2017年01月09日

トランプ氏のトヨタ批判

 先週末、アメリカのトランプ次期大統領がトヨタ自動車を名指しで批判したことが国内で大きく報道されています。「トランプ砲、ついにトヨタを標的に!」といったニュアンスで、暴れん坊にロックオンされた!日本危うし!といった具合の報道が散見されます。

『トヨタ批判に激震走る=トランプ氏への懸念現実-身構える日本企業』(1月6日 時事通信)https://goo.gl/ZzLuZh
<メキシコでの自動車生産を攻撃するトランプ次期米大統領が、日本を代表するトヨタ自動車を名指しで批判した。日本企業が標的にされる懸念が早くも現実のものとなり、年初の行事が続く日本の産業界に激震が走った。北米で事業を展開する日本企業は次の攻撃対象にされるのではないかと身構えている。
 「米国に工場を建設するか、国境で巨額の税を支払え」。トランプ氏がツイッターで問題にしたのは、トヨタが北米などに輸出するカローラの生産工場をメキシコに新設する計画だ。豊田章男社長が5日、東京都内で計画に変更がない考えを示したのに対し、トランプ氏が激しく反応した。>

 相手が悪名高きトランプ氏ということでかなりセンセーショナルな報道のされ方ですが、身もふたもない言い方をすればアメリカっていうのはこういう国だというのが正直な感想です。1980年代から90年代の日米貿易摩擦の時代のみならず、ごく最近でも政治的にはトランプ氏と正反対だったオバマ政権下であっても日本企業狙い撃ちのバッシングはありました。同じくトヨタ自動車が2009年から10年にかけて巻き込まれた一連のリコール騒動など、その典型です。この時は、トヨタ車を運転中に発生した急加速事故について、事故の原因がトヨタ車にあるとの主張が展開され、就任直後の創業家出身の豊田章男社長がアメリカ議会の公聴会に招致されました。

『トヨタ自動車の豊田章男社長、米議会公聴会で謝罪』(2010年2月25日 ウォールストリートジャーナル)https://goo.gl/psbaLb
<トヨタ自動車の豊田章男社長は24日(日本時間25日)に開かれた米議会での公聴会で、「われわれは決して問題から逃げない」と言明した上で、トヨタ製車両の急加速に関連した事故について謝罪した。その上で、同社の電子スロットル制御システムの設計上の欠陥はないと「完全に確信している」と表明した。>
<これに先立ち、ラフード米運輸長官は同委員会に対し、最近のリコール(回収・無償修理)の対象となっているトヨタ製車両は必要な改修が施されない限り安全ではないとの見解を示した。>

 この時は今のトランプ氏の批判以上にタチが悪く、最終的にはトヨタ車側には欠陥が無かったことが後に分かりました。つまり、存在しない罪状で散々報道された挙句、詳細な調査の結果は「シロ」だったわけです。

『トヨタの悔しさ、NASAが晴らす』(2011年2月10日 中央日報)https://goo.gl/yIwkZ5
<トヨタ自動車の急発進事故に電子制御装置はいかなる関係もない、という米国政府の調査結果が出てきた。ラフード米運輸長官は8日(現地時間)の声明でこのように明らかにした。 
  ラフード長官は「この10カ月間、運輸省傘下の米高速道路交通安全局(NHTSA)と米航空宇宙局(NASA)の専門家が急発進事故の原因を調べた結果、電子制御装置ではいかなる問題点も見つからなかった」と述べた。また「トヨタ車の急発進事故原因は物理的なものかどうか分からないが、電子的なものではない」と説明した。 >

 この間、2010年の11月にはオバマ政権1期目の中間選挙が行われていました。全てが選挙のためだったとは言いませんが、NASAまで動員して10か月も調査して、電子制御装置にいかなる問題点も見つからなかったわけですから、単にトヨタ車の危険を喚起する以上の意図を感じずにはいられません。
 ことほど左様に、国内向けのパフォーマンスとして外国企業をダシに使うのは良くある話。特に国内の支持者向けパフォーマンスを重視するトランプ氏なら、さもありなん。河井総理補佐官も「トランプ氏側近が『発言を文字通りに受け止めるのではなく、真意を受け止めるべきだ』と話していた」を明かしています。

『トランプ氏トヨタ批判に「うまく付き合って」 首相補佐官 』(1月8日 日本経済新聞)https://goo.gl/m6CzJb

 アメリカの政策は、アメリカの有権者の総意で決めること。部外者の日本はある程度の意思を伝えることは出来ても、最終的に決断を左右することはできません。まさに、「うまく付き合う」以外に方法はないわけで、トランプ氏のツイッターが連日新聞の一面を飾り、右往左往する必要はないわけです。
 それに、実は日本は戦後一貫して内需主導の国。GDPに占める貿易の割合は2割もありません。外部要因で右往左往するのは、内需が弱いことの裏返しです。ならば、今政策として必要なのは内需を振興して外的ショックに強い経済を作ることに他なりません。昨年末に閣議決定された平成29年度当初予算では財政出動は抑え気味の数字が並んでいました。それもこれも、「財政再建」の名の下に国債発行が抑制されたからなわけですが、一方で債券市場は新発国債を心待ちにしています。結果、こんなニュースが大きく扱われるわけです。

『前倒し債の発行枠56兆円に増 財務省17年度、利払い費抑制』(1月9日 日本経済新聞)https://goo.gl/CRA8Ew
<財務省は翌年度の予算で使うお金を1年早く調達する、国債の「前倒し債」の発行枠を2017年度に引き上げる。16年度の当初計画から8兆円拡大して過去最高の56兆円に増やす。日銀のマイナス金利政策に伴う調達金利の低下を生かして将来の利払い費を抑え、債券市場の流動性の向上も図る。>
<市場では「流動性の向上にも寄与する前倒し債の上限額の引き上げは債券市場にも配慮されたもの」(証券会社)と歓迎する声がある。>

 財政再建のために当初予算の国債発行は絞ったはずなのに、翌年度の予算に使う前倒し債は大きく増やす。財政再建を声高に主張し、そのために増税しろ!と言い続けてきた経済マスコミは批判しなくてはいけないのに、そうした声は聞こえてきません。翌年度予算のために国債を発行してお金をプールしておくくらいなら、直近の予算に使った方がいいでしょう。それで景気が浮揚し、税収が増えればその方がよっぽど財政再建に資するはずです。そんな単純な話がなぜ出てこないのか?日本経済が活性化するのがそんなに不都合なんでしょうか?トランプ氏のツイッターにいちいち反応して大騒ぎする前に、報じるべきことは他にもあるのではないでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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