通常国会もいよいよ押し迫ってきました。会期は6月1日までとなっていますが、閉会直前の5月26日、27日に伊勢志摩サミットがありますから、実質的には来週末で終了ということになります。ということで、いったいいくつの法律が成立するのか、どの法律が廃案になり、継続審議になるのかが報道されていますが、一方で消えないのが解散風。衆議院の解散は国会の会期中でしかできませんから、会期末が近づくにつれて話題に上るものです。が、今回は総理が再三再四否定しているにも関わらず風は止みません。総理は今日の衆議院予算委員会でも解散を否定しています。
<安倍晋三首相は16日午前の衆院予算委員会で、夏の参院選に合わせて衆院選を行う同日選に関し「解散については、今まで一度も言っていないし、解散の『か』の字も考えていない」と重ねて強調した。>
今までも国会答弁で解散について何度も否定している安倍総理ですが、永田町の空気を変えるまでには至りません。特に野党幹部からはあからさまな警戒感が表されています。
<民進党の岡田代表は、来年4月の消費税率の引き上げに関連して、「私は、安倍総理大臣が『消費税の引き上げを先送りする』と言って、衆参同日選挙に打って出る可能性が非常に高いと思っている。同日選挙をしないのであれば、秋に先送りを言って、衆議院を解散する選択もあると思う」と述べました。>
<民進党の野田佳彦前首相は14日、神奈川県大和市で開かれた党会合で、「こんな時期に衆院選をやる人は人でなしだが、私はダブル選挙はあると思う」と述べ、安倍晋三首相が衆院を解散し、夏の参院選との同日選挙に持ち込む可能性があるとの認識を強調した。>
新聞各紙は、読売新聞を除いて1面トップで「ダブル選挙なし」をすでに打っています。ゴールデンウィークが明けてもう解散風は止むのではと思っていたんですが、そうはならなかった。なぜか?
様々な角度から理由を説明する人がいますが、まずは総理の解散権というものの効力から説き起こす向き。ある与党議員は、
「解散の効力は2年」
と言います。
衆議院議員の任期は4年。ということで2年というのはちょうど任期の折り返し点になります。折り返し点を過ぎればある程度仕事をしたということでいつ解散してもおかしくないと思われます。その分、伝家の宝刀としての解散権は切れ味を落とすことになるわけです。
「みんな、最初の2年はまさか解散を打つとは思わない。それだけに、解散するぞとなった時のサプライズは凄まじい。これが、2年を過ぎると急激に薄れる」
たしかに、麻生政権時代の衆院解散は任期の直前でした。麻生総理は就任当初から「いつ解散するんだ?」というのがメインテーマのような政権でしたから、解散権の怖さは全くありませんでした。今の衆議院議員の任期は2014年12月にスタートしていますから、今年末が折り返し点。今なら十分にサプライズになります。
もう一つ別の視点は、連立与党公明党の事情から説き起こす向き。もともと公明党は強固な支持基盤を持っているのが強みですが、衆参同日選ではなかなか候補者の知名度が浸透しないのでダブル選挙には否定的と見られてきました。
しかし、ある与党担当記者は、
「どうも公明党はダブル選挙も容認姿勢に転じてきている。その根底には、今の執行部、山口代表・井上幹事長体制を維持したいという思惑があるようだ。井上幹事長は議員任期を満了すると公明党の内規に引っかかって公認されない。山口・井上体制の次がまだ定まっていないだけに、この体制で引っ張るためにはダブル選挙しかないのだ」
と明かしてくれました。
ただでさえ、公明党は前回選挙の時に井上幹事長の続投のために内規を変更しています。
<同党(筆者注:公明党)は昨年末、定年制を定める内規を「任期中に66歳を超える場合は原則公認しない」から「69歳を超える場合」に変更。漆原良夫中央幹事会会長(70)、太田昭宏国土交通相(69)、井上義久幹事長(67)はこの内規に抵触するが、来春の統一地方選に備えて有力幹部の続投は不可欠と判断し、例外扱いとした。>
そして、井上幹事長はある意味絶妙な日に生まれています。
<生年月日(年齢) 1947年7月24日(68歳)>
参院選が行われると言われている7月10日にダブル選であれば、何とか68歳の内に投票日を迎えることになります。もちろん、任期中に69歳を超えるわけで、内規に引っかかることに変わりありません。ですが、支持者を説得するにしても69歳のボーダーを選挙前から踏み越えるか、一応選挙後に超えるかは説得力が違ってくる。その辺のせめぎ合いから、ダブル選挙も容認に傾いてきたというのです。公明党が容認に傾けば、決断は下しやすくなる。まだまだダブル選挙の線が消えない一つの要因になっているようです。
ただ、熊本で地震があっただけに今ダブル選挙は無理だろうというのが相場観です。これについては、「歴史は繰り返す」という視点で説き起こす向きもあります。
ある政界関係者は、
「2011年の東日本大震災のときだって、発災当時はこの国難に与党も野党もないという雰囲気だったが、ゴールデンウィークを超えると当時の菅総理の内閣不信任案を出す出さないの話になった。結局、政局の思惑は災害を越えてしまうんだよ」
と話してくれました。
さて、総理はどのような判断をするんでしょうか?「火のないところに煙は立たず」という諺もあります。何となくの疑心暗鬼の空気があと2週間続きそうです。