2017年06月26日

国政選挙と地方議会選挙の違いとは

 先週金曜、東京都議会議員選挙が告示されました。259人が立候補し、7月2日の投票日まで9日間の選挙戦に突入します。

『「豊洲」「五輪」で舌戦、夏の首都決戦幕開け』(6月23日 読売新聞)https://goo.gl/QCFCMg

 小池都知事の率いる地域政党都民ファーストの会がどれだけの議席を占めるのか?対する都議会自民党は?という、ある意味の陣取り合戦に注目が集まっていますが、今日は少し、国会議員と地方議員の違いについて考えてみたいと思います。そりゃ、国会議員は国全体を考え、地方議員はその地方のことを考えているんだから、仕事が違うんでしょと言われればその通りなんですが、考えてみれば国政と地方政治ではそもそも統治方法が違うんですね。ですから、本来は議員の役割も違うはずなのです。

 高校の公民や現代社会の授業のおさらいですが、我が国の国政は議院内閣制を取っています。我々有権者は各々の選挙区の国会議員を選び、その議員が組織する国会で多数を取った政党の代表が内閣総理大臣に選出されるというプロセスを経ます。それゆえ、特に総理の指名をする衆議院選挙は政権選択選挙となり、現在の小選挙区比例代表並立制というシステムの上では、各々の議員の個性も重要ですがそれ以上にどの党派に所属しているかが投票する際の重要なファクターになります。

 一方、地方政治は二元代表制と呼ばれる統治制度。すなわち、首長と議会議員がそれぞれ選挙で選ばれる制度です。世界で最も有名な二元代表制といえばアメリカの大統領制ですので、特に大きな都道府県の首長選挙などで「いわば大統領制」といったりします。

 アメリカの大統領制も、大統領に大きな権限があり、その代わり上下両院の議会や司法機関といった権力機構でその強力な権限を持つ大統領を監視するというシステムが組み込まれています。現在のトランプ大統領のここまでの政権運営はその好例と言えるでしょう。たとえば「イスラム教徒の入国拒否」と言われた、特定の国からの入国禁止措置は、大統領令で実行に移され、それを司法が効力停止の仮処分をして阻止しました。大統領が選挙での公約としていた減税や公共事業の拡大については、大統領側は教書という形で提案までしかできず、実際に国家予算を決定する権限は連邦議会に属しています。大統領令である程度の拠出は出来ますが、最終的には議会で予算が承認されなければ言うだけになってしまいます。
 外交・安全保障分野でも大統領にある程度の権限は委ねていても、独走は許さない仕組みになっています。記憶に新しいところでは、TPPの交渉について当時のオバマ大統領が議会から交渉権限(貿易促進権限=TPA)をなかなか与えられずに苦慮していました。もちろん、議会の多数党が共和党で大統領が民主党というねじれ国会の中での政治的な駆け引きの側面も多分にありましたが、それでも大統領が単独で外交交渉をまとめてこないように権限を縛るシステムがあらかじめ内蔵されているわけですね。

 日本の地方政治も、知事には強大な権限が付与されています。その上で、議会にその権限の行使を監視する道具立てがされているのです。知事の権限の強さは様々ありますが、まず予算を編成し、執行する権限があります。これにより、都道府県が掌握する全ての事業は(形式的であっても)知事の一存によるわけです。さらに、これを知事部局職員の人事権を掌握することで担保しています。また、議会が議決した条例であっても知事には拒否する権限があります。さらに、議会を経ずとも、一定の条件(時間的余裕がないなど)を満たせば独自の判断で条例を制定することができます。(専決処分権限)

 こうした大きな権限を持つ首長に対し、本来地方議会議員には権力を監視するという役割があります。極端に言えば、時には知事に対してオール野党のようにふるまうことが求められるのです。知事の議会の関係について、総務省のホームページに分かりやすい図がありました。

『地方議会制度の概要④ ~議会の権限~』(総務省HP)https://goo.gl/CjKcGJ

 さらに、この図にはない実際的な知事権限を縛るシステムに選挙制度があります。地方議会議員の選挙はいわゆる中選挙区制。今回の東京都議会選挙でも、市区町村のそれぞれの選挙区に人口に応じ1人区から8人区までがあります。1人区ではある意味勝者総取りとなりますが、複数区では有力政党・会派がおのおの議席を分け合う形になりますので、余程の風が吹かない限り単一政党が過半数を獲得するということになりません。

 かつて、大阪維新の会が大旋風を巻き起こしていた時期でも、特に大阪市において維新は単独過半数を取ることができず、都構想が思うように進みませんでした。府議会議員選挙では、2011年の府議選でようやく過半数とちょっと。前回2015年は過半数を割り込んでいます。この当時は公明など他会派との駆け引きや、橋下市長の辞任・再選挙で民意を確認するなどあの手この手で都構想の住民投票にこぎつけました。

 このまどろっこしいプロセスは、改革を進めたい勢力からすると「既得権を維持するシステムだから選挙制度も改革するべきだ!」となるわけですが、なるほど首長の独走を防ぎ熟議を促すシステムといわれると非常に上手く機能した例とも言えるわけですね。あっさりと住民投票条例が通ってしまったら、都構想のメリット・デメリットがメディアを通じて全国的に議論されることもなかったでしょう。ドラスティックな改革を行えば、当然それにより不利益を被る層が出てきます。たいていの場合、それが長年の既得権益層であることが多いのですが、彼らも日本国民であり地方自治体の住民。今まで散々利益を得てきたんだから取り上げてもいいだろうと、トップダウンで有無を言わさず強制するのは民主主義の原則に反しています。議論を経て、必要に応じ激変緩和措置を取るなり、改革の度合いを和らげるなりしなくてはいけません。民主主義のシステムは、遅々として進むものなのです。

 しかしながら、たいていの首長はこうしたプロセスを嫌がります。「改革」を掲げる首長ほどその傾向が強く、自分の意のままにならない議会を「抵抗勢力」として対決姿勢を強めたり、議会をスルーして意思決定したりします。前者がさらに進めば議会内に知事与党を作ろうとし、後者はたとえばリークや記者懇談などでメディアを通じて世論を形成し、それを通じてなし崩し的に意思決定をしてしまうことが考えられます。こうして知事与党がノーチェックで議会を通し、○○劇場といったメディアが翼賛的に首長の動向を伝えるようになると、首長は完全なフリーハンドを得てノーチェックで自分のやりたいように政治が出来るようになってしまいます。二元代表制の形骸化、そして独裁へと続いていく道です。

 ですから、本来的に首長の権力行使を監視し、チェックするという地方議員は、どの党に所属しているかよりもこの人が果たしてきちんと権力監視できるのかという視点で選ばなくてはなりません。選挙の度に言われていますが、人物本位の投票が出来るかどうか?今回の都議選は、日本の民主主義の一つの形態、二元代表制の根本が問われているように思います。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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