アメリカ、ラスベガスで凄惨な銃乱射事件が起こりました。
<アメリカ・ラスベガスで、1日、銃の乱射事件があり、これまでに59人が死亡、500人以上がけがをし地元のメディアは、アメリカで起きた銃の乱射事件としては過去最悪だと伝えています。乱射したと見られる男は現場近くのホテルの部屋で死亡しているのが見つかり、警察は、動機などについて調べています。>
海の向こうの話で、かつ銃社会アメリカでの事件ということで、日本とは縁遠いようにも思ってしまいます。事件を起こした容疑者の事件の動機もまだ解明されていない段階で、おそらくテロではなく容疑者の個人的な内心の問題が大きいのだろうと報道されていますが、ソフトターゲットを狙う大規模殺戮と考えれば、これから大イベント目白押しの我が国はとても他人ごとではいられません。我が国の大イベントというと、2020年に迫った東京オリンピック・パラリンピックが思い浮かびますが、警察関係者によると実はその前の年、2019年も大事な年なのだそうです。
「2019年にはまずラグビーのワールドカップがある。世界的に見ればラグビーはメジャースポーツで、海外からVIPもかなり訪日するだろう。そのうえ、この年にはG20の日本開催が決まった。去年のG7でもあれだけ大規模な警備が必要になったが、G20はさらに多数の海外の国家元首クラスが押し寄せる。考えるだけでめまいがしそうだ...」
そもそも、テロの可能性というものは、「実行の難易度×得られる政治的効果の大小」で表されます。今まで日本がイスラム過激派のテロの脅威を意識せずに済んできたのは、この前項の実行の難易度に負うところが多いようです。テロに狙われなかった、あるいは狙われても結果として実行に移されなかった、実行されても未遂に終わったり小規模に終わったのは、実行の難易度が高かったから。移民や難民を実質的に制限していること、それゆえ国内にムスリムが少なくネットワークが構築しづらいこと、言語も独特であることなどが実質的な障壁となっています。このことは、2001年のアメリカ・同時多発テロ事件の計画者のハリド・シェイク・モハメド被告の供述からも明らかです。
しかしながら、警戒すべき対象はイスラム過激派によるテロだけに限りません。ホームグロウンと呼ばれる、国内居住者・生活者によるテロなどの大規模殺戮の可能性があります。冒頭で挙げたラスベガスの銃乱射事件のように、単独犯もあり得るわけです。さらに、インターネットの進化による脅威の増大も懸念されます。ネットに爆弾のレシピがあるこの時代。2008年には日本でも、未遂に終わりましたがネットでレシピや材料を仕入れ、皇居のお堀で爆発を企図したという罪がありました。
もちろん、警備をする側もそれらのリスクを分析し、対処しています。日本のテロ対策について聞いていくと、特徴は緊密な官民連携にあると言います。諸外国と違い、我が国は犯罪の予兆を察知しても予防拘束はできません。また、盗聴なども人権上の観点からみだりに使用することは世論が許さない傾向があります。
警備の側からすると不利となるこれらの状況を埋めて余りあるのが、民間からの協力・支援です。施設管理者やイベント主催者、鉄道事業者の協力、具体的には、伊勢・志摩サミットの時にゴミ箱やコインロッカーの封鎖が行われました。サミット会場周辺や近郊の名古屋はおろか、東京でも粛々と封鎖が行われ、それに対して国民は文句ひとつ言わない。この光景は、諸外国の警備関係者を感嘆させたそうです。
また、爆発物の作成に使われる薬品などは、販売時に薬局やホームセンターで記録を取り、通報するシステムが構築されています。実際にこうした通報で爆発事件を未然に防いだ事例もあり、いずれもテロリストが嫌がる環境を構築していると言えます。
さらに、先進技術も日本の強みの一つ。先日も、テレビでこんな特集が組まれていました。
<世界各国で人が多く集まる場所を狙ったテロが相次ぐ中、日本でも大型車や刃物を使った「ローテクテロ」への警戒に警察は力を入れている。また、テロや事件を未然に防ぐための「顔認証システム」や「不審物・不審者検知」など「AI・人工知能」を使った技術開発もめざましい。2020年に向けての、テロ対策の最前線を取材した。>
顔認証や物体認証システムの優秀さ、街頭の至るところに設置されている防犯カメラなどなど、インフラ面では日本のテロ対策は世界レベルにあると言っていいようです。
では、どこが足らないのか?前述の警察関係者は、
「個々は優秀でも、問題はそれらが有機的に結合しているかどうかです。物体認証システムで不審物を見つけ出したり、特異な行動をしている人物を特定してアラートを鳴らし、それを現場の警備担当者の行動につなげることができるのかが問題です。今は犯罪が起きた後の捜査資料として防犯カメラの映像が出てきますが、これらは通常民間の管理下にある。商店街であったり、各店舗であったり。そうしたバラバラに存在するインフラを統合し、一覧できるようなシステムを構築できるかどうか?今後のテロ対策はそこにかかってくると思います」
と話してくれました。
IoTの進化でそれぞれの機器がつながるようになれば、技術的には統合するのはたやすいことのようです。問題は、世論。こうしたことを言い出すと、「監視社会がやってくる!」というキャンペーンが目に浮かびます。自由と安全のどちらを取るのか?テロ等準備罪法案審議の時に論点と指摘されながら議論が生煮えに終わったこのテーマ。
2019年までにはある程度の結論を出さなければなりませんが、実はあまり時間がありません。議論し、結論を出し、具体的な対策を構築するのに、あと1年半ほどしかないわけですね。本来ならば、選挙の争点の一つに挙げられてもいいような気もしますが...。