2016年07月11日

どこをどう改憲する?

 昨日投開票された第24回参議院議員選挙。私も昨夜8時半から開票特番を担当し、開票の行方を見守りながら各党幹部や候補者の話を聞きました。
 全ての票が開いてみれば、自公の与党で70議席を占め、総理が勝敗ラインとした改選過半数、61議席を大きく上回る結果となりました。さらに、自公におおさか維新の会、日本のこころを大切にする党、非改選の無所属議員を加えた「改憲勢力」で参院全体の3分の2を超えました。すでに改憲勢力で3分の2を超えている衆院に加え、参院も3分の2を超えたことで、憲法改正の前提となる国民投票の発議の要件が揃ったことになります。

『改憲勢力、「3分の2」超す 4党に非改選の無所属含め』(7月11日 朝日新聞)http://goo.gl/34EUdk
<第24回参議院選挙の議席が11日午前、確定した。非改選議員を含めた参院全体では、自民、公明、おおさか維新の会、日本のこころを大切にする党の4党に、憲法改正に前向きな非改選の無所属議員を加えた「改憲勢力」が3分の2を超えた。改憲を持論とする安倍晋三首相(自民党総裁)のもと、国会での議論が加速しそうだ。>

 ただ、だからといって今すぐ憲法改正の発議を行うといった拙速なことはせず、憲法審査会で与野党で議論するのが先決だと与党幹部は口をそろえます。総理も、投開票日から一日明けた月曜、会見でこう述べています。

『憲法改正は「わが党の案をベースに3分の2を構築する。まさに政治の技術だ」』(7月11日 産経新聞)http://goo.gl/7ghBrU
<どの条文をどう変えるべきかということについて、憲法審査会において、まずは真剣に議論をしていくべきではないのかなと思います。憲法審査会の場において、所属政党にかかわらず、まずは議論が進んでいく、成熟をしていく、深まっていく、収斂していくことが期待されると思います>

 ということで、ここからどこをどう変えようという議論が始まります。第2次安倍政権発足時から改憲については定期的に紙面をにぎわせていて、最初は憲法9条。続いて、改正要件を定めた96条。さらに現行憲法には記載のない緊急事態条項の整備など様々な案が出てきました。結党以来改憲を党是とする自民党には憲法改正推進本部があり、ここでは去年2月、緊急事態条項、環境権などの新しい人権、財政規律条項の創設を中心に議論することが確認されています。戦争の放棄を定めた9条や改正要件の96条は護憲派からの批判の強い条項。ここから改憲に動くのはさすがに難しいということで、緊急事態条項や環境権などの比較的賛成を募りやすい条項にシフトしているわけですが、ここは良く考えなければなりません。

 私が特に危惧しているのは、財政規律条項を盛り込むことです。財政規律条項とは、極端に言えば国の歳出は原則租税などをもって賄うべしということ。借金してまで歳出を増やすなという緊縮財政を憲法に書き込もうということです。
 なぜこれを危惧するかというと、現在やもう少し前のリーマンショック後の景気停滞期、デフレ期であっても財政を拡大して景気を下支えすることが全くできなくなってしまいます。
 デフレ期には企業も家計もリスクを取って支出を拡大することをしようとしません。お金の価値が放っておけば上がっていく(=物価が継続して下がる)のがデフレ期ですから、モノに投資するよりもカネのままで持っておいた方が得をするわけですね。そんなときに損をしてでもカネを使えるのが、儲けを度外視でき、1年2年の短期ではなく長期で支出することができる政府部門。ところが、そうした「損して得取れ」の損する部分が、財政規律条項を作ると違憲とされる可能性があるのです。

 さらに、現行憲法の99条には憲法遵守条項というものがあります。
<第九十九条  天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。>
公務員はこの憲法遵守義務を負うわけですから、そもそも緊縮財政以外の予算を書くことそのものが出来なくなるわけですね。

 過度の緊縮が景気を悪くするだけでなく、社会不安を呼び起こすということはヨーロッパ各国の財政危機を見ても明らかです。EU各国は基本的に財政赤字はGDP比3%以内に収めよという義務を負っています。これに違反すると、罰金などの制裁を受けることになるのです。目下、EUはスペインとポルトガルに対し、この制裁をちらつかせて赤字削減、緊縮財政の実施を迫っています。

『欧州委が制裁勧告=スペイン、ポルトガルの財政赤字-EU結束に逆風も』(7月8日 時事通信)http://goo.gl/NDe9EP
<欧州連合(EU)欧州委員会は7日、スペインとポルトガルの財政赤字が基準を超過し、十分な是正努力もされていないとして、両国への罰金などの制裁をEU財務相理事会に勧告した。発動されれば初の制裁となる。>

 これに対し、OECDの事務局長やフランスの財務大臣などが発動すべきではないと批判していますが、ドイツなどの北欧の国々は制裁発動を迫っています。

 現在、ヨーロッパの国々も内需が縮小する形でのデフレが近づいています。その時に政府が内需を下支えする形で公共投資をしようとするのですが、EU法によって財政赤字のキャップがはまっているので投資が制約されます。そして、GDPとの対比ですから経済が縮小してGDPが減少すれば、赤字の額もさらに圧縮しなくてはなりません。さらに投資が減って、それだけでは足りずに公共サービスを削る必要すら出てくるわけです。
 従来政府部門が多く支出しているのは社会福祉部門ですから、医療費や各種控除、手当、さらに就業支援などがヨーロッパの国々では削られています。社会的弱者にシワ寄せがくるわけで、当然社会不安が募るわけですね。

 わが国でも、改憲に向けての議論が充実するのは結構ですが、一見誰もが賛成しそうな「広き門」、財政規律条項から入ると、後で大きな後悔を生むでしょう。国の財政を家計簿感覚で「借金は悪!」と議論を始めるのは非常に危険です。
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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