2017年04月04日

失業率2.8% 好循環へあと一歩

 韓国の前大統領逮捕や新年度開始などのニュースであまり大きくは報じられませんでしたが、2月の完全失業率が発表されました。季節調整済みの値で前月比0.2ポイントの改善、2.8%となり、ついに3%の壁を突破しました。

『労働力調査 結果の概要』(総務省統計局 3月31日)https://goo.gl/KCy22w

 これについて各紙報じておりますが、その扱いの違いに各紙のスタンスが見えるようで面白いですね。この調査結果が発表されたのが31日金曜日の朝。従って、詳しい分析記事ではなく事実のみを伝えるのであれば、その日の夕刊に十分間に合います。夕刊に載せたのが、毎日と読売。一方、東京版では夕刊のない産経と、朝日、日経は翌日朝刊で詳しく載せていました。

『正社員増、賃金は伸び悩む 2月失業率2.8%、22年ぶり低水準』(4月1日 朝日新聞)https://goo.gl/LNVm2b

『失業率22年ぶり2%、物価上昇続くも家計支出は低迷 2月経済統計』(4月1日 産経新聞)https://goo.gl/JF4iOU
<2月の経済統計が31日、出そろった。完全失業率が平成6年12月以来、22年2カ月ぶりに2%台に改善、全国消費者物価指数も1年10カ月ぶりの水準に上昇した。ただ、雇用の回復は非正規が中心で、原油高要因を除く物価の基調は弱い。家計支出の低迷は続いており、賃金上昇を伴わない「悪い物価上昇」が常態化する懸念も高まる。>

『雇用逼迫、成長の壁に 失業率22年ぶり低水準』(3月31日 日本経済新聞)https://goo.gl/rSqLWh
<労働需給が一段と逼迫してきた。2月の完全失業率は2.8%まで下がり、有効求人倍率も四半世紀ぶりの高水準だ。深刻な人手不足で中小企業を軸に賃上げ圧力が強いものの、非正規増加や将来不安で消費には点火しない。雇用改善は所得増や物価上昇を通じて成長を加速させるはずだが、人口減に突入した日本経済では労働供給の制約が「成長の壁」になっている。>

 各紙、失業率が低下しても問題があるというスタンスです。曰く、賃金が伸びていない、非正規雇用が多い、家計の消費が伸びていないのに物価が上昇している、企業の成長を下押ししているなどなど...。
 まず、産経が主張する"家計の消費が伸びていないのに物価が上昇している"という主張は、2月の消費者物価指数を見てみると実態がわかります。2月は総合指数で前年同月比0.3%の上昇。コアCPIと言われる生鮮食品を除く総合でプラス0.2%、コアコアといわれる生鮮食品およびエネルギーを除く総合で0.1%の上昇にとどまっています。その上、総合指数を月次で見ると、2016年11月がプラス0.5%、12月0.3%、1月0.4%...。
 産経は生鮮食品を除くコアの数字でみると、11月-0.4→12月-0.2→1月0.1→1月0.2とだんだんと物価が上昇しているので、このまま物価が上昇していく危機感からそうした記事になったのかもしれません。ただ、コアの数字ではエネルギー価格の影響を受けるので、産油国の減産協調が行われて原油価格が上昇し、その影響で若干持ち上がっている可能性があります。しかしながら、それでもわずか0.2%の上昇。各国は2%台の上昇で議論している最中に、"悪い物価上昇"を心配するのは少し早い気がします。

 次に、賃金の伸びが鈍いという指摘や非正規雇用が多いというのも、データ上は確かに正しいでしょう。ただ、その1か月前までは春闘に際し、"官制春闘"と批判してきたのに、賃金が伸び悩んでいるではないか!と批判するのは正直「どの口が言う!?」と思ってしまいます。
 そもそも、就業していなかった人がいきなり正社員というよりは入り口として非正規雇用に就くというケースは容易に想定できます。それであれば、先に失業率が改善し、賃金の改善は遅れてついてくるというのも理屈として成立するのではないでしょうか?今賃金が上昇していないから悪い人手不足だと批判するのは性急に過ぎると思います。

 また、企業の成長を下押ししているという批判は少し論理がずれてはいないでしょうか。この日経の記事によれば、①人手不足でサービスの供給ができない機会損失と、②人手不足にも関わらず賃上げが加速せず、個人消費が上向かないため販売価格を上げられずコストを吸収しきれないという2つの理由で企業の成長を下押ししているそうです。
 ①について例示されているのは外食産業の24時間営業や深夜営業の取りやめや物流業界の人手不足。これなどは、まさにブラック企業、ブラック職場と批判されてきた部分。今まではそれでも求職者が多かったために、入れ代わり立ち代わり志願者が出てきて成り立ってきましたが、もはやそれが成り立たなくなったということ。今までデフレで失業率も高く、一方で賃金が抑制されてきたので何とかなりましたが、それが何とかならなくなったということでしょう。それ自体は日本の雇用環境がようやく正常化してきたということなのではないでしょうか。
 また、②については賃上げされていないことだけが果たして消費低迷の理由なのか?日経の記事の書きぶりでは、賃金上昇は中小企業中心で、中小企業は大手に比べて賃金の伸びも大きくないので個人消費を上向かせるには弱いといいます。が、消費の冷え込みは消費増税前の駆け込み需要の反動減から今だに立ち直れていないという指摘もあります。なぜなら、消費税は8%に上がったままなので可処分所得を下押しする圧力は増税後変わっていません。賃金上昇がなければ、消費税の分だけ個人消費が下押しされてしまいます。それゆえ、経済成長が重要で、成長した分だけ賃上げすることが重要です。"官製春闘"と批判されようとも経済界に賃上げを要請し続けたのは、好循環への最後の1ピースという認識があったからに他なりません。

 それ以上に私が心配なのは、この失業率減少の中身と、失業率現象の捉え方です。冒頭に挙げた総務省統計局の結果概要の中に産業別就業者の推移のグラフがあります。これによると、ここ2年間の各月の就業者の増減でほぼ毎月のようにプラスだったのは医療・福祉関係と卸売・小売・宿泊・飲食を除くサービス業。これが他の業種にまで広がっていかなくては、賃金上昇の範囲も広がりません。特に医療・福祉は行政側の関与が大きく、人手不足があっても市場原理で賃金上昇が起こりづらいことが指摘されている業種です。

 また、これが一番重要なのですが、日銀の金融緩和や政府の財政出動への影響です。アメリカのFRBやヨーロッパのECBなど先進各国・地域の中央銀行の中には、物価の安定だけでなく失業率を政策目標に置くところもあります。たとえばアメリカのFRBは先月利上げをした理由の一つに失業率が低減し、ほぼ完全雇用にあるということも挙げていました。これにならって、我が国でも失業率が減少したのだから金融緩和はもうやめるべきだ!あるいは財政出動して景気を下支えする必要などない!とする意見が出てくるかもしれません。
 しかし、まだ賃金が上昇していませんし、なによりGDP成長が"緩やか"以外の何物でもなく、まだ完全に景気が回復したとは言えない状況です。ここで手を緩めてしまっては、この20年何度も経験したのと同じ、いいところまで言ったけど結局デフレから脱却できないということになってしまいます。いい加減歴史に学びましょう。
 飛行機は離陸可能な速度になってもエンジンを緩めたりはしません。そんなことしたら離陸できなくなってしまう。むしろここでふかしていくことで、ようやくデフレからの脱却が可能となると思います。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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