2017年10月11日

与野党の経済政策とCDS

 第48回衆議院議員選挙が公示され、12日間にわたる選挙戦に突入しました。経済論戦に関しては、消費税の増税分の使い道を変更すると公約した与党に対し、野党はいずれも消費税増税の凍結、あるいは廃止を主張しています。こうした与野党の経済政策の主張に対し、従来から財政健全化のためには消費税を引き上げるしかないと主張してきた新聞の経済面はこぞって批判しています。政治的なイデオロギーには右左がありますが、こと経済政策に関しては左右の別なく増税を主張するタカ派です。

『【経済Q&A】消費増税 安倍政権、使途変更へ 財政再建に遅れ』(10月4日 東京新聞)https://goo.gl/Z8tLnK
<新党の「希望の党」と「立憲民主党」のほか、共産党と社民党も景気への悪影響から、増税に凍結か反対の考えです。ただ、財政再建が進まないことでは与党と同じです。
 国の一七年度予算で社会保障費は約三十二兆円あります。今後、第二次世界大戦直後に生まれた「団塊の世代」の高齢化が進み、医療・介護費の急増が見込まれています。それなのに、将来世代の負担を軽減するための道筋は、どの党も明確に示していません。>

『衆院選 財政再建遅れ金融緩和、長期化も』(9月29日 産経新聞)https://goo.gl/9rAkwC
<実質的に選挙戦が始まった衆院選に向け、与野党からは2017年10月の消費税増税の使途変更や凍結を求める声が相次いでおり、財政再建の遅れが不可避になっている。日銀の大規模金融緩和で低金利が続いているが、政府が赤字国債を増発する事態になれば国債の信認が揺らぎ、金利の上昇圧力が強まるだけに、日銀は難しいかじ取りを迫られそうだ。>

 左の東京新聞から右の産経新聞まで、増税増税増税。増税した分を借金返済に回す緊縮財政をやらないと、財政再建が進まず国債の信認が揺らぐ!国債金利の上昇圧力が高まる!という言い回しまで、右から左までコピペかというぐらいに同じ。こんな現状を見てみると、経済欄に関しては読み比べる必要などないのではないかと思ってしまいます。
 与野党ともに財政健全化に後ろ向きであると、手当たり次第に批判を繰り広げる新聞各紙経済面。彼らがその主張の根拠の一つに挙げているのが、国債のクレジットデフォルトスワップです。

『CDS』(9月29日 時事通信)https://goo.gl/uF9Xcr
<CDS(クレジット・デフォルト・スワップ) 国や企業が破綻などにより債務不履行に陥るリスクを取引する金融商品。事前に保証料を支払えば、保有する国債や社債が焦げ付いても、損失の補填(ほてん)を受けることができる保険の役割を持つ。保証料は対象先の信用度に応じて変動し、信用が低下すると保証料は上がる。次期総選挙で消費税増税や増収分の使途見直しが焦点となる中、財政悪化への懸念から日本国債の保証料が上昇している。>

 わざわざ用語解説の中にも財政悪化の懸念から保証料が上昇していると入れ込んでくるあたり、増税へのあくなき情熱を感じます。たしかに、9月に入ってから日本国債のクレジットデフォルトスワップは上昇しているようです。

『市場、選挙後の財政悪化を警戒 国債の信用力が低下』(9月28日 日本経済新聞)https://goo.gl/vgEpJx
<金融市場で日本の財政悪化への警戒感が高まっている。日本国債の信用力を映すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率がここ数日で急上昇し、約1年2カ月ぶりの高水準をつけた。長期金利もおよそ2カ月ぶりの水準まで上がった。衆院選を前に、安倍晋三首相をはじめ、どの政党が勝っても財政再建の道は険しいという見方が広がる。>

 CDSが上昇しているということは、市場が日本国債の焦げ付きリスクが高まっていると感じている証拠。たしかにその通りです。が、それが与野党の公約が発表されたタイミングだったとしても、果たして本当にそれが理由でCDSが上昇しているかどうかは検証が必要です。

 日経の記事に添えられているグラフをよく見てみましょう。すると、7月までは20ベーシスポイント台半ばで推移していたCDSが、8月に入ったあたりからぐっと上昇しています。
 あれ?8月?その頃は解散の「か」の字も意識されていなかったころ。当然、政権の消費増税分の使い道変更も発表されていなければ、従来から消費税廃止や凍結を主張していた共産党や日本維新の会などを除き、野党がそろって消費税増税見送りを主張していたりはしませんでした。むしろ、前原さんは消費税を15%まで上げて、それを財源に社会保障を充実させるとして民進党の代表選を戦っていたはずです。「選挙後の財政悪化を懸念」というのは、ちょっと無理があるのではないでしょうか...?

 もう一つ、与野党の選挙公約発表というのは専ら国内的な出来事です。ということは、9月に日本国債のCDSが日本以外の国債のCDSとは違う値動きをしているはず。そこで、お隣の韓国国債のCDSを調べてみますと、これまた不都合な真実が明らかになりました。

『北朝鮮問題が引き続き市場の重石に』(9月26日 マネースクウェア・ジャパン)https://goo.gl/JMUR5i
<地理的に最も北朝鮮リスクが懸念されるのは韓国と考えられます。その韓国国債に対する保険料の意味合いを持つCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は9月22日時点で72.14と、北朝鮮が核実験を行った後の9月6日72.25と同水準です。>

 記事の中に韓国国債に対するCDSの推移を示すグラフが貼ってありますが、やはり8月からググッと上昇しています。そして、その理由として記事の中には「北朝鮮リスク」と明確に書いてあります。あらま。

 どうして同じタイミングで、地政学的に見ても同じようなリスクを抱えている日本と韓国の国債CDS上昇の理由がこれほど違うのでしょうか?韓国国債と日本国債にそんなに特性の相違があるのでしょうか?もちろん、韓国国民、日本国民にとっては思い入れがあるのかもしれませんが、取引の大半を占める国際的な機関投資家にとっては運用先の一つにすぎず、その投資行動は一貫しているはずです。であれば、この情勢下、国内の選挙というミクロの事象ではなく、よりマクロな視点に立って北朝鮮リスクを睨んでCDSが上昇していると結論付けるほうが理にかなっているのではないかと私は思います。

 新聞各紙が社論として増税推進を掲げるのは言論の自由だと思いますし、それが政治的イデオロギーとかかわりなく各紙が一緒なのもきっと偶然の符合か知識な豊富な経済記者の皆さんが財政を憂うと同じような結論になるのでしょう。そこまでは、まだわかります。しかしながら、どうして揃いも揃って債務不履行リスク(CDS)上昇の原因を読み誤っているのでしょうか?それで、有権者には冷静な判断が求められるとか主張できるのでしょうか?判断はこっちでするから、まずは正確な情報が欲しい。まっとうな有権者はそう思っているのではないでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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