熊本地震発災以降、行方不明者の救出活動、生活支援に献身的に活動を続ける自衛隊。発災から2週間を迎え今後は生活支援に軸足が移って行きますが、自衛隊は非常に大きな役割を果たしていました。先週の月曜のザ・ボイス生放送やこのブログの1つ前のエントリーでも報告した通り、私も先月23日~25日に熊本に入り取材をしました。特に南阿蘇村で活動する陸上自衛隊第17普通科連隊を中心に取材をしたんですが、避難所などで取材して感じたのは自衛隊のきめ細やかな支援でした。
今回の地震では、物資が末端に行きわたらないということが問題になりました。いわゆるプッシュ型支援で各自治体にまでは物資が届きましたが、そこから先自治体は頑張るけれども手が回らない。一方、避難所の方は自治体が設けたオフィシャルなもの以外にも、各集落で自主的に集まった避難所もあり、自治体はとてもじゃないが手が足りず、そこまでケアできません。様々なモノが足らないという避難所側のニーズと、様々なモノの在庫は把握していても捌けずにいる自治体側。この目詰まりを、自衛隊が御用聞きのように各避難所を細かく回り、どこに何があるかを情報共有して回っていました。各部隊で連絡係を決めて、電話一本でなんでも相談に乗るという態勢を作っていて、実際に給水の実施や物資がどこにあるのかなどきめ細かくサポートしていました。自主避難所の一つ、栃木(とちのき)公民館の古庄区長は、
「電話一本で何でも相談に乗ってくれる。感謝してもしきれない。大変ありがたい」
と話してくれました。
一方、行方不明者の捜索に関しては、先週火曜日で打ち切りになりました。
<熊本地震で大きな被害を受けた熊本県南阿蘇村河陽(かわよう)にある高野台団地の土砂崩れ現場で25日午後、福岡県久留米市の早川海南男(かなお)さん(71)が遺体で発見されたことを受け、陸上自衛隊は26日、陸自担当の同村の人命救助活動が終了したことを明らかにした。>
この高野台団地の現場にも入りしましたが、膨大な土砂を重機で除去し、要救助者がいるであろう一帯はショベルで土砂をどけてリレーで後ろへ送るという丁寧な仕事をしていました。降りしきる雨の中、状況が許せば交代しながら24時間態勢で捜索を続けていたんですね。
南阿蘇村の土砂崩れ現場はこの高野台団地の他に、いまだ大学生が行方不明なままの阿蘇大橋付近、さらに2人が亡くなった火の鳥温泉でも捜索に当たりました。第17普通科連隊の岩上連隊長に火の鳥温泉での捜索の様子を聞くと、かなり厳しい現場であったようです。土砂が大量に堆積し、要救助者がいたであろう宿泊棟を含め建造物はほとんど跡形もなくなっていた現場。端から土砂をどけていたら、とてもじゃないが72時間以内に発見することは難しいことが予想されました。この72時間とは、災害における人命救助に関する用語です。
<災害で救出を待つ人たちの生存率が急激に低下し、災害医療分野で生死を分けるタイムリミットとされる。>
土砂がどの方向に流れたのかを調べ、土砂の中から出てきた家具の切れ端や調度品のかけらなどからどの部屋かをオーナー立会いの下確認。要救助者がいる可能性が高いと思われるところを集中的に捜索していきました。
その一方、現場で一番恐れられたのが2次災害。国土交通省とも協力し、ドローンを飛ばして上空から土砂の様子を監視し、さらにガケの上に要員を配置し目視での監視も行いました。作業中に土砂に亀裂が見つかり崩落も懸念されましたが、作業続行。結果、72時間以内に要救助者を発見するに至りました。連隊長は、
「残念ながら発見時にはすでに心肺停止状態だったということで命を救うことはできませんでしたが、72時間以内に要救助者を発見するという課せられた使命を果たすことはできました」
と、安堵した表情でした。その安堵の中には、2次災害で部下をケガさせる、あるいは亡くすことなく任務を果たせた安堵も含んでいることでしょう。
事ほど左様に、自衛隊はたとえ災害派遣であっても危険な現場に出動することがあります。不発弾処理や急患輸送を取材した時にも思い知ったんですが、自衛隊は最後の砦。民間や警察・消防も手を出せない現場にも、装備の充実した自衛隊は出ていくことができます。
ただ、それだけ危険な現場に出ていく自衛隊員にこの国はきちんと報いているのか?調べてみると、心許ない現実がありました。少し古いデータですが、平成22年度の防衛省の政策評価の中間段階の事業評価の中に『近年の諸手当の改善及び見直しの状況』という項目があります。その資料の中に特殊勤務手当の概要がありました。
災害派遣等手当は1日1620円又は3240円です。この手当で、命の危険を顧みずに不眠不休で救助活動に当たり、24時間態勢で生活支援に当たっているのです。
もちろん、隊員たちは「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め」と服務の宣誓をしているわけですから、金額で動くようなことはありません。しかし、その心意気に甘え過ぎてはいないでしょうか?彼らにそう聞いても、「我々は国民のためにありますから」と答えます。しかし、風呂にも入らず被災地を走り回る彼らを見て、この働きに応えてあげたいなぁと思いました。
ちなみに、自衛隊の装備予算の中に人件費も入っています。防衛費の膨張を批判する向きもありますが、せめて彼らの手当の増額くらいは許してあげたい。頭が下がる一方で、そう思いました。