2017年06月21日

加計学園問題を考える

 18日で、正式に今国会(第193国会)が閉幕しました。テロ等準備罪の新設を柱とする組織犯罪処罰法改正案や今上陛下のご譲位を規定する特別措置法などの重要法案が審議・成立しましたが、どちらかといえばスキャンダル追及国会の様相を呈していました。

 

 さて、いまだ続く加計学園問題について、果たして「本来認められるべきじゃない加計学園の獣医学部新設が、『総理の意向』によって、不当に認められたのか?」が今日のブログのテーマです。引用が多く長いです。

 

 国家戦略特区では、具体的な制度設計等の検討のためワーキンググループが設置され、ここで関係省庁や提案当事自治体のヒアリングなどが行われています。

 

『国家戦略特区ページ』(総理官邸HP内)https://goo.gl/zY05Lz

 

 この中にある国家戦略特区ワーキンググループのヒアリング議事要旨を見てみましょう。まず獣医学部新設に関わる、「獣医師の需要」についてどのような議論が交わされたのでしょうか。2015年6月~9月の議事録を見てみます。

 

『国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)』(平成27年6月8日)https://goo.gl/bT55of

<○(文科省専門教育課)牧野課長補佐 (前略)既存の獣医師養成の分野に関しては少なくとも今足りているというように我々は農水省さんから聞いておりますので、その上で関係者も納得するような、これは新しい構想だというようなものを(筆者注:今治市が)具体的な需要の数までも示した上でお示しいただければ、こちらとしても一緒に検討していきたいということでございます。

○原委員 挙証責任がひっくり返っている。

○八代委員 それは文科省にとってリスクがあるわけですね。需給の必要性ということについて全部農水省に丸投げしておいて、もし訴えられたりしたらどうなるのか。>

 

『国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)』(平成28年9月16日)https://goo.gl/nmt7a5

<○(農水省地区水産安全管理課)磯貝課長 農水省のほうとしては、大学・学部を新設されたいということに対しては、特段コメントをする立場にはないと思っております。現実として産業動物、家畜の数というのは需要が伸びていた時代と違いまして需要自体も減ってきていて減少している。また、ペットのほうもある程度飽和してきて犬の数が減ってきているという実態があるという認識をしているだけでございます。>

 

以上が獣医師の需要に関する農水省と文科省の主張。これに対して、民間議員はどういう主張をしているのか。再び議事録を見てみます。

 

『国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)』(平成27年6月8日)https://goo.gl/bT55of

<○本間委員 今治市は食の安全とか、人獣共通感染症あるいは越境国際感染症、そうしたものに対する対象が必要であるということを主張されているわけで、それがこれまでの獣医学教育とはかなり違うと私どもは受け取っているわけで、なおかつ、現在の獣医学の教育体制ではカバーし切れないと認識をしている>

<○本間委員 新興感染症だとか、バイオテロだとかという危険が非常に高まっているという意味では、(筆者注:獣医師の)量的な拡大、つまり供給の拡大が望ましいというように我々は受け取っているわけです。>

<○八代委員 だから、国民の安全に大事だったら、そちらの観点であれば(筆者注:獣医師の)供給側は、むしろ多いほうがいいわけですね。(中略)そのほうが競争を通じて質もたかまるわけですし。>

<○本間委員 (筆者注:国家試験に)合格して生まれた獣医師がどういう活動をして、どのような職についてどういう報酬を得るかというのは、まさに市場の問題ですから、それは前もそういう議論をしたわけですけれども、獣医師の数を規制するという理由はない。規制するというのは全く我々にはわからないということです。獣医学部の段階で規制するという理由は、全く私には理解できないところなのです。>

 

つまりまとめると...

