2017年05月29日

ホントに成長しているの?

 イタリア、タオルミナでのサミットが終わりました。今回はサミット初参加のアメリカ・トランプ大統領の言動や、政策的にもトランプ政権の保護主義や環境政策に注目が集まり、あまり具体的な経済政策についての議論が薄かった印象です。
 そういえば、一年前のこの時期は伊勢志摩サミット報道一色で、その中で一番注目されていたのは財政出動についてでした。あの時は消費税増税の延期問題にも絡んで国内でも非常に注目されていましたが、今回はほとんど報じられず、したがって国内での議論もあまり盛り上がっていません。しかしながら、実は今こそ財政出動の重要性をクローズアップしなければいけないのではないかと私は思っています。たとえば、こんなニュース。

『GDP、年2.2%増=5期連続プラス、11年ぶり-1~3月期』(5月18日 時事通信)https://goo.gl/Cpk4ej
<内閣府が18日発表した2017年1~3月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.5%増、年率換算で2.2%増だった。個人消費や輸出がけん引し、約11年ぶりに5四半期連続のプラス成長となった。>

 この時事の記事だけでなく、どの新聞、TVも同じような記事で、これだけ見ると「おお、日本は景気が良くなってきているのか(あまり実感はないけれど...)」というような印象ですが、中身を見てみるとちょっと問題を抱えているようです。

『2017(平成29)年1~3月期四半期別GDP速報(1次速報値)』(5月18日 内閣府HP)https://goo.gl/LUEz8g

 16ページにもわたるこのPDFファイルですが、まず2017年1~3月期について。実感に近いと言われる名目の成長率はマイナス0.0%。年率換算でマイナス0.1%。一方、物価の影響を差し引いた実質の成長率の方はプラス0.5%。年率換算プラス2.2%。一連のメディアの報道は、この実質の方の数字を大きく取っているわけですね。
 一般に、成長していると物価も上昇していますから、普通は名目の数字が大きく、物価を差し引く実質は多少小さな数字になります。「名目>実質」ですね。ところが、今回は逆で、「名目<実質」。物価の伸びが鈍ってきている証拠です。というか、足元の成長も鈍っているけれども、物価が伸びていないので実質では数字が良くなっているわけです。
 同じく物価の伸びが思わしくないデータがもう一つ。GDPデフレーターといいますが、これが1~3月期は伸び率前期比マイナス0.6%。2016年度は、4~6月マイナス0.2%、7~9月マイナス0.2%、10~12月こそプラス0.1%となりましたが、1~3月期はマイナス0.6%と大きく沈み込んでしまいました。

 一方、先週末に発表された消費者物価指数では、物価が伸びているように報道されています。

『先月の消費者物価指数 4か月連続のプラスに』(5月26日 NHK)https://goo.gl/7YvS7a
<先月の全国の消費者物価指数は、電気代が値上がりしたことなどから、変動の大きい生鮮食品を除いた指数が去年の同じ月を0.3%上回り、4か月連続でプラスとなりました。
 総務省の発表によりますと、モノやサービスの値動きを示す先月の全国の消費者物価指数は、天候による変動の大きい生鮮食品を除いて、おととし(平成27年)を100とした指数で100.1となり、去年の同じ月を0.3%上回りました。消費者物価指数がプラスになるのは4か月連続です。>

 まるで物価が順調に上昇しているように見出しが取られていますが、問題はこれが「生鮮食品を除いた指数」という留保付きというところです。例によって発表そのものを見てみますと...。

『消費者物価指数 全国 平成29年(2017年)4月分 (2017年5月26日公表)』(総務省統計局HP)https://goo.gl/1oLZK
<2017年4月(前年同月比 %) 総合 0.4 生鮮食品を除く総合 0.3 生鮮食品及びエネルギーを除く総合 0.0>

 天候による変動が大きいので生鮮食品は除外されていますが、価格変動が大きく海外要因に左右されやすいのはエネルギー価格も同じ。そこで、それを除外して国内の物価の動向を表すのが生鮮食品及びエネルギーを除く総合。この数字は0.0%で伸びていないことが分かります。物価が伸びていないのですから、物価目標までは手を緩めないとしたアベノミクス第1の矢、金融緩和は出口戦略なんて言っている場合ではないはずです。

 一方、GDPについて言えば、この伸びていない物価にある意味ゲタを履かせてもらって実質では成長しているように見えています。だからと言ってここで景気刺激の手を緩めると、あっという間に実質成長も落ち込んでしまいます。

 先ほどのGDPについてのPDFファイルの一番最後の2ページに年次別の成長率が添えられています。ここが非常に重要で、2016年度は実質で1.3%成長とされていますが、この内訳は国内需要が0.5%プラスで外需(財・サービスの純輸出)が0.8%。
 外需は輸出が伸びているだけでなく、輸入がマイナス1.4%だったので差し引きで数字が良くなっています。この、輸出が伸びていて輸入が減っているということは、国内に需要が冷え込んでいることの裏返しと取ることもできます。国内需要が冷え込んでいるから、輸入業者は輸入したところで売れないから輸入は減少します。一方、輸出業者からすると国内で生産したものが国内だけでは売り切れないから海外に持って行かざるを得ない。したがって、数字上は輸出が増えるわけですね。

 一方、国内需要は前年度1.1%プラスだったものが、0.5%プラスと伸びが鈍っています。その内訳を見ますと、民間需要はプラス0.8%と、前年の1.1%プラスには及ばずとも踏ん張っています。
 ところが、公的需要がマイナス0.1%。その中でも、公的固定資本形成がマイナス3.2%だったのが足を引っ張っています。この公的固定資本形成はいわば財政出動ですが、消費税増税のあった2014年度だけでなく、翌2015年も、そして直近の2016年度もマイナスで推移しています。
 これを見ても、安倍政権は実は、特に2014年度以降緊縮的であることが分かりますね。2013年度に財政出動を増やしたそのイメージのまま、「バラマキだ!」と批判されることが多いのですが、事実は真逆。そして、それが経済成長にブレーキまでかけてしまっています。今年度の補正予算、そして来年度予算では何としてもブレーキを外させなくてはいけません。

 来年度予算の編成は、夏の概算要求から始まると言われますが、実はその前に6月に出る骨太の方針で緊縮か拡大かの大枠が決まってしまいます。ですから、その直前のこの時期こそが財政出動の重要性を議論しなくてはならないタイミングなのです。

 国内ではあまり盛り上がらないこの財政出動についての議論。海外の碩学たちはこぞって日本にはその余力があり、必要があると言っています。ノーベル経済学賞受賞のスティグリッツ氏やクルーグマン氏のみならず、FRB前議長のベン・バーナンキ氏もこう発言しています。

『物価2%「財政政策活用も手」...バーナンキ氏』(5月24日 読売新聞)https://goo.gl/4ZdXaY
<米連邦準備制度理事会(FRB)のベン・バーナンキ前議長は24日、都内で開かれた金融政策に関する国際会議で講演し、物価上昇率を2%に引き上げる日本銀行の目標の達成について、「金融政策だけで限界があるなら、財政政策を使うのも手だ」と述べた。>

 これだけ海外の高名な経済学者が提言しているにも関わらず、国内では「バラマキ反対!」「財政が破たんする!」といった独自の論理が幅を利かせています。グローバル化をあれだけ礼賛する経済メディアが、この財政出動に関しては"グローバルスタンダード"を鮮やかに否定する。ダブルスタンダードだと思わないのでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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