2016年12月20日

飛行再開は容認できる?

 先週火曜の夜に起こったオスプレイの不時着事故。あれから6日での飛行再開に、各方面から批判の声が上がっています。特に、比較的政権に批判的な朝日・毎日・東京の各紙はまず昨日の夕刊で大きく報じ、さらに朝刊一面でも大展開です。

『オスプレイ飛行、全面再開へ 国は容認 沖縄反発』(12月19日 朝日新聞)https://goo.gl/9RTvHy
<沖縄県名護市沿岸で米軍輸送機オスプレイが着水を試み大破した事故で、米海兵隊は19日、事故以来やめていたオスプレイの飛行をこの日から全面再開すると発表した。日本政府も容認。午後2時以降に再開するという。沖縄側は翁長雄志(おながたけし)知事が「言語道断でとんでもない話だ」と発言するなど猛反発している。>

当然、地元紙は大きく反発しています。

『<社説>オスプレイ飛行強行 墜落の恐怖強いる 命の「二重基準」許されぬ』(12月20日 琉球新報)https://goo.gl/v2W9iT

『社説[オスプレイ飛行再開]県民愚弄する暴挙だ 政府の対応に抗議する』(12月20日 沖縄タイムス)https://goo.gl/VJdtMd

 今回空中給油中のトラブルで不時着したのは、アメリカ海兵隊のオスプレイ、MV22。この機体の10万飛行時間当たりの事故の件数をまとめたデータが防衛省から出されています。2012年当時のデータで若干古いんですが、参考にはなります。

『MV-22オスプレイ 事故率について』(防衛省HP)https://goo.gl/4ntqRs

これによると、クラスA<政府及び政府所有財産への被害総額が200万ドル以上、国防省所属航空機の損壊、あるいは、死亡又は全身不随に至る傷害もしくは職業に起因する病気等を引き起こした場合>と呼ばれる事故が10万飛行時間あたりに起こる割合は1.93。今は少し上がって2.64だそうです。

『オスプレイ、事故率上昇=操縦難しさ指摘も』(12月15日 時事通信)https://goo.gl/Sk0Unl
<MV22の事故率は算出を始めた2012年4月は1.93だったが、13年9月末には2.61に。最新の15年9月末は2.64まで上昇した。ただ、この値そのものは、海兵隊全体の平均値と同じだという。>

 この記事では他の機体について触れられていないので不誠実だと思うんですが、たとえば同じ垂直離着陸機では、先日事故を起こしたAV-8Bハリアーが6.76。もちろん、攻撃機と輸送機の違いがありますので単純な比較はできませんが。
 また、オスプレイの配備によって代替される旧型の輸送ヘリCH-46Eは1.11。たしかに今のところはCH-46Eの方が事故率が低いのは事実ですが、今後老朽化が進むことを考えるとこの数字が未来永劫続くわけではありません。

 ということで、一概にオスプレイだけが危険な機体であるとまでは言えないと私は思うんですが、一方で一週間に満たないうちに飛行再開というのもいただけないと思うんですね。総理のハワイ・真珠湾訪問前に一刻も早く正常化を図りたいという官邸や外務省等の思惑もわかるんですが、異口同音に「理解できる」と繰り返すのは米軍の横暴というよりも日本政府側が「アメリカが言ってるんだし仕方ないよね」と言い訳をしているように見えます。

 かつて、防衛大臣の秘書官を経験した防衛省関係者に話を聞いたことがありました。
 ある防衛大臣がアメリカ国内に出張し、米軍の司令部を訪問する直前に海外でオスプレイの墜落事故が起きたそうです。日本国内にもオスプレイ配備が行われようとしていた矢先だっただけに、当然地元沖縄を中心に日本でも大騒ぎとなりました。ところが、防衛省側の官僚がどんなに要求しても、事故の詳細や事故原因は一切出てきませんでした。それにこの大臣が激怒したそうです。
「明日司令部に直接抗議に乗り込む!そう先方にも伝えろ!」
それを聞いた米軍サイドはどうしたか?徹夜で報告書をまとめ、訪問する直前、その日の未明に公式の事故報告書が出されました。その防衛省関係者は私に、
「アメリカ軍はシビリアンコントロールを重視するんです。官僚の要求は取り合わなくても、主権を託された政治家、特に大臣が正面から正論で要求すれば、それはきちんと聞くんです」
と明かしてくれました。

 今回も、たった6日での飛行再開では日本の世論、特に地元沖縄の世論が沸騰するのは目に見えていました。せめて「ハリアーでも再開までは2週間を要した。オスプレイも報告書もなく1週間で飛行再開ではとても世論は持たない」と主張する度量はなかったのか?稲田防衛大臣はある意味せっかくの踊り場をスルーしてしまったとも言えます。
 このオスプレイ、陸上自衛隊にも配備の予定があり、すでに予算措置も取られています。沖縄地元紙の社説には触れられていますが、このままこの件がウヤムヤのままで不安を払しょくできないままでいると、佐賀配備や木更津で整備しようとしたときに問題が燻り続ける可能性も否定できません。その時に矢面に立つのも、稲田大臣かもしれません。ぜひ、毅然とした対応を期待したいものです。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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