<農水省>

「既存の分野における獣医師は(全体として)足りている。学部新設の是否についてはコメントしない」

<文科省>

「農水省が足りていると言っている。新しい需要があるというなら、今治市が納得できるデータを示せば検討する」

という主張と

<民間議員>

「今後の国際的な感染症対策を考えると既存の体制ではカバーできない。獣医師が増えた方が質も高まるはず。獣医学部の数を規制する理由がどこにあるのか」

で対立し、議論は平行線をたどります。

 

 では、この議論に決着をつけるため「既存の獣医師でカバーできない新しい需要」があるかないか、誰が示すべきだったのか。先ほども掲載した議事録の中に、このようなやりとりがありました。

 

『国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)』(平成27年6月8日)https://goo.gl/bT55of

<○(文科省専門教育課)牧野課長補佐 (筆者注:今治市が)需要の数までも示した上でお示しいただければ、こちらとしても一緒に検討していきたいということでございます。

○原委員 挙証責任がひっくり返っている。>

 

さらに、その13か月後の同じ会議のやりとり。

 

『国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)』(平成28年9月16日)https://goo.gl/nmt7a5

<○八田座長 2015年に、この問題を年度内に検討を行うはずだったわけですから、需要があるないということに関する結論が遅きに失しているのではないかと思うのです。今回、また特区諮問会議でもここが新たな課題として出された以上、本当にこれは早急に御検討をお願いしたいと思います。

○(文科省)浅野課長 (中略)既存の獣医師でない構想、獣医師養成でない構想が具体化し、かつライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになって、既存の大学・学部では対応困難だということであれば、そういったこともしっかり検討していくというつもりでございます。

○八田座長 そうであるかどうかという判定というのはもう今、進めていらっしゃるのですか。それとももう少し提案者等からのヒアリングが必要だということですか。

○浅野課長 恐らくこれは文科省だけでは決められないと思いますので、きちっとしかるべく多分政府全体として、需要と供給の問題も全く関係ないわけではありませんので。

○八田座長 それは関係ないでしょう。文科省は研究が必要かどうか、その観点からやるから文科省に権限があるので、実際の人たちの損得を斟酌するなどということはあり得ないでしょう。文科省は研究の必要性、ちゃんと需要が十分ある研究者を養成するということが必要なら、それは当然やるべきではないですか。


 需給の予測については2015年の議論から1年以上が経ち、八田座長から「需要がある・ないの結論が遅い」と言われ、文科省側は「ウチだけじゃ決められませんから」と返しています。そしてこのあと、少なくとも議事録上、「そうじゃない。需要予測は文科省がやるべきです」という民間議員の話で終わっており、文科省が「自分たちは需要予測をやりませんからね!」とか、「需給予測は内閣府がやるべきでしょ!」といった強い反論はしていないんですね。それでいながら、前川前次官は6月15日に発表したコメントで「責任を文科省に押し付けるなど言語道断、需給の検証は内閣府がやるべきことだ」と主張しています。

 

『「内閣府も調査、説明を」前川喜平氏、文科省の再調査でコメント』(ハフィントンポスト 6月16日)https://goo.gl/epYfYd

国家戦略特区制度の主務官庁は内閣府です。責任を文科省に押しつけるなど言語道断です。(中略)

具体的に内閣府に説明してもらいたい疑問点は、次のような点です。

I~Ⅱ.(略)

III内閣府は、人材需要に責任のある農水省と厚労省を、人材需要の検討に実質的に参画させたのか、特にライフサイエンス等の新たな分野における獣医師の需給についてきちんと検証したのか、検証したのであれば、どの省庁がどのような根拠を示して説明したのか

IVVI.(略)>

 

文科省と農水省による「現状、獣医師は(総数として)足りている」という主張について、この場で「既得権益を守るためだ!」と批判する気はありません。考え方が異なる民間議員との議論が平行線になる中で、自分たちが需要予測をさせられる流れにあることに、文科省には「なんで俺たちがやるんだ」という不満もあったと推測されます。しかし、需要予測の作業に関して、やるのかやらないのかの意思表示を1年以上も曖昧にしながら、当時の文科次官がいまさら「内閣府が需給を検証すべきだ」と主張することはアンフェアじゃないでしょうか。

 

 また、こういう説もあります。獣医学部新設の認可は、初めから今治市の加計学園ありきで進んでいた。だから、京都産業大学も手を挙げた時、新たに「広域的に獣医学部がない地域に限る」という条件を付け、京産大が認定されないように計ったのだと。

 

 この条件が決まったのはどういう理由だったのでしょうか?特区諮問会議の民間議員は直近の諮問会議で、こう説明しています。

 

『第30回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)』(平成29年5月22日)https://goo.gl/b6hqQP

