去年の後半に電通の女性社員の過労自殺などで注目が集まった長時間労働の弊害。今年は『働き方改革元年』という旗印で、いわゆる日本型労働慣行と呼ばれるものを改革しようという機運が盛り上がっています。残業を減らすにはどうしたらよいのか?昔から浮かんでは消え、浮かんでは消えるこの問題。フィスを強制的に消灯させてみたり、上司が残業していないか見回ってみたり、はたまた早朝出勤を奨励して、その分社員を早く帰してみたり...。
<多くの会社がとりくんでいるのが、「経営層から長時間労働是正へのメッセージを発信」(53社)、「各人の労働時間を集計し役員会に報告。長時間労働の部署へ是正措置を求める」「新任管理職に対し労働時間管理を含む研修を実施」「有給休暇取得の進捗(しんちょく)などを管理する仕組み」(いずれも50社)、「全社毎週水曜日」など一律の「ノー残業デー」(49社)。>
そんな中でここ1年ほどで注目されだしたキーワードに『インターバル規制』というものがあります。インターバル規制とは、前日の終業から翌日の始業までの間の時間をきちんと確保しましょう、そのために最低限空けるべき時間を決めて規制しましょうというもの。これを使えば、前日に深夜に及ぶ残業をした場合、翌日の出社時間を遅らせて休息をとることができます。現状の一般的な就業規則では、前日どんなに残業しても翌日はきちんと定時に出社しないと遅刻扱いになって評価が下がったり、半休扱いになったりしてしまいます。それを避けるために、休息を取らずに無理やり出社するのを続けていては肉体的にも精神的にも問題だというのは議論の余地はないでしょう。
ただ、企業経営者側からすると、一律にインターバル規制で縛られてしまうと、繁忙期に柔軟に対応できなくなる、業務に支障が出ると難色を示す場合が多いようです。実際、この『インターバル規制』を導入している企業は厚生労働省によれば全体のわずか2%。社員はあくまで使い勝手が良くないといけないという企業経営者側の心理が露骨に表れています。
<電通の過労自殺問題で企業の長時間労働対策への関心が高まる中、翌日の出勤までに休息取得を義務付ける「勤務間インターバル規制」に注目が集まっている。厚生労働省によると、導入企業はわずか2%。普及を後押ししようと助成金制度も創設されたが、経営者側には「業務に支障が出る」との抵抗感が根強い。>
しかしながら、過労自殺の事例で休息がほとんどないようなスケジュールで動いていたことなどが明らかになると、徐々にではありますがインターバル規制を導入する企業が増えてきています。
<従業員が退社してから翌日の出社まで一定時間を空ける制度を導入する企業が増えている。KDDIなどに次ぎ、三井住友信託銀行が昨年12月から導入したほか、ユニ・チャームやいなげやも今年から採用する。制度が義務化されている欧州に比べ、日本での取り組みは遅れている。長時間労働の是正が経営の重要課題になるなか、政府も同制度の普及を後押しする考えで、今後追随する企業が増えそうだ。>
ただ、ここにも落とし穴があるように私は思うのです。
まだまだ事例が少ないということで、国内で先行している企業の仕組みや海外、特に欧米企業がすでに導入している仕組みが一つのモデルのようになりつつあります。『インターバル規制』でニュース検索をするとだいたい登場してくるKDDIの最低8時間やJTBグループの9時間~11時間といったところが一つの相場観を形成しているようです。EUが最低11時間の休息を義務付けているというのもあり、今後の議論も9時間~11時間が一つの目安になっていくでしょう。
しかし、11時間の休息というのは日本の企業社会の中で果たして十分な休息に値するのか?9時定時の勤務体系で11時間休息と考えると、退社は夜10時までは範囲内ということになります。ここから自宅までの移動距離、移動時間が欧米と日本ではまるで違います。地方都市であれば、大部分の人が30分以内で自宅まで帰ることができるかもしれませんが、大都市圏ではそうはいきません。仮に1時間だとしても、往復で2時間。帰ってから食事をして、少し家事をして、自分の時間を取って...となると、睡眠に当てられる時間はどんどん削られていきます。追われるように朝起きて、満員電車に揺られながら出社では、インターバル規制の目的の『十分な休息』とは程遠い生活です。ところが、傍から見れば、インターバル規制を遵守しているホワイト企業ということになるわけですね。
インターバル規制を設けることで、かえって「ここまでだったら働かせてOK」という目安になってしまっては本末転倒です。せめて、移動時間もある程度考慮しての拡大インターバル規制にできないものでしょうか?そうなると、個々人でインターバル時間に差が出来てしまい、管理が煩雑になってしまうから導入企業が減ってしまう。そんな批判が聞こえてきそうですが...。