2017年01月05日

物流は経済の血液

 明けましておめでとうございます。本年も、ザ・ボイスともどもよろしくお願いいたします。

 さて、年末最後の放送では「物流」についての取材レポートしました。このブログでも取材の度にご報告してきたものですが、海員の養成と鉄道貨物輸送についてまとめて報告という形をとりました。前々からコツコツと取材してきたものを年末のタイミングで放送したわけですが、期せずして年末には物流業界についていくつかニュースが出てきて、タイムリーな内容の放送となりました。

『佐川急便が謝罪 従業員が荷物投げつける動画が拡散』(2016年12月27日 朝日新聞)https://goo.gl/TC9xy2

『佐川急便が「全国的に配達、配達の遅延」と"予告" 年末の荷物増加に人手不足で』(2016年12月28日 産経新聞)https://goo.gl/ETJU1b
<宅配便の一部に配達の遅れが出ている。年末で荷物が増え、人手不足に陥ったためで、宅配大手の佐川急便はホームページ(HP)に「全国的に集荷、配達の遅延が見込まれる」と掲載した。宅配各社は年内だと31日まで荷物を受け付けるが、早めに出すよう呼び掛けている。>

 最初に挙げたニュースは、その動画がセンセーショナルなだけに年末のニュースでかなり扱われましたが、問題の本質は2番目の方だと思います。年末で運送の需要が一時的にグンと伸びたため、人手を確保することができず、結果荷物をさばききれないという事態が生じたわけですね。アマゾンなどのEC需要の爆発的な伸びで小口貨物の処理能力を上回ってしまったといった解説がなされています。今後、景気が良くなって個人消費が増えれば、それにつれてECも伸びていくでしょう。そんな時、輸送の部分でキャップがはまり、結果思うように需要をさばききれず経済成長を阻害してしまう。物流がボトルネックとなる事態も想像されるわけですね。

 ただし、こうした事態は実は何年も前から一部では指摘されてきました。この年末と同じような事態は過去にも起きていたんです。たとえば、2014年3月。

『断絶を超えて(2)昨日の敵は今日の友 「協争」の時代が来た』(1月3日 日本経済新聞)https://goo.gl/FQZhK9
<「どうしてくれるんだ」。取引先の怒鳴り声が耳に痛い。ハウス食品物流子会社の担当者はうなだれるしかなかった。
 アベノミクス景気が盛り上がった2014年3月。トラックの運転手が確保できず、約束の期日に配達できない食品メーカーが相次いだ。>

 この記事には欺瞞があって、「アベノミクス景気が盛り上がった2014年3月」という表現は間違ってはいませんが、それだけで物流現場が悲鳴を上げるほどの供給不足を説明はできません。正しくは、「"消費税増税直前の駆け込み需要がピークを迎えた"2014年3月」のはずです。なぜなら、アベノミクス景気が盛り上がってこの先も好景気が続くという見通しが立っていれば、人手の確保のため高賃金であっても増員を掛けたはず。しかし、増税後には需要の冷え込みが見えていたから今いる人員で対処せざるを得ず、結果記事のように期日までに配達できないケースが散見されたわけです。
 それだけ消費増税が日本経済に対して負のインパクトがあったということの証左なわけですが、結果として景気が冷え込んだために、その後物流現場の人手不足の声はしばらく鳴りをひそめてしまいました。しかし、それは決して問題が解決したからではありません。冒頭のニュースの通り、年末年始など需要が一時的に伸びた時には問題が顕在化してくるわけです。

 そして、この物流現場での人手不足も現場現場で事情が異なります。地域配送については女性の活用やパートなども組み合わせて何とかしのいでいますが、問題は長距離ドライバーの決定的な不足。国も対策を打ち出し、荷台を連結して運べる荷物を増やす規制緩和を行ったり、新たな免許の区分を設けて若者もトラックを運転できるようにしたりと手を打っていますが、問題は賃金が上昇しないこと。
 かつてはトラックのハンドルを握って金を貯め、それを元手に起業して上場企業にまで育て上げた立志伝中の人物がたくさんいました。今、これだけ起業による経済活性化が叫ばれているのに、こうした叩き上げ型の起業で大きくなった企業をあまり見なくなったのはデフレと無関係ではありません。とにかく安くを目指す中で真っ先に削られていったのが輸送コスト。90年代後期、そして2000年代は消費者と向き合う大手小売業のコストカット圧力を受け、今はECの無料配送の荒波をかぶる物流業界。底辺への競争を余儀なくされ、結果賃金は低く抑えられたまま。これでは若い人がハンドルを握ろうなんて考えもしません。
 無料配送が果たして小売業がコストを負担して客へサービスしているのか、それとも物流業者の儲けが削られているのか、利用者が意識しなくては、こうした「安ければ安いほど良い」という風潮は変わらないでしょう。物流業者に正当な対価を支払うことで、冒頭の荷物を投げるようなモラルハザードを防いでいく。本来はあのニュースはこうした議論を喚起する恰好のニュースのはずです。

 そしてもう一つ。長距離ドライバーの人手不足を手当てする一つの方法として、鉄道輸送の活用があります。年末の番組でJR貨物の田村社長にインタビューしたのですが、
「今、トラックの人手不足をカバーするために自動運転や追随運転(前のトラックについていくようプログラミングしてその間は自動運転に任せる航法)が注目されているが、ある意味鉄道輸送はそれを先取りしている。貨物列車一編成で10トントラック50台~65台分の輸送力がある」
と仰っていました。
 ただ、「定時・長距離・大量輸送」が得意な鉄道輸送は、貨物駅まで荷物を運んだあと「短距離・小口」で最終的な配送をする自動車輸送にどう繋ぐか、その結節点をどうスムーズにするかに課題があります。そこで、従来の12フィートコンテナだけでなく、そのままトラックに乗せて大型トラックと同じように活用できる31フィート・ウィングコンテナの活用が進んでいます。

『31フィート・ウィングコンテナ』(全国通運連盟HP)https://goo.gl/xN6KD3

 さらに、鉄道貨物ヤードの脇に物流倉庫を建設することにより、運んできた荷物をその場で仕分けし、小口に分けてトラック配送するといった構想も進んでいて、一部はすでに実現しているそうです。

 物流は経済の血液と言われます。物流がダメージを受けたときにどれだけ生活に影響するかは、東日本大震災後に味わったはずです。デフレから脱却するためにも、そして日本経済の繁栄のためにも、もっともっと物流を大切にする必要があると思います。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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