<(八田議員)獣医学部の新設に当たっては、既得権益側が激しく抵抗し、新設するとしても2つ以上は認められないと主張するので、突破口として、まずは一地域に限定せざるを得ませんでした。そうである以上、地域的に獣医学部の必要性が極めて高く、しかも福田内閣以来、永年要求し続けた地域(筆者注:今治市)に新設を認めたのは当然であります。この選択が不透明だなどという指摘は全く的外れであります。むしろこれまでこの岩盤規制が維持されてきた政治的背景こそ、メディアは、究明すべきです。

しかし、突破口を作ったことには、大きな意義があります。今後、続けて第二、第三の獣医学部が認められるべきです。>

 

 条件を絞り込んだのは、八田氏の言う"既得権益側"、具体的には日本獣医師会などですが、その働きかけによるものだといいます。ただ、「続けて第二、第三の獣医学部が認められるべき」だと。

 ワーキンググループの議事録をもとに、条件が絞り込まれた流れを、時系列で辿っていきます。201610月、京都産業大学と京都府が国家戦略特区ワーキンググループでプレゼンをしました。

 

『国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)』(平成28年10月17日)https://goo.gl/tHr6Lm

<○(京都産業大学)大西副学長 関西の強みを我々獣医学部でさらに強くしていく。その上で、新しい産業のイノベーションを起こしていく。ここにぜひとも貢献したいという思いでおりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

○本間委員 御説明いただいたところは全て納得といいますか、私もライフサイエンスの学部におりますので、御主張は全面的に賛同いたすところです。なおかつ、医者と違って獣医師に関しては総量規制をすることは全く必要ないと思っていまして、特区指定のある今治のほうでの提案もあって、文科省等々、相当いろんな議論を詰めてというか、すれ違いが多いのですけれども、やっているところであります。

<○大西副学長 文部科学省への事前協議ということでお話をさせてもらっておりますが、今、門戸は開かれていないということで、文科省としては具体的な協議を進めることはできないということで、何回かにわたってお願いをしておりますけれども、そのところではねつけられてしまっているというのが現状でございます。

<○大西副学長 なかなか農水省を含めて、獣医師は充足しているという論法の中で、これ以上獣医学部をつくる必要はないんだというお話で終わってしまっているという状況になっているということです。>

<○本間委員 文科省としてはニーズがあれば今の体制の中で十分やれるから、定員を増やす根拠はないと言うわけです。私たちはそうではなくて、獣医師の新しい研究には新しい研究なりの体制と人員の確保というのはどうしても必要だという主張をしていますが、ずっとすれ違ってきています。(中略)ほかの獣医学部等が新しい研究ニーズにどう対応しているのかということを聞いてみて、連携できるかどうか検討する。そうすると、どこでも大学としては定員を増やしたいという声があがるかもしれない。しかし、獣医師さん自身は決して増やしたいとは思っていないですね。獣医師会含めて。そことのすみ分けといいますか、研究ニーズと獣医師の数の問題について、もう少し詰めた議論と、特区で突破するときのある種決め手といいますか、そのあたりの戦略をお互いいろいろお話しさせていただいて練っていければと思います。>

 

 民間議員は、京都産業大学の提案に「すべて納得」「全面的に賛同」と絶賛しています。「文科省にはねつけられてしまっている」という京産大の副学長に八田座長は「戦略をお互い練っていきましょう」とまで言って、後押しする気満々です。

 その一か月後の201611月、国家戦略特区諮問会議で、「広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とする」ことが決まりました。

  これについて、このような説があります。京都産業大学を除外し、加計学園に誘導するために「広域的に...」の条件を付け加えた。そしてそれは萩生田官房副長官が主導したことだ、と。


 民間議員は10月、今治市(加計学園)の名前も出しながら、京都産業大学の提案に「全面的に賛同」しています。少なくとも2015年段階から「獣医師の数を規制するという理由はない」「数が増えれば競争によって質が上がる」と主張してきた民間議員が、なぜ政府と一緒になって、京産大を排除する条件を加える必要があるのでしょうか?

