2016年08月30日

マイナス金利包囲網

 日銀がマイナス金利を導入してから今月で半年。来月には金融政策決定会合で、マイナス金利を含む大規模な金融緩和の政策効果の「総括的な検証」を行う予定です。この「総括的な検証」がどういったものになるのか?かねてから金融緩和に懐疑的だった各紙経済面や、銀行、証券、短資会社などの市場関係者の中には、この「総括的な検証」で金融緩和そのものに終止符が打たれるのではないか?とまで言及する人も出てきています。
 「金融緩和には景気を浮揚させる効果がなかった」と結論付けられれば、当然金融緩和は終了となります。中でも「突っ込みどころ」満載のマイナス金利については、批判的な記事が散見されます。

『マイナス金利半年 消費底上げ限定的...目立つ副作用』(8月17日 毎日新聞)http://goo.gl/9DH01p
<日銀がマイナス金利政策を導入し、16日で半年が経過した。企業向け貸し出しや住宅ローン金利が過去最低水準に低下した結果、不動産投資は拡大したが、設備投資や個人消費は活発にならず、期待された効果は限定的だ。一方、金融機関の収益悪化など副作用も目立ち、日銀への風当たりは強まっている。>

 本当にマイナス金利の副作用でデメリットが起こっているなら、メリットとデメリットを天秤にかけて考える必要がありますが、中には「本当にこれ、マイナス金利が原因か?」というようなものまで出てきます。まずは、メリットの面から。上記毎日新聞の記事では否定的に書かれていました。

<日銀は2月16日に導入したマイナス金利政策で、金利を引き下げて企業の設備投資や家庭の住宅購入を活発にする効果を狙った。実際に、企業向け融資や住宅ローン金利は過去最低水準に低下したが、消費も投資も盛り上がらない。>

一方で、住宅ローン金利の低下は確実にGDPの下支えになっています。

『2016(平成28)年4~6月期四半期別GDP速報 (1次速報値)
』(8月15日 内閣府)http://goo.gl/LUEz8g

 この中で、民間住宅は前期比実質5.0%、名目4.5%のプラス。年率換算で、実質21.3%、名目19.3%のプラスでした。この4~6月期の実質GDPは0.0%でしたから、この民間住宅の伸びがなければ確実にマイナス成長だったわけです。
 また、内外需別の寄与度を見れば、外需寄与度マイナス0.3%に対して、内需寄与度はプラス0.3%。数字が小数点以下ばかりで小さな変化ではあるんですが、消費や投資を合わせた内需は<盛り上がらない>ながらもプラスなんですね。

 ところが、大半の記事ではそうしたメリットには少し触れるだけで、マイナス金利がいかに金融機関を苦しめているかに紙幅を割きます。
 たとえば、貸し渋り。
「国債の金利もマイナスに沈んでいて、今銀行は運用に苦しんでいる。これ以上銀行の収益が厳しくなってしまうと、絶対に不良債権を出さないように融資に対して慎重になるだろう。ひょっとすると、貸し渋りや貸しはがしが起こるかもしれない。」
かつて、90年代の後半から2000年代にかけて企業を苦しめ続けた貸し渋り、貸しはがしという単語を出してきて不安をあおります。多少のリスクを取って、成長産業にお金を貸すのが銀行の仕事の一つのはず。かつての貸し渋りは、リスクを取り過ぎるよりも健全性を重視した金融当局の監督姿勢が招いた部分もありました。今は、金融庁もむしろ地域経済活性化へ多少リスクを取っても積極的に融資してもらおうと銀行監督の方針を転換しようとしているんですが、こうした記事の通りであれば銀行側の頭の中は旧態依然としていることになります。

 一方、リスクを取り過ぎて不良債権の山が出来る!という解説もあります。ここ数年、粉飾決算による倒産が増えているというデータを持ち出し、「マイナス金利で経営が苦しくなっている金融機関が、多少リスクの高い貸出先にも融資を増やそうと焦り、粉飾を見抜けなくなってしまう」と言うのです。これも、仮に記事の通りならば銀行の眼が節穴だというようなもの。どちらの例も、仮に事実だとしてもそれはマイナス金利のせいというよりも、金融機関の経営姿勢の問題なのではないでしょうか?

 識者の中には、「金融機関を苦しめるようなマイナス金利はやめるべきだ」と主張する人もいます。そう主張するのであれば、マイナス金利を行うことで得られた住宅ローンの金利低下のようなメリットが消えることもきちんと指摘する必要があります。もしマイナス金利、金融緩和が道半ばで終了するとして、それに代わるような資金の出し手として金融機関が機能してくれるのか?こんなことを書くと、「何をバカなことを!営利企業なんだから、そんなリスクは取りきれないよ」と批判されると思います。仰る通りです。そして、営利企業には負い切れない、損をするリスクを負えるのが中央銀行であり、政府なのです。特に、今のようなデフレ期においては、民間は目先の損を恐れてリスクに対して慎重になります。今こそ、そんなリスクを度外視できる政府、中央銀行の出番のはずなのです。

 マイナス金利を批判するのは簡単です。しかし、それで金融機関の経営が楽になっても、日本経済全体はどうなるのか?今求められているのはミクロの視点ではなく、俯瞰で捉えるマクロの視点なのではないでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

最新の記事
アーカイブ

トップページ