2017年12月19日

与党税制改正大綱で大騒ぎ?

 先週、与党税制改正大綱が決定されました。家計への負担が多くなると、各紙は一面で大きく取り上げました。

<自民・公明両党は14日、2018年度与党税制改正大綱を決定した。焦点となっていた所得税改革では、子どもを持つ人や介護を必要とする人に配慮しつつ年収850万円超の会社員を増税、フリーランスや自営業の人を原則減税とする。たばこ税を8年ぶりに増税するほか、国際観光旅客税、森林環境税といった新税の創設も盛り込んだ。家計にとっては増税となる改正となったが、来年度改正による国・地方合わせた税収は、年2800億円程度の増収となる見込み。>

 だいたいどの紙面も、総額2800億円分の増税になって庶民への負担が増える!と批判的に伝えています。たしかに、2800億円、途方もない額で、お札を束にしてもどれだけのものになるのか想像もつきません。ただ、この2800億円、内訳をみると大半をたばこ税の増税が占めています。

<約2800億円の増収分のうち、所得税改革は900億円、たばこ税などその他が1900億円となる。>

 たばこを吸う方々にとっては非常に大きい、一本3円の増税ですが、4年かけての増税です。また、アイコスなどの加熱式のたばこも増税ですが、これも5年かけてのもの。2018年度与党税制改正大綱というと、来年すぐに上がるようなイメージですが、実はすぐには上がらないのです。とはいえ、たばこ税増税は今回の増税全体の3分の2を占める大きなものですから、これについて批判するのなら話はわかります。しかし、各紙社説の批判の矛先はそこではありませんでした。各紙の見出しを見てみましょう。


 中身をみても、全体の3割に過ぎない所得税改革をやり玉に挙げています。判を押したように使っている表現が、「取りやすい所から取る」というもの。
 たしかに、年収850万円以上の給与所得者といえば、給料から税金が天引きされているサラリーマンが主体。対象となるのは、230万人といわれています。230万人といえば大きい数字に思いますが、現時点で最新の平成27年度の給与所得者数は5646万3千人。ということは、対象の230万人は給与所得者全体の4%ほどに過ぎません。

 取りやすいところから取るというのは確かにその通りですが、ならば給与所得者以外の収入の追跡をしっかりと行うべきと主張するのが筋でしょう。となれば先進各国と同じように国税庁を改組して歳入庁を創設し、社会保険料も含めてきちんと取るように主張するのが王道ではないでしょうか?何を"忖度"したのかは分かりませんが、そう主張した社説は見当たりませんでした。

 また、この所得税改革は対象人数、対象金額どちらをとっても全体からすれば小さなものを大きく見せているわけですが、これを年収別にどれだけの増税になるかを示すと、年収900万円~950万円で年間1万5千円の増税、年収5000万円以上では34万2千円となります。

 たしかに、大きな数字です。財布からいきなり1万5千円抜かれたら誰だって怒り出しますよね。ただ、全体で2800億円!年収850万円以上なら1万5千円増税!重い負担!と批判していますが、では問いましょう。消費税を増税したら、一体いくらの増税になっているのか?

 同じように総額で出すと、ざっくりと消費税を1%増税するとおよそ2兆円の増収と言われています。2800億円と2兆円。所得税増税900億円と消費税増税2兆円。まったく、オーダーが違いますよね。しかしながら、消費税増税を決めた時に「増税2兆円!家計への負担重く」なんて見出しで批判した新聞が一つでもあったでしょうか?その上、消費増税は所得による軽減などは一切ありません。民主党(当時)が主張した給付付き税額控除はその可能性を探るものでしたが、あっけなく葬り去られました。消費税を10%に増税した際には、食料品やなぜか新聞にも軽減税率が低所得層への負担軽減策として8%に据え置きとなりますが、それがどこまで負担軽減策になるのかは議論が分かれるところです。

 では、2019年10月の消費税10%への増税の際にはどれだけの負担増になるのか?最新の家計調査で、収入を消費にどれだけ回すかの割合を表す消費性向は、勤労者世帯の平均で72%と言われています。(2017年7月~9月期家計調査報告による)
 ざっくりとした試算ですが、年収300万円の勤労者世帯を例にとると、消費性向72%ですから消費額は216万円。仮にそのすべてが消費税10%の課税対象だとすると、216万円×2%(増税分のみを計算)で4万3200円!
 軽減税率の適用があるので実際の増税分はもう少し小さな額になるかもしれませんが、一方で消費性向も低所得層ではもっと高くなりますから、ざっくりとした数字としては参考になると思われます。ちなみに、年収900万円のモデルケースでは、この3倍の数字になるので13万円弱の増税となります。
 この試算と比較して、年収900万円の方でも今回の所得増税で増えるのは1万5千円です。片や年収300万円の世帯の消費増税で4万円強。こなた年収900万円の所得増税で1万5千円。

 どうでしょう?問題意識が偏っていないでしょうか?

 今回の税制改正に対する主要メディアの問題意識はよくわかりました。であれば、2019年10月の消費税の10%への増税の際には、その負担の大きさを今回以上の規模で報じてくれますよね?何しろ、負担額で10倍以上の差があるわけですから。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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