2016年12月05日

五輪バレー横浜アリーナ案の実現性

 このところイタリアの改憲に関する国民投票やオーストリアの大統領再選挙、韓国の大統領弾劾案などなど、海外からのニュースだらけになってしまっています。そんな中でテレビ各社が久々に国内ニュースで大々的に扱ったのが、2020年東京オリンピック・パラリンピックの会場問題。余りにお金がかかり過ぎるとして小池都知事が会場の見直しを提案し、すったもんだの末、東京都・組織委員会・政府・IOC(国際オリンピック委員会)の4者協議が開かれ、テレビ各社もその模様を生中継して大きく報じました。

『五輪会場 ボート・カヌーは「海の森」 バレーボール先送り』(11月29日 NHK)https://goo.gl/1XRnAw
<東京オリンピック・パラリンピックの経費削減を目指す東京都、組織委員会、政府、IOC=国際オリンピック委員会の4者協議は、都が見直しを提案していた3つの競技会場について、ボート・カヌーの会場は「海の森水上競技場」を整備し、水泳会場は東京・江東区の「オリンピックアクアティクスセンター」を新設し、座席数を1万5000席に減らすことを決めました。一方、バレーボール会場については結論を先送りしました。>
<バレーボールの会場は、東京・江東区に新設する「有明アリーナ」と、既存の「横浜アリーナ」が検討されてきましたが、小池知事が「あとしばらくお時間を頂戴したい。クリスマスまでに結論を出したい」と述べ、結論を先送りすることになりました。>

 そもそもは事前に作業部会がまとめたそれぞれの競技会場の評価の報告のみマスコミ公開という予定で、その後の議論は非公開とし、結論を公開するという予定だったものが、小池知事の強い主張によりすべて公開となりました。すべて公開というプレッシャーもあったのか、予定されていた2時間半から大きく短縮し、10分遅れて始まったのに1時間ほど早く終わりました。その後、このバレー会場問題で横浜アリーナ案について、地元自治体の横浜市が難色を示しているという報道がされています。

『五輪バレー横浜案、厳しい情勢 「海の森」は仮設に』(12月1日 朝日新聞)https://goo.gl/o2p6aE
<2020年東京五輪・パラリンピックのバレーボール会場の見直しで、横浜市が既存の「横浜アリーナ」の活用案について、競技団体の意向を重視することなどを記した文書を、東京都などに出していたことが30日、関係者への取材でわかった。>
<都や大会組織委員会などに提出した。東京大会の成功に向けて「最大限協力する」としたうえで、「(横浜アリーナ周辺の)民有地を活用する際、所有者への交渉などは都や組織委で対応いただきたい」「国内外の競技団体や国際オリンピック委員会(IOC)の意向の一致が重要」などの配慮を求めている。>

 この文書の信ぴょう性については、一部に疑問だとする向きもあります。発出が市長でなく、宛先も都知事でないので怪文書の類であると言った報道もありますが、まだ正式に競技会場として要請されたわけでもない段階でお互いのトップの名前をもって文書を出せるのか?逆にこの段階でトップの名前で正式な文書を出す方が段取りとして疑問という見方もできるわけですね。

 さて、この横浜市からの文書で重要なのが「(横浜アリーナ周辺の)民有地を活用する際、所有者への交渉などは都や組織委で対応いただきたい」という一節。仮に横浜アリーナに決まったとしても、周辺の環境整備に責任は持てませんよと予防線を張っているわけです。というのも、会場そのものがオリンピック競技開催の条件を満たすとしても、それだけでオリンピックができるわけではありません。当たり前ですが、選手の送迎、世界中からやってくる観客をどう迎えるか、導線の確保などをしなくては円滑に競技を開催できません。
 そのあたりの環境整備について、組織委員会の関係者に話を聞くと、
「現実的な問題としては、横浜アリーナは不可能」
と断言しました。
 横浜アリーナの周辺はオフィス街で、かつ周りに練習したりアップしたりするような施設がありません。かつてサッカーワールドカップの決勝戦を開催した日産スタジアム(当時は横浜国際競技場)が近くにありますから実績があるじゃないか!と言われるかもしれませんが、日産スタジアムの場合は鶴見川の河川敷に広大な公園(新横浜公園)があり、その中に練習場などを設置することが可能でした。地図を見れば一目瞭然ですが、横浜アリーナ周辺にそうした施設はなく、ワールドカップの時と同じ新横浜公園や日産スタジアムの付属施設などにアップ場を設置した場合、アップ後にどう移動するのかという問題が発生します。その期間道路を封鎖し、一般車の乗り入れを禁止すればいいという意見もありますが、これについては、
「アリーナの前を通る環状2号線は物流の大動脈。ここを含めて封鎖となれば、営業補償が一体いくらになるのか見当もつかない」
とバッサリ。結局、客観的な条件を挙げると横浜アリーナ案は難しいことは自明なのですが、問題はこれがすでに政治問題化しているというところ。
「小池知事のメンツを保つために政治的に強行することも考えられるけれど、そうなると現場へのしわ寄せは大変なものになる。そもそも、クリスマスまでに会場周辺の環境整備なんてメドを付けることすら無理な話だよ」
小池都知事からのクリスマスプレゼントの中身に、現場は戦々恐々としているようです...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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