今日の番組放送前、心配なニュースが飛び込んできました。陸上自衛隊の航空機が函館空港の西でレーダーから機影が消えたのです。
<15日昼前、陸上自衛隊の連絡偵察機が函館空港の西の山の上空を飛行中にレーダーから機影が消え、行方がわからなくなりました。搭載された燃料で飛行できる時間がすでに過ぎていることから、自衛隊は事故が起きた可能性が高いとして確認を急いでいます。>
<陸上自衛隊は事故が起きた可能性が高いとして、自衛隊員700人の態勢でレーダーから機影が消えた地点を中心に捜索にあたり、確認を急いでいます。>
函館空港は市街地の東側の海沿いにある空港で、滑走路は東西に渡る一本です。航空写真で見ますと、南側は津軽海峡、北と東はわずかな平地の他は山地になっています。今回は西側の市街地方面から高度を下げ、着陸するルートを取ったようですが、報道によれば、空港周辺は雨やもやがかかる厳しい天候状況。機影が消えたのは西側およそ30キロの上空で、高度は900mほど。無線誘導を受けて着陸しようとしたタイミングのようです。
この空港周辺は、風向、風速が急激に変化するウィンドシアが起こることでも知られています。過去にも旅客機が着陸直前に急激な下降気流に見舞われ、回避行動をしたものの胴体後部を損傷したという事故がありました。今回については、この原稿を執筆している15日21時の時点で機体等は発見されておらず、まだ詳細は不明ですが、いずれにせよ厳しい天候状況であったことは間違いないようです。
さて、なぜこの厳しい環境下で陸自の航空機が飛んでいたのか?報道では、こうあります。
<防衛省によりますと、機体は、救急患者の輸送の要請を受けて、15日午前11時23分に札幌市にある丘珠空港を離陸し、患者を乗せるため函館空港に向かっていました。>
いわゆる急患輸送という任務に当たっていた最中の遭難のようです。首都圏に暮らしているとあまり馴染みがありませんが、島嶼部を抱える沖縄県や長崎県、鹿児島県、広大な北海道などでは都道府県知事の要請により、災害派遣という形で急患輸送が行われています。陸・海・空の3自衛隊にはそれぞれ航空部門がありますので、緊急の場合にはそれを使って輸送するということです。発表されている最新のデータは3月のものですが、3月だけで27件。平成28年度では409件の急患輸送を行っています。これは、1日に1件以上、日本のどこかで自衛隊が急患輸送に携わっているということですね。
自衛隊の災害派遣というと、去年の熊本地震や首都圏では鬼怒川の氾濫などが思い浮かびますが、実はこの急患輸送が全体の8割を占めるということです。
<過去10年間、「急患輸送」の占める割合が最も大きく、28年度は約80%>(3頁)
<28年度総件数: 409件 総件数は、前年度比10件減少し、過去5年間の平均と同等>(6頁)
急患輸送のほぼ半数を担うのが陸上自衛隊。これは、沖縄・那覇にある陸自15旅団隷下の第15ヘリコプター隊が南西諸島の急患輸送を担っている側面があるからです。かつて15旅団を取材したことがあるのですが、彼らは24時間体制、常に10人が急患輸送のスタンバイをしてます。夏の台風のみならず、海に浮かぶ南西諸島は天候がいい時ばかりではありません。天候が良ければ旅客機も飛びますが、天候が悪くなれば当然欠航となります。そんな時に頼りになるのが自衛隊の急患輸送。沖縄だけでなく、各自治体もヘリを持っていて、平時はそれで対応することが可能ですが、天候が厳しくなればなるほど自衛隊への依頼が増えるわけです。もちろん、安全第一で飛ぶのは言うまでもありません。急患輸送を何度も経験した海自のヘリ隊員にインタビューしたことがありますが、
「待っている急患の姿を想像すると、現場上空までくれば降りたい!降りて運んであげたい!と強く思うんです。でも、そこはセーフティファースト。泣く泣くあきらめることだってあります」
と話してくれました。飛行前のブリーフィングで患者の容体なども知らされてから飛ぶそうで、それだけに思いは募るわけですね。風や雨が一瞬弱まるタイミングを掴んで降りようとするわけですが、それが叶わないこともある。最後の判断は現場の機長に委ねられるわけですが、熱き心と冷静な頭脳で一つ一つの輸送を行っているということのようです。
海上自衛隊第73航空隊(館山)のUH-60J
ちなみに、首都圏では、かつては東京都知事の要請で館山の海自のヘリ部隊が大島や三宅島などの急患輸送に携わっていました。今は東京消防庁のヘリが更新され、多少の悪天候でも飛べるようになったので依頼は劇的に少なくなったそうです。かつて飛んでいた隊員に取材をすると、やはり悪天候になればなるほど依頼が多くなると言っています。民間の航空機のみならず、公的機関の航空機であっても飛ぶか飛ばないかの判断に迷うような悪天候のとき、最後の頼みの綱が自衛隊というわけなんですね。これは、急患輸送を取材するとまず実感するところ。少々の悪天候でも飛ぶことができる自衛隊機のタフさが期待されているのです。こうした事故のニュースで急患輸送がクローズアップされるのは忸怩たる思いもありますが、輸送に当たる隊員たちは「何よりも国民の役に立ちたい」と口をそろえていました。縁の下の力持ちのような任務が、国民生活を支えています。
最後に、陸自の連絡偵察機と搭乗員が一刻も早く発見されることを願っています。