2016年08月08日

バラマキ?水ぶくれ?大盤振る舞い!?

 先週火曜、政府は経済対策を閣議決定しました。事業規模で28.1兆円と規模としては大きなものですが、その内訳を見ると財政投融資が6兆円規模、国と地方の財政支出、いわゆる真水が7.5兆円規模と言われています。景気の押し上げに直接効くと言われる真水の部分は7.5兆。足元の需給ギャップがざっくり10兆と言われていますから、真水だけでは足りない。財政投融資部分がどれだけ即座に効いてくるのか?財政措置の13.5兆以外の民間セクターがどれだけ投資や消費を積み増すかにかかっています。ということで、事業規模こそ大きいものの、内実はちょっと力不足なのではないか?とも思える内容なんですが、それでも大盤振る舞いし過ぎだと非難ごうごうです。

『国の財政 ゆるんだままでは困る』(8月3日 毎日新聞)http://goo.gl/bk665R
<政府は経済対策を閣議決定した。事業規模は28・1兆円とリーマン・ショック以降で3番目に大きい。閣議了解した2017年度予算案の概算要求基準も歳出上限を示さなかった。大盤振る舞いになりかねない。
 国の借金は1000兆円を超す。消費増税も延期した。財政をゆるんだままにする余裕はないはずだ。>
<英国の欧州連合(EU)離脱問題に伴う市場の混乱が落ち着いた今、借金を増やしてまで大型対策を打つ必要があるのか。主要な使途は大型船用の港湾建設などインフラ整備だ。過去の経済対策でも公共事業は景気を一時的に押し上げただけだ。>

『経済対策 見掛け倒しの水膨れ型』(8月3日 東京新聞)http://goo.gl/wg6sO8
<国と地方の財政資金に加え、無駄な公共事業の温床だとして縮小してきた財政投融資を六兆円も投じ、規模を目いっぱい膨らませた印象である。>
<国債の一種である財投債を発行して資金を集め、投融資する仕組みだが、一般会計の枠外なので基礎的財政収支には影響せず都合のいい「財布」だ。しかし、かつて郵貯や簡保の資金を原資に膨張し、無駄な公共事業が問題となって〇一年から改革を進めてきた経緯がある。忘れたのだろうか。>

 規模に対して文句をつけるだけでなく、だいたいセットで公共事業に対しての非難が付いてきます。「財政出動=公共事業=バラマキ=悪」という方程式。上に挙げたのは安倍政権に批判的な2紙の社説ですが、こと経済に関しては政治における論調とは関係なく、だいたいこんな感じの論理構成です。
「財政出動は無駄が多いではないか!バラマキじゃないか!財政規律がまた緩む!安倍政権は第1の矢(金融緩和)、第2の矢(財政出動)よりも第3の矢(構造改革)を進めるべきだ!」
誰でも社説が書けます(笑)。この論調だと、安倍政権が第1の矢の金融緩和のみならず、第2の矢の財政政策にも頼りっきりのような印象を与えます。実際、そういうイメージを持たれている方も多いと思うんですが、データを見ると違います。あの財務省が、こんなデータを出しています。

『日本の財政関係資料(平成28年4月)』(財務省HP)http://goo.gl/fTJssi
<公共事業関係費の総額については、平成9年度のピーク時(当初予算ベース)以降、基本的には減少を続け、平成28年度はピーク時と比較した場合には約▲4割低い水準となっています。>

 公共事業関係費のグラフを見ると一目瞭然。当初予算のみならず、補正予算を合わせても実は民主党政権下と同等かそれ以下の水準でしかありません。もちろん、民主党政権時代は東日本大震災が発災し、その復興予算が組まれたので、特に平成23年度、24年度の補正予算は大きく伸びているわけですが。一方、安倍政権下では毎年度当初予算はおよそ6兆円。補正で積み増しても6.3兆円近辺で推移しているのが分かります。これでどうして、公共事業に頼り切りということになるんでしょうか?

 さらに、上記社説の中には、「公共事業には一時的な景気浮揚効果しかない!」といった記述がありました。公共事業に対する批判の中には「関連する土建業しか儲からない!」といったものも常套句ですが、ホントにニュース見ているのか?と思います。伸びない公共事業費をやりくりしながら、厳選された公共事業が着実に実績を上げ、波及効果を生んでいることが報じられています。

『北陸新幹線 経済波及効果421億円 観光・ビジネス予想上回る 開業1年 /富山』(毎日新聞 4月22日)http://goo.gl/kdtwph
<昨年3月の北陸新幹線開業による県内の経済波及効果(速報値)が421億円に上ることが21日、明らかになった。観光客の増加や新たな企業立地などが主な要因。このうち特に、観光客やビジネス客などの増加に伴う経済波及効果が開業前の推計(118億円)を上回る154億円で、観光・ビジネス効果が予想以上に大きかったことがうかがえる。>

『続く新幹線開業効果 在来線の昨年6月利用実績の2倍 1日7900人』(北海道新聞 7月20日)http://goo.gl/d6zOhd
<北海道新幹線新青森―新函館北斗間の6月の利用実績が1日平均約7900人に上ったことが、19日分かった。大型連休で観光客の利用が多かった5月に比べても、4%ほど伸びたもようだ。在来線の昨年6月の利用実績は同約4300人で、新幹線の利用客は2倍近くになっており、開業効果が定着しつつある。>

 北陸新幹線も北海道新幹線も、「もはや新幹線を造る時代ではない!」なんて批判ばかりを浴びていた路線です。上に挙げた富山は新幹線の途中駅で、金沢や東京に客を奪われるストロー効果で衰退するなんてまことしやかに言われていました。北海道新幹線についても、札幌まで伸びない限り意味がない、厳しいと批判されていたのはついこの間、今年の初めのことでした。

 それが、双方ともにしっかりした経済効果を上げています。公共事業で土建業が儲かるだけでなく、作ったインフラを活用することで旅行客やビジネス客が増え、地域経済全体が潤うようになっています。「一時的な景気浮揚効果だけで、ただの無駄遣い」「儲かるのは一部業種」という公共事業悪玉論の根拠が根底から崩されているのです。日本全体としては景気がずっと足踏みしている中、インフラが整備されればまだまだ潜在的な需要が掘り起こされると、この2つの事例は証明しているのです。

 ところが、こうしたニュースは全国紙の経済面を飾ることはありません。地方面の片隅でベタ記事扱いか、あるいは県版には載っても全国ニュースでは無視されます。
 これでいいんでしょうか?批判をして終わりにするのではなく、検証を行わなくていいんでしょうか?ここ20年続いてきた公共事業悪玉論から、いい加減卒業しなくてはいけません。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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