 

 一方、実質的に獣医学部新設条件を絞ることになった201611月の「広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とする」決定について、苛烈に反応した人達がいます。2か月後、20171月付の日本獣医師会会長のコラムです。

 

『会長短信「春夏秋冬(42)」 「獣医学部新設の検証なき矛盾だらけの決定に怒り」』(日本獣医師会HP)https://goo.gl/oVnAo9

<残念ながら本年最初の会長短信は、極めて不条理なお知らせから始めなければなりません。(中略)119日、国家戦略特区諮問会議が開催され、「広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とするための関係制度の改正を、直ちに行う。」ことが決定されました。>

<私や日本獣医師政治連盟の北村委員長を始めとした本会の役職員は、できれば獣医学部新設決定の撤回、これが不可能な場合でもせめて1校のみとするよう、山本幸三地方創生担当大臣、松野博一文部科学大臣、山本有二農林水産大臣、麻生太郎自民党獣医師問題議員連盟会長、森英介同議員連盟幹事長など多くの国会議員の先生方に、本会の考え方にご理解をいただくよう奔走いたしました。

このような皆様方からの多数の反対意見、大臣及び国会議員の先生方への粘り強い要請活動が実り、関係大臣等のご理解を得て、何とか「1校に限り」と修正された改正告示が、本年14日付けで官報に公布・施行されました。>

 

 「広域的に...」という条件をさらに厳しく、「1校に限定」したのは日本獣医師会の「要請」によるものでした。では、201611月「広域的に...」条件による獣医学部新設の絞り込みを望んだのは、政府でしょうか?民間議員でしょうか??私は、獣医学部新設に反対する獣医師会への「配慮」によるものだった、と考える方が自然であると思います。

 そしてこれは、65日の安倍総理国会答弁「広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限る、1校に限るという要件は、獣医師会等の慎重な意見に配慮した。獣医師会から要請があったを受けた、日本獣医師会顧問の北村直人元自民党衆院議員のコメント「獣医師会として空白地域に限るというお願いをした事実はないとも矛盾しません。

 

 この流れを「総理の意向による加計学園への不公平な利益誘導」というならば、特区諮問会議の民間議員たちが加計学園へ誘導する目的で何年も議論し、京都産業大学への前向きな態度も「加計学園が決まりそうなのに邪魔しやがって」と思いながらの演技だと言うのでしょうか??確かに民間議員は安倍政権が任命していますから、国家戦略特区制度に対して前向きなのは当然ですが、「全員が加計学園ありきのグル」というようなストーリーは、さすがに陰謀論的な飛躍だと思うのです。

 

 では、文科省内の文書にあった「総理のご意向」はそもそも何を指すのか?先ほども掲載した議事録の冒頭、民間議員と文科省・農水省の担当者に対する、内閣府地方創生推進事務局の藤原審議官の発言です。

 

『国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)』(平成28年9月16日)https://goo.gl/nmt7a5

<○藤原審議官 先週金曜日に国家戦略特区の諮問会議が行われまして、まさに八田議員から民間議員ペーパーを御説明いただきましたが、その中で重点的に議論していく項目の1つとしてこの課題が挙がり、総理からもそういった提案課題について検討を深めようというお話もいただいておりますので、少しそういった意味でこの議論についても深めていく必要があるということで今日はお越しいただいた次第でございます。>

 

この藤原審議官の発言が指す、「先週金曜日の総理の話」の内容は以下の通り。

 

『第23回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)』(平成28年9月9日)https://goo.gl/yATmPW

<○安倍議長(安倍総理) (民泊や待機児童、獣医学部新設の説明を受けて)本日提案いただいた「残された岩盤規制」や、特区での成果の「全国展開」についても、実現に向けた検討を、これまで以上に加速的・集中的にお願いしたいと思いますので、よろしくお願いします。>

私は、これが「総理の意向」の正体だと考えています。

 

加計学園を巡るこの問題、国会等での政府の対応のマズさが、不透明感と事態の悪化を招いたのは間違いありません。しかし、文科省内の文書に書かれた「総理の意向」が、「〝特区全体への加速″を指すものではない、もっと深い"闇"があるのだ!」という報道に、議事録を見る限り私は賛同できません。


まずは公開されている議事録を読んでいただいて、皆さんはどう感じるでしょうか。

プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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「飯田浩司そこまで言うか!」

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