならば働き盛り。ある程度のスキルを積み、現場を指導する立場で、これから社会を背負って立たなくてはいけない世代です。子育て世代で最も消費性向が高い世代でもあり、少子化を問題視するのであればこの世代がターゲットとなるはず。ところが、その世代を著しく冷遇しているのがデータからも読み取れます。
 この世代の賃金がなぜ伸びていないのか、様々な分析がなされていますが一つの説として提示されているのが、この世代に多い長期非正規労働者の存在です。社会に出たタイミングでデフレの真っ只中。正社員の門戸は限りなく狭く、仕方なく非正規労働の道を選択した人が、そのまま今も非正規のままでいます。今非正規の賃金は上がってきていると言われますが、社会に出てこの方スキルを上げる機会を奪われたこうした団塊ジュニア、ロストジェネレーション世代は、そのスキルの乏しさ故に賃金上昇の波からも取り残されつつあるのかもしれません。

 定年延長も結構ですが、ぜひとも働きに見合った給与体系にしてもらいたいものです。「賃上げしました!が、そのほとんどが定年延長分に消えました...」では「働き方改革」が聞いて呆れます。今のままだと、おそらくそうなってしまうでしょう。
 人手不足というならば、ロスジェネ世代のスキルアップと正規雇用化が先なのではないのでしょうか。少なくとも、彼ら彼女らは定年を迎える方々よりは20年は若いはずです。
そして、もう一つ心配なのが、定年延長で管理職の椅子がますます空かなくなること。部署の統合や企業統合などで管理職のポストはどんどん減っています。それゆえ、課長・部長といった管理職に就く年齢も高くなる傾向にあるのです。


 会社員生活で一度も部下を持たずに定年を迎えるという人が続出する時代ですが、引退するはずの人が居座り続けることでその傾向がますます加速します。ただでさえ迅速な意思決定が求められる時代なのに、日本企業だけはいつまでも判子のやり取りに終始している。もうこれを冗談として笑えない時代に来ています。
 組織の平均年齢が上がれば上がるだけ、新しいことに挑戦しようとする意欲が失われることが研究で証明されています。ただでさえ数の少ない若手が新しいことを提案しても、大多数のベテランがあれこれと難癖を付け、なかったことにしてしまう。他人事じゃないって方、多いんじゃないんですか?
 定年延長は、延長されるご本人にとってはもちろんバラ色の話なのでしょう。減ると思っていた収入があまり減らずに済むんですから、こんなに嬉しいことはない。ただし、そこには世代間格差拡大という落とし穴があることも忘れないでいただきたい。苦労するのは、ちょうどあなたの子供の世代です。

 それともう一つ。定年延長するにせよしないにせよ、原資は経済成長がもたらすということは論を待ちません。まずデフレ脱却。経済成長。いずれにせよ議論はそれからです。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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