2017年12月26日

海の守りは?

 今日の読売朝刊の一面を見て、おおこれが表立って議論できるようになったかと感慨深い思いになりました。

<政府は、海上自衛隊最大級の護衛艦「いずも」を、戦闘機の離着艦が可能となる空母に改修する方向で検討に入った。
 自衛隊初の空母保有となり、2020年代初頭の運用開始を目指す。「攻撃型空母」は保有できないとする政府見解は維持し、離島防衛用の補給拠点など防御目的で活用する。米軍のF35B戦闘機の運用を想定しており、日米連携を強化することで北朝鮮や中国の脅威に備える狙いがある。>

 いずもが運用を開始した当時、自衛隊の関係者と話をすると「甲板の塗料を耐熱仕様に変えるなどのちょっとした改修をすれば、垂直離着陸機を載せて空母として運用できる」と言っていました。ただ、「これは表にできる話ではない。マスコミに何を言われるかわからない」と必ず言い添えていましたが...。
 記事にあるアメリカ軍のF35Bは、まさに垂直離着陸可能なステルス戦闘機。航空自衛隊には、同じF35でも垂直離着陸はできないF35Aを導入しています。北朝鮮のリスクや中国との東シナ海での対峙を考えると、ようやくといった感もありますが、何にしろこれで議論の俎上に上ることが重要。各紙も、夕刊やウェブ版で追いかけています。

<政府はこれまで「攻撃型空母」の保有は必要最小限度を超えるため認められないとの憲法9条解釈を継承しており、解釈の見直しや整合性の確保が課題になりそうだ。
 小野寺五典防衛相は26日の記者会見で「防衛力のあり方は不断にさまざまな検討をしているが、F35Bの導入や、いずも型護衛艦の改修に向けた具体的な検討は現在、行っていない」と述べるにとどめた。>

 小野寺大臣は今日の会見でこのように述べていましたが、まさにこの憲法9条2項(戦力の不保持)との整合性、専守防衛の範囲内かどうかという日本独自の線引きがここでも立ちはだかります。大臣の発言も、そこを意識して全否定はしないが積極的に肯定も出来ないという、奥歯に物の挟まったような言い方に終始していました。
 この件もそうですし、自衛隊の武器使用要件もそうですが、この国を守るためにどうするという議論の前に憲法に整合するかどうかが議論の対象になるという、安全保障問題を議論するときに必ず陥る違憲合憲の不毛な議論がここでも繰り返されそうです。そして、この不毛な議論は、来年俎上に上がるであろう憲法9条の改正でも終止符を打てるかどうかわかりません。今年5月に総理が提案し、先日の自民党の憲法改正推進本部での中間とりまとめでも両論併記の片方として書き込まれた「9条3項自衛隊明記案」で改憲が実現したとしても、2項の扱いが今まで通りであれば当然この不毛な議論が繰り返されることになります。

 ま、この議論は来年に持ち越すとして、もう一つ、我が国の守りで心配なのは、護衛艦いずもの空母化というような自衛隊の強化だけで満足していないかということ。今日の放送で宮崎哲弥さんが指摘していましたが、自衛隊が離島防衛で出番となるということは、防衛出動を発令するということ。これは、日本のガラパゴスな基準ではなく国際標準で見ると軍隊が出てくるということを意味します。すなわち、限りなく戦争状態に近い状態に緊張のレベルを引き上げるということ。
 現状、東シナ海で考えられるシナリオは、中国側が台風接近やその他荒れた気象条件を理由に、多くの漁民が緊急避難的に離島に上陸するというもの。その漁民がたまたま自分を守るために重武装していて、かつ100人以上のまとまった人数で、気象条件が好転してもなぜか島を離れず居座っている。この時、果たして防衛出動で自衛隊を離島へと差し向けられるのか?という命題です。おそらく、答えはNoでしょう。正規の人民解放軍ではなく、武装していても一応形の上では一般人の漁民なので、ここは警察力で対処する必要があります。
となると、海上保安庁の出番ですが、これが心許ない。
 もちろん、現場は血のにじむような努力を重ね、身体を張って海を守っています。しかしながら、その努力、献身をこの国は予算でもってきちんと報いているのでしょうか?同じ海の守りでも、海自と海保、一字違いで大違いとなってしまっています。まずは、その予算規模。

<政府は2017年度予算案で、海上保安庁の経費を過去最大の2100億円前後とする方針だ。前年度の1877億円から200億円程度増やし、大型の巡視船を新造する。沖縄県の尖閣諸島周辺の警備態勢を強化する。アジア情勢の緊張の高まりで、安全保障や警備コストの増加が避けられなくなっている。>

この機関別内訳(56ページ)の海上自衛隊の平成30年度予算額を見ると、1兆1433億円。海自と海保では6倍弱の開きがあります。もちろん、警察力を担当する海保と、抑止力を担保する海自では役割が違うのですから装備が違う。その分予算額が異なっていても全く問題ありません。が、領海とEEZ(排他的経済水域)を合わせれば世界第6位の広大な面積をカバーしなければならない海保の予算が海自と6倍弱もの開きが出来るものでしょうか?

 続いて人員面では、平成29年度の定員で、海保13744人(平成30年度定員要求概要から)に対し、海自45364人(平成29年度防衛白書から)。もちろん、各々定員はこの人数ですが、充足率100%とはいきませんから現員はもっと少ない数字になっています。しかし、人員面でも3倍強の開きがあるわけですね。

 これに加えて、離島防衛の際に陸上でどこまで活動ができるのか、武器使用に関して警察比例の原則の例外を認めるのか等々、海上保安庁法の改正が必要であったり、陸上で外国の海上民兵のような存在を取り締まるとすると、特殊部隊をどう養成していくのかといった課題は山積です。

 海保の関係者に現状を聞くと、
「海保の活動は日本近海での哨戒活動だけではない。海洋国家・日本には数多くの灯台があり、そのほぼすべてが無人化されているとはいえ、メンテナンスに膨大な人数を割かなければ海運が止まってしまう。また、海図の作成、海難事故の救助なども仕事。ここに尖閣周辺での哨戒活動に、最近の北の漂流船対応となるともはや兵站は伸び切っている状態。とはいえ、海自に助けを求めるのも、特に尖閣や漂流船対応では徒に軍隊を出すフェーズに緊張を高めてしまうリスクもあり、ここは海保が踏ん張るしかない。厳しい状況に変わりはない」
と話してくれました。たしかに、海の警察であるのみならず、海の救急でもあり、海路のメンテナンスまでも業務。海図の作成も重要な任務です。それを1万3千人足らずで何とか回しているのが現状。自衛隊の員数不足もそうですが、心意気だけで長く持つものではないはずです。

今年一年、ザ・ボイスをお聞きくださりありがとうございました。来年は1月2日からスタート。2日は『ザ・ボイススペシャル 福島県の農業は今』と題し、取材レポートをお送りします。来年も変わらぬご愛顧をよろしくお願いいたします。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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