2017年4月に予定されている消費税の増税について、総理は報道各社のインタビューや国会答弁で繰り返し、「リーマンショックや大震災のような一大事が起こらない限り、今のところ断行する」と述べています。月20日に辛坊治郎ズームに出演した際にも、辛坊さんの再三の突っ込みを交わしに交わして、その方針に変わりないことを強調していました。
しかしながら、その言葉を額面通りに信じている人は、少なくとも永田町にはほとんどいません。衆参同日選についても総理は再三否定しているわけですが、これと絡めて消費税再増税の延期、あるいは凍結を語る人が非常に多いわけです。しかに、前回衆院選で与党は再び増税を延期するとは言わず、今回一回こっきりの延期だと訴えて選挙を戦いました。いうわけで、もう一度延期、あるいは凍結するとなると公約を違えることになり、だからもう一度国民に信を問わなければならない。なわち、解散総選挙。そして、参院選は7月に予定されているものだから、それと併せてダブル選挙というシナリオが、半ば既成事実のように報道もされています。
ここでは、整理のためにあえて増税の延期と衆院解散を切り離して、増税の延期があるかどうかだけに絞ってみて行こうと思います。というのも、重要なサインが今日の新聞に載っていたからです。
<政府が5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に向け、世界経済情勢について有識者と意見交換する「国際金融経済分析会合」の初会合を16日に開くことが7日、分かった。初会合には、ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授を招く方針だ。>
実は、消費増税をするかどうかの判断の段階で海外からノーベル賞学者を招いて意見を聞くというのは、前回の消費増税延期の時と全く同じ流れなのです。
<安倍晋三首相は6日、来日中のポール・クルーグマン米プリンストン大教授と首相官邸で意見交換し、クルーグマン教授は消費税の再増税延期について、その必要などを説いた。>
このクルーグマン教授との会見の12日後、総理は会見で消費増税の延期を発表しました。当時のクルーグマン教授と、今回のスティグリッツ教授。双方ともノーベル経済学賞を受賞している学会の泰斗。そして、その主張も似通っています。しかし、今回の国際金融経済分析会合の記事では、スティグリッツ教授については各紙概ねこのような紹介をしています。
『16日に経済分析会合、スティグリッツ教授招請』(3月7日 読売新聞)http://goo.gl/JZIfGS
<スティグリッツ氏は、米クリントン政権の大統領経済諮問委員会委員長や世界銀行上級副総裁などを歴任。首相の経済政策「アベノミクス」について、好意的な評価をしている。>
「アベノミクスに好意的」という書き方に抑えているメディアが多く、具体的にどの政策に共感しているのかまで言及しているメディアはあまり見当たりません。ところが、両氏のインタビューを見てみると、アベノミクスの第1、第2、第3の矢のうち、どこに共感しているかをはっきりと提示しています。
<同教授(筆者注:スティグリッツ教授)は22日、東京で行われた報道機関とのインタビューで、今のような「競争的な通貨切り下げ」の時代では、安倍首相の主張する果敢な金融緩和と財政出動が、日本がまさに必要としている政策だと述べた。>
これを読むとわかる通り、スティグリッツ教授はアベノミクスの1本目の矢(大胆な金融緩和)と2本目の矢(機動的な財政出動)をこそ評価しているということが分かります。よく、アベノミクスに足らないものは3本目の矢(成長戦略)だという批判がメディアを賑わしますが、この経済学の巨人は3本目の矢には目もくれず、1本目と2本目の政策ミックスこそが成長のキーだと説いているのです。ちなみに、クルーグマン教授はインタビューでもっと直接的に1本目と2本目のミックスこそ重要だと説いています。
<財政刺激策をやる際には金融面でのサポートがなく、金融緩和をやる際には財政面でのサポートがない。日本の政策当局はいつもそんなことを繰り返し、自らの手で、経済が持続的に改善するという望みを潰してきた。結果、長くデフレから脱却することができず、国民は苦しみ続けてきたのだ。そしてこれは、欧米を含めた世界の先進国にも同じことがいえる。
しかし、昨年末に再登板した安倍首相は、こうしたいままでの世界の政策当局がやってきたのとはまったく違う政策を唱えている。なんとしても経済の長期低迷を終わらせるという決意をもって、金融・財政両面で大胆な政策を打ち出しているのだ。
私はこのアベノミクスを評価している。これこそが日本がデフレから脱却するために必要な処方箋となりうると思っているからだ。>
お分かりでしょうか?スティグリッツ教授を呼ぶと言う意味を。教授はおそらく、消費増税を延期、あるいは凍結するのは第一歩にすぎず、その先には2本目の矢、財政出動を今こそ再び積み増すことが重要であると主張することになるでしょう。折しも国債の市場価格はマイナス金利に突入している昨今。財政出動をするこれ以上の好機はありません。
マスコミ各社は「財政規律が緩む~!」なんて批判の大合唱となるでしょうが、それは来日したスティグリッツ教授に直接聞けばいいのではないでしょうか?ちなみに教授は、財政再建を優先していては、財政赤字自体が減らせないという立場を取っており、財政出動してこそ、経済成長を押上げ、税収も上がると再三説いています。
このブログで指摘している通り、財政出動(公的資本形成)はこのところ一年間、4四半期のうち実に3四半期で前期比マイナス。財政出動こそ必要なタイミングで緊縮財政を敷いてしまっています。いよいよアベノミクス反転攻勢へ。海外要因の不透明さを考えると、今がギリギリのタイミングのようにも思えます。