先週から政府の『国際金融経済点検会合』が始まりました。第1回の講師は、アメリカ・コロンビア大学教授のジョセフ・スティグリッツ氏。会合では消費税の増税に反対の立場を説明し、それが新聞でも大きく報じられました。
<政府は十六日、世界経済について有識者と意見交換する国際金融経済分析会合の初会合を首相官邸で開いた。講師として招かれたノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授は「世界経済は芳しくない。現在のタイミングで消費税を引き上げるべきではない」と、二〇一七年四月に予定される消費税増税の先送りを提言した。>
<16日の政府の「国際金融経済分析会合」で、ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ・米コロンビア大教授は、消費税率の引き上げ先送り以外にも、財政出動や格差是正のための所得税引き上げなどを、危機脱出の処方箋として安倍晋三首相らに提言した。>
これに対して、会合で話したのは消費増税に対することだけではない。他にもいろいろなことを話していたのに、それが報じられていない!と各方面から批判がありました。どれを報じてどれを報じないというのは各メディアの判断ですから、どうしてもこぼれおちるものがあります。新聞ならば文字数の制限が、テレビやラジオならば時間の制約がありますから。それでも今回は、見出しにこそ取りませんでしたが毎日新聞が炭素税、所得税増税について触れていたり、「良く読めば」それなりに各紙個性を発揮していたようです。もちろん、TPPについては(スティグリッツ教授は反対)日本農業新聞以外触れていないあたり、まだまだ改善の余地があるという批判は免れませんが...。
一方、スティグリッツ氏の発言をマスコミのみならず政府側もいいとこ取りしていると批判するのが、野党第一党の民主党です。点検会合の翌日、17日の朝には党共生社会創造本部主催の朝食会にスティグリッツ氏を招き、講演と意見交換をしました。
<党共生社会創造本部は17日朝、ジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授を招き、東京都内で講演会を開いた。スティグリッツ教授は2014年に亡くなった経済学者の故宇沢弘文氏のシカゴ大学での教え子で、今回の訪日は宇沢氏の追悼講演を行うのが目的。宇沢氏が、かつて民主党が設立したシンクタンクの理事長を務めた経緯から、今回の講演会が実現した。>
この会合には、民主党の国会議員も多数参加していました。その一人、岸本周平衆議院議員は、
<今は、需要を喚起するための積極的な財政政策が必要だが、その財源のためには、格差是正にもつながる資産課税が良いとも指摘。財政のバランスそのものを崩してはいけないとの立場でした。>
<安倍内閣では、「国際金融経済分析会合」でスティグリッツ教授の発言のすべてを公平に取り上げず、消費税の再延期のところだけをプレイアップしていましたが、チェリー・ピッキング(良いとこ取り)はいけません。>
と記し、講演に先立って挨拶した長妻昭代表代行は、
<『わが意を得たり』と思ったのは、スティグリッツ教授の説明資料の中に、『格差と戦う』とか『人間への投資の拡大』ということが書かれてあり、まさに私どもが考えている話と合致している。今日のお話から、格差の壁をどう取り除き、支え合う力をどう育み、日本が持続的な成長をするにはどうしたらいいのか、ご示唆をいただきたい>
と話しました。
ん~、率直に考えて、良いとこ取りしているのはどちらなんでしょうか?格差是正、人への投資の拡大など、もちろんスティグリッツ教授は点検会合でも指摘しているのは事実ですが、その前提としてまずはじめに問題の根本と指摘しているのは、日本国内の総需要不足です。需要が不足しているから、限りあるパイを奪い合って格差が拡大してしまう。人への投資もリターンを期待できないから躊躇してしまう。その問題を解消するには、需要を喚起するような財政出動が必要だ。財源は国債発行でもいいが、(リベラルの立場から)より望ましいのは炭素税や所得税の強化といった、金持ちの負担を増やす税目だ。そして、需要を冷え込ますような消費増税はご法度だし、需要を増やすというよりは海外の供給力が流入してきてデフレを加速させるからTPPは望ましくない。これが教授のかねてから主張していることなのではないでしょうか?総需要不足から説き起こすと、これだけスムーズに話が進むのですが...。
先ほどのハフィントンポストへの投稿の中で岸本議員は、
<格差拡大に反対する「Occupy wall Street」運動の先頭に立って行動したスティグリッツ教授の全体のお話は宇沢先生と同じ、リベラルなもので首尾一貫されていました。マスコミで、教授の発言の全体像が報道されないことが残念です。>
と書いていますが、では民主党はリベラルなもので一貫しているのか?消費増税を積極的に押し進め、金融緩和に反対し、財政健全化を旗印に緊縮財政を主張する。こと経済政策に関しては、一貫してリベラルと正反対の方向を主張しているのが今の民主党です。たまたま格差是正や人への投資という主張が高名なノーベル賞教授と同じだったからと言って、方法論が正反対なんですから、これこそ良いとこ取りそのものではないでしょうか?思えば、去年の今頃、フランスのやはり高名な経済学者、トマ・ピケティ氏が来日した時にも、我々の主張と全く同じだ!と乗っかろうとしましたが、ピケティ氏が消費増税に大反対であったことが分かると潮が引いたように取り上げなくなったことがありました。同じ轍を踏まず、正統派リベラルの経済政策へと転換してくれれば「筋の通ったリベラル!」と評価することもできるんですが...。