2016年10月18日

教条的な一票の格差論議を脱せよ

 今年7月に行われた参議院選挙の、いわゆる"一票の格差"について、各高裁で判決が順次出されています。

『合区効果、高裁どう評価 参院選「一票の格差」訴訟』(10月11日 朝日新聞)https://goo.gl/QE2M5L
<7月の参院選で、選挙区によって「一票の価値」が異なったのは憲法違反だとして、二つの弁護士グループが選挙の無効を求めた訴訟の判決が、14日の広島高裁岡山支部を皮切りに全国14の高裁・支部で言い渡される。今回の参院選では、公職選挙法の改正で隣り合う県を一つの選挙区とする「合区」が2カ所で初めて導入され、格差は縮小した。国会の取り組みをどう評価するかが注目される。>

 今回は議員定数一人あたりの有権者数が最も多い埼玉選挙区と、最も少ない福井選挙区との間での"一票の格差"は3.08倍でした。かつては衆院選で2倍以内、参院選で5倍以内が合憲の一つのラインと言われていましたが、前回、前々回の参院選と4倍台後半の"格差"が「違憲状態」と判断されています。そこで、引いた記事の通り、7月の参院選では2つの選挙区で合区を行い"格差"を3倍台前半まで縮めたのです。
 今日現在での結果は...、

『7月参院選は「違憲状態」=1票の格差訴訟で初判決-高裁岡山支部』(10月14日 時事通信)https://goo.gl/6GLqqd

『1票の格差 7月参院選「違憲状態」 名古屋高裁金沢支部』(10月17日 NHK)https://goo.gl/bnmbZJ

『7月参院選、高松高裁は「合憲」...1票の格差』(10月18日 読売新聞)https://goo.gl/lNszpc

 今回、地元の反対を押し切る形で合区をした2つの選挙区のうちの一つ、「徳島・高知」を抱える四国・高松高裁は「合憲」の判決。さすがに、合区の抱える痛みに対する距離感の近さが、格差是正への努力を認めた判決につながったと言っては感傷的すぎるでしょうか。たしかに、7月の参院選特番を担当した時に地元徳島放送の記者に話を聞きましたが、特に地元から候補すら出なかった高知側の冷たい空気、徳島・高知の気質の違いからくるギクシャクした雰囲気を感じました。登場した記者さんも何か嘆願調で、ご自身が釈然としていないという口ぶりでした。

 さて、どうして合区までして一票の格差に配慮しているかといえば、それは憲法で1票に格差があってはいけないとされているからだといいます。ただし、憲法典にそのものズバリで「一票の格差を生じてはいけない」と書かれているわけではなく、各条文を解釈すると導き出される結論がそうだとされています。

・憲法14条「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会関係において、差別されない。」
・憲法15条「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」
・憲法44条「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。」

 特に44条で「両議院の議員及びその選挙人の資格は」とされているので、究極的に言えば衆議院選挙であろうが参議院選挙であろうが一票の格差は1倍(=格差なし)でなければいけません。ただ、そこまで厳格では区割りが複雑になり過ぎるので、判例を積み重ねることで慣例的に衆議院2倍(小選挙区になってから)、参議院5倍というのが一つの目安になってきました。
 そして、ここ5年の判例は、それすらもヌルイ、もっと厳格に判決を下さなくては政治の側が動かないということで厳しい判断が下されるようになりました。従って、政治の側の長年の怠慢も問題なんですが、もう一つ問題なのは、なぜ格差是正は定数の削減という手段しか議論されないのかというところ。人口の多い地域の議員定数を増やすことで格差の是正を目指すというのも選択肢ではないのか?

 そんなことを言うと、「この財政のひっ迫している時に議員の定数を増やすなんて言ったら選挙に落ちる。身を切る改革って与党も野党も言っているのに、そんなこと主張できるはずがない」と笑われてしまいます。私は、これこそが政治不信の象徴のように思うのです。たしかに議員になれば様々な特権があり、サラリーマンから比べれば多額の歳費が支払われます。素朴にその特権や収入に対し批判的な人ももちろんいるでしょう。ただ、それ以上の働きをしてくれれば、それが国民の目に見える形で表されれば議員特権も高収入も「仕方がない」と思う人も多いのではないでしょうか?議員の特権や高収入についての嫉妬を恐れるというのは、さほど仕事をしていないという自覚があるからなのではないでしょうか?でなければ、きちんと議員の仕事で国に貢献している。民主主義に貢献していると胸を張ればいいのではないでしょうか?議員特権や高収入を批判する人たちも、まさか自分の主張が「合区」という形を取るとは思わないわけです。徳島・高知の例でみたとおり、一票の格差を厳格に是正しようとするあまり地方部の声を国会に届けることすらできなくなるのであれば本末転倒でしょう。

 であれば、いっそのこと憲法を改正し、両院の在り方を根本から議論するのも筋です。欧米は一票の格差に日本よりも厳格だと主張する向きもありますが、たとえばアメリカの上院は州の大きさに関わらず1つの州で2人と決まっています。一票の格差はとんでもない大きさになりますが、多数決によるデメリットを地域の声という形でカバーするというアメリカなりの知恵のようです。

 さて、日本は両院の役割をどう定義していくのか?そういえば、一票の格差をより厳密に是正せよという声が上がりだしたころから、「参院は第2衆議院」「参院は衆院のカーボンコピー」なんて揶揄の声も上がりだした気がします。
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
(2012年1月9日~2018年3月29日)

「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」
(2012年4月7日~2017年9月30日)

・「東日本大震災から7年・・・本気の備えはできていますか」
(2018年3月11日)

・「ザ・ボイススペシャル 福島県の農業は今」
(2018年1月2日)

・「ザ・ボイススペシャル 密着・不発弾処理隊 今なお眠る2200トンとの戦い」
(2014年12月30日)

・「ザ・ボイススペシャル 辺野古の声」
(2013年12月30日)

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