2017年05月08日

教育無償化はこども保険で決まり?

 大型連休の前から、各メディアで「こども保険」礼賛の記事が散見されています。もともとは小泉進次郎衆議院議員をはじめとする自民党の若手議員が中心となって構想をまとめたもの。今現状徴収している厚生年金や国民年金といった社会保険料に若干の上乗せ徴収をして財源を確保し、それを教育無償化のために使うという。今は社会保険料は高齢者に偏って使われているのだから、これに少し上乗せして、それを子育て世代に使うのは不公平の是正になるだろうというのが彼らの主張です。

 子どもがいない人は保険料を払っても給付がないのだからかえって不公平だろうという批判に対しては、たとえ自分に子供がいなくても、子や孫にあたる世代が自分たちの老後を支えるんだから社会保険の考えとは大きく矛盾しないとのこと。これを機に教育無償化を含め子育て支援の財源を考えようという趣旨の記事が、社説やコラムでちらほら出てきています。たとえば、こちら。

『社説 「こども保険」構想 子育て財源確保の弾みに』(4月15日 毎日新聞)https://goo.gl/nu9CGd

 これらの記事に共通するのは、まず財源に教育国債を使うことについて「将来世代へのツケを回すことになる」として言下に否定するのです。これは、この構想をまとめた自民党の若手議員たちも口を揃えています。こうしたロジックにしたがって、大型連休明けの今日、自民党の特命委員会は教育国債について「不適当」と、失格の烙印を押しました。

『「教育無償化財源で国債は不適当」自民提言』(5月7日 NHK)https://goo.gl/CUKch8
<自民党の特命委員会は、教育の無償化の実現に向けた財源に関する提言をまとめ、使いみちを教育に限定した「教育国債」は子どもの世代に負担をつけ回し適当でないとする一方、「子ども保険」については将来を見据えた提案の一つだと評価していて、近く、政府に提出することにしています。>

 そもそも、国債の増発が将来へ負担をつけ回すという、消費税増税以来言い古された常套句がまた出てきたあたりに緊縮財政派の執念を感じるわけですが、教育国債については一刀両断にしています。

<「親の世代が果たすべき責任から逃れ、子どもの世代に負担をつけ回すことになる」と指摘し、「財源を国債に求めることは適当ではない」としています。>

ということで、財政再建派のロジックでは、こども保険構想や税財源で教育無償化を賄うのが「親の世代の果たすべき責任」なのだそうです。一体、我々"親の世代"の果たすべき責任ってどれだけ重いんでしょうか...。こども保険構想というのはもともと子育て世代(="親の世代")を支援するというのが大義名分のはずですが、一方でその子育て世代は保険料を払うなり税金を余計に取られるなりの負担をして責任を果たせと言われているのです。
 現実問題として、子育てにはお金がかかります。保育や幼児教育はこの構想で実質無償化にしてくれたとしても、その後の高等教育まで考えれば、かなりの額を備えておかなくてはなりません。それに加えて保険料or税での追加負担で絞り取られるわけで、それが親の世代の責任と綺麗事を言われても納得できませんよね。
 また、高等教育までの無償化を実現するのであれば、その分保険料や税の追加負担が重くなるだけなので、結局楽になるわけではありません。
 そして、保険料にせよ税にせよ、いわば財布から直接抜かれるわけで、その分家計の可処分所得が減少します。当然、GDPの6割を占めると言われる個人消費にマイナス面で効いてきますので、景気にとってもマイナス。
 メリットは少ないように思えるのですが、どうなのでしょうか?

 一方、責任逃れだと批判されている教育国債ですが、こちらはいわば教育費の前借り。今かかる教育費を国債で賄うと、たしかに償還時期の納税者(=将来世代)に負担がかかります。この負担の部分だけを見れば"ツケ回し"という表現も当たっているのかもしれません。しかし、実際に教育を無償で受けるという受益の部分を見ると、こちらも今の子ども=将来世代が恩恵を受けるわけです。
 つまり、教育国債は"受益者負担"という市場経済の原則に合致した政策のはずなのですね。これのどこが責任逃れなのでしょうか?私には理解に苦しみます。

 さて、今回教育国債をバッサリと切り捨てたのは、自民党の財政再建に関する特命委員会は、政務調査会に属する組織です。こども保険構想をまとめた「2020年以降の経済財政構想小委員会」もこの特命委内に設けられた組織。ということで、これら緊縮サイドの政策は、一貫して政調サイドから出されているものなのです。

 では、教育国債構想はどこから出てきているかというと、これは政調ラインではなく、総裁直轄の教育再生実行本部から出ています。

『自民、高等教育の無償化を検討 「教育国債」創設を想定』(2月3日 朝日新聞)https://goo.gl/6EkkJB
<自民党は授業料の免除など教育無償化に向けた具体策の検討を始める。総裁直轄の「教育再生実行本部」にプロジェクトチーム(PT)を設置し、必要な財源には使い道を無償化に限る「教育国債」の創設などについて議論する。>

 この報道が2月ですから、すでに何度も会合を開いて議論しているはずなのに、会議の内容がほとんど外へ漏れてきません。座長は馳・前文科大臣で、それ以外のメンバーにも文科大臣経験者や文教族の大物が入っているそうです。むしろここまで何も出てこないことの方が不思議なのですが、一つ言えるのは党内にも教育無償化の財源論について議論の場が2つ存在するということ。そして、党としての結論はまだ出ていないということ。

 そういえば、先月番組に出演した下村博文幹事長代行がこう言っていました。
「教育国債とこども保険は決してどちらか一つという話ではない。こども保険は幼児教育、教育国債は高等教育という具合に棲み分けも可能だ」
 下村氏は去年からずっと教育国債の活用を訴え続けてきた、いわばパイオニア。落としどころは見えているようにも見えるんですが...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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