2016年10月24日

避難所も思い込みを脱せよ

 先週金曜、鳥取県中部を震源とする地震があり、最大震度6弱を観測しました。被害を受けた方々に、謹んでお見舞い申し上げます。

『鳥取県中部震源の地震、倉吉市などで震度6弱』(10月22日 読売新聞)https://goo.gl/nBV0tl
<21日午後2時7分頃、鳥取県中部を震源とする地震があり、同県倉吉市や湯梨浜(ゆりはま)町、北栄(ほくえい)町で震度6弱を観測した。
 気象庁によると、震源の深さは11キロ、地震の規模を示すマグニチュード(M)は6・6と推定される。>

 ニッポン放送からも、垣花正アナウンサーと報道部後藤記者が現場に入り取材。各番組でレポートを入れ、番組を放送しました。夕方のザ・ボイスでも後藤記者が倉吉市から報告を入れてくれましたが、建物被害に比べてインフラ施設への被害が比較的浅かったことを強調していました。それゆえ、いったん避難所に来た人が片づけの終わった自宅に戻っているといった報告もありました。
 熊本地震では電気・水道・ガスといったインフラの復旧に時間がかかり、そのために感染症の流行に悩まされるなど二次・三次の問題が取り沙汰されました。熊本地震の発災後1週間で私も南阿蘇などの被災地に入りましたが、その時点ではまだ水道が復旧していない地区もあり、取材中に避難所でノロウィルス下痢症の発症を確認。患者を隔離した上で消毒が行われるという現場にも遭遇しました。

 一方、今回の鳥取県中部地震では、これまでのところ感染症が深刻といった報告はされていません。インフラ復旧の早さが関連しているのは言うまでもありませんが、それに加えて避難所というプライバシーゼロの空間ではなく、住み慣れた自宅に戻ることができたというのも大きいと専門家は指摘します。NPO法人・人道災害医療支援会(HuMA)常任理事の石井美恵子さんは、海外での人道医療支援、さらに国内の東日本大震災、熊本地震の避難所支援の現場経験から、日本における災害時の避難所の在り方に疑問を投げかけています。
 沢山の人が避難所となった学校の体育館や教室で暮らすという映像が、災害の度にテレビで流されます。この環境下で生じる心理的ストレス、生活不活発病、エコノミークラス症候群、慢性疾患の悪化。お年寄りが体臭を気にして外で寝ていた現場も目撃したそうです。石井さんは、その環境の悪さは途上国レベルと断じました。

 また、プライバシーゼロの空間が問題だとなれば、体育館に段ボールとカーテンで仕切りを作ったり、腰ぐらいの高さの仕切り板を巡らせて一件落着となる。メディアもそう報じる。しかし、実際に暮らしている人からすれば、結局ヒソヒソ声で喋らなきゃならないのは同じで、多少目隠しをしたところで結局プライバシーゼロは変わらない。
何にも解決していないと思うのだが、せっかく作ってくれたんだから贅沢は言えない。
こういった不満が積もり積もってさらに心理的ストレスが募っていく。ストレスがたまれば、「病は気から」で感染症のリスクも上がることは良く知られています。水が出ない、電気が通じないといったインフラ面が復旧していないのもさることながら、このプライバシー問題は避難生活が長引けば長引くほど重要、深刻になるようです。
 私も一児の父ですが、たしかに息子がいつ泣くか、大きな声を出すかヒヤヒヤしながら生活するのは正直非常にキツイ。つい怒鳴ってしまうだろうと容易に想像がつきます。

 熊本の地震では、そうしたプライバシー問題の当座の解決策として、益城町でテント村が作られました。これはアルピニストの野口健さんが発案、岡山県の総社市が予算を提供して実現したプロジェクト。その経緯や苦労については、ザ・ボイスに野口健さんがゲストにいらっしゃった時に詳しく話していただきました。

『2016/6/15 ザ・ボイス 有本香×野口健 特集「激論ダブルアタック!~熊本地震・被災地での支援活動~」ニュース解説「中国軍艦が日本の領海に侵入」など』
(熊本地震の支援活動については10:42ごろから)

 この、一張り一張りのテントが独立しているというのがポイントだったそうで、子どもが安心して走り回る、大きな声を出す。そうして子どもたちが笑顔になると、親たちも自然に笑顔が生まれ、精神的に前向きになっていく。総社市も、避難所の新しい形になるのではないかと評価しています。
 こうした事実を踏まえると、仮設住宅が整うまでは体育館や教室で大勢が雑魚寝する日本の避難生活が当たり前のように報じられていますが、本当に避難生活なんだから仕方がないのか?それは我々の思い込みなのではないのか?

 先ほど紹介した、NPO法人HuMAの石井さんは一つの選択肢としてキャンピングカーを提案してくれました。
『応急仮設トレーラーハウス』(monotsukuri.net)https://goo.gl/5z0GVL
 このキャンピングカーも長く住めば様々な問題が発生することは本場アメリカでも指摘されていますが、現状のプライバシーゼロの避難所に比べればどれほどマシか。これで、仮設住宅が整備されるまでの3か月から1年、あるいは災害復興住宅の整備までの1年~2年をつなぐわけです。そして、このトレーラーハウスのメリットは、仮設住宅と違って移動が容易で迅速な整備が可能な上、何度も使うことができる。1台400万円~500万円で購入可能。平時に整備するに当たり、予算が少なくて済む。
 一方、デメリットとしては、ある程度広大な場所が必要というところ。広いアメリカならまだしも、狭い日本では適さないと批判されますが、熊本地震で見たように現状ですでに車中泊を選ぶ人も多いわけです。彼らの生活環境を見て、この自動車がキャンピングカーであればどれほど環境が改善されるのか想像するのは容易でしょう。
 いずれにせよ、災害の避難生活も思い込みを脱する必要がありそうです。

※ニッポン放送では、被害に遭われた方々を少しでも支援すべく義捐金を受付中です。
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書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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