2018年02月08日

身から出た錆

 週明けの日経平均株価が1000円を超える下落を見せ、巷ではいよいよアベノミクスが岐路に差し掛かったというような論調が強くなってきました。政権発足当初のアベノミクス3本の矢というと、金融緩和・財政出動・構造改革でしたが、その中でも最も機能したのが1本目の矢である金融緩和。この副作用が大きくなってきたというのが、典型的なアベノミクス批判のパターンです。


日銀の黒田総裁は会見の度に大規模緩和は継続すると言い続けていますが、大手メディアの経済部やいわゆる"市場関係者"とされる人たちの中では、それを真に受ける人はいません。型的な例として挙げた上記読売の社説でも、
<金融緩和策が近く縮小に向かう、との見方が市場関係者の間で増えている。景気拡大は戦後2番目の長さに達し、雇用の改善も進んでいるためだ。>
と解説しています。
 たしかに雇用の改善は進み、足元の完全失業率は2017年通年でも2017年12月でも2.8%まで来ています。
一昔前ならば完全雇用と言われた状況。GDPも順調に伸びているということですが、肝心の物価上昇率は生鮮食品を除く総合で2017年12月はプラス0.9%と目標の2%に遠く及びません。
 さらに、昨日発表された厚生労働省の毎月勤労統計調査によれば、その微々たる物価上昇率よりも名目賃金の伸びはさらに弱く(0.4%)、結果的に実質賃金は2年ぶりのマイナス水準(-0.2%)に落ち込んでしまったようです。
 ん~、"雇用の改善"は、強いて言えば量の部分は改善したのかもしれませんが、質の部分(賃金水準など)はまだまだ。これで金融緩和策縮小となれば、現在正社員で雇用が安定している方々にとっては問題ないかもしれませんが、これから労働市場に参入しようとする若者や、やむ終えず非正規でいる方々にとっては悲報以外の何物でもありません。

 ただ、こうしたいわゆる"出口戦略"報道に一定の信憑性を与えてしまっているのが、日銀執行部も実は金融緩和を止めたがっている!という専門家や経済メディアの解説です。たとえば、こんな記事。

<日本銀行が22、23日に開いた金融政策決定会合では、1人の政策委員が、今後2%に向けて物価が上昇し経済の中長期的な成長力が高まる中で、「環境変化や副作用も考慮しながら、先行き望ましい政策運営の在り方について検討していくことも必要になるのではないか」と述べた。>

 この見出しとリードの一行目だけを読むと、ああ日銀執行部の中にも危機感があるのか!という印象になりますよね。ところが、これが典型的な"チェリーピッキング"。自分の求める美味しいネタだけを切り取って出してきた記事です。というのも、この記事のソースになっている日銀金融政策決定会合の「主な意見」。実は、これだけでなく会合で出た様々な意見が箇条書きになっているものなのです。


 会合参加者の意見を数えてみると、オブザーバー参加している政府関係者(内閣府・財務省)を除いても27個あります。そのうち、副作用云々を言っているのは1つだけ。その上、直後には、
<2%の「物価安定の目標」まで距離がある現状では、市場で早期に金融緩和の修正期待が高まることは好ましくない。>
と、出口戦略が喧伝されて市場に間違ったメッセージが送られることに対して釘を差すような意見も公表されています。上記ブルームバーグの記事も、本文中ではこうした正反対の意見も紹介していますが、ならばなぜ見出しはミスリードを誘うようなものになっているのか?冒頭で紹介した読売の社説など、そのミスリードにいとも簡単に乗せられています。

<日銀が先月開いた金融政策決定会合では、複数の委員が緩和策の見直しに言及した。>

 ただし、ミスリードなのは経済メディアだけでなく、日銀のオペレーションもミスリードを誘うような動きをしているのも事実。このブログでも日銀が目立たないように金融緩和の手を緩めている、いわゆる"ステルステーパリング疑惑"について書いてきました。アクセルの踏みが緩くなってきているのではないか?という趣旨で書いてきたのですが、ひょっとするともはやブレーキかもにも足がかかっているのかも知れません。

<日銀の資金供給量(マネタリーベース)が黒田東彦総裁の下で初めて減少に転じた。1月に供給したお金の量(季節調整済み)は昨年12月に比べて年率換算で4.1%減った。減少は2012年11月以来、5年2カ月ぶりだ。>

 こういうデータが出てくるから、市場から出口に入ったんじゃないか?と疑われるわけで、黒田総裁以下日銀関係者が「緩和は続けるって会見で言っているのに市場は誤解している」なんてボヤいても身から出た錆。言行不一致を突かれているわけですから。かくなる上は、より一層の緩和でもって日銀の意思をよりハッキリと示してもらいましょう。でなければ、市場の疑念は払しょくできず、日銀が密かに金融緩和を終了しようとしているという疑念が既成事実となってしまいます。ズルズルと明言せずに金融緩和を閉じていくという悪いシナリオですね。ある意味で官僚らしいサボタージュからの既成事実化ですが、それをガバナンスと言えるのか?トップの言っていることを現場が聞かないという現場の暴走を、専門家もメディアもこぞってもてはやしている構図は、私には戦前の軍部も彷彿させるおぞましいものに映るのですが...。
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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