2016年03月02日

イスラエル旅行報告

 先週一週間お休みをいただきまして、イスラエルに行ってきました。年初からかなりきな臭い雰囲気が漂う中東。イスラエルも、ガザ地区と同地区との境界周辺、ヨルダン川西岸地区(ジェリコ、ベツレヘム、ラマッラ及びこれら3都市とエルサレムを結ぶ幹線道路、西岸内の国道1号線及び90号線を除く)及びその境界周辺、レバノン国境地帯にはレベル3:渡航中止勧告が、私が訪問したそれ以外の地域にもレベル1:十分注意情報が出されています。

 それだけに、街全体にモノモノしい雰囲気が漂っているのではないかと思っていましたが、中は平和そのもの。エルサレムを中心に訪れたんですが、その新市街のオープンカフェでくつろぐ人々の前にはストリートミュージシャンや、若者が集団でダンス。欧米先進国と何も変わらない雰囲気に驚きを覚えました。

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エルサレム新市街の一角。突然、若者たちのダンスパフォーマンスが始まる。とても平和な光景。

 ただ、一つほかの国とは違うなぁと感じたのは、街で見かける軍服の多さ。銃の多さ。この国、国民皆兵ですから。その上、男女の別なく徴兵制ですから。まだあどけなさの残る若者が軍服に身を包み、肩から自動小銃をぶら下げて路面電車やバスに乗ってきます。もちろん、安全装置はついているはずですし、彼らも扱いには慣れてますから問題ないんですが、生活のこんなに身近に銃があるものとは。日本とのあまりのギャップに慣れるまでは終始ドキドキしてしまいました。

 また、旧市街にはご存知の通り、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地が集中しているとあって、様々な肌の色の観光客が来ています。皆さん、一身に祈りを捧げていました。そこで一つ驚いたのは、中国からの方が多いこと。それも、観光目的ならば「さもありなん」なんですが、巡礼目的の方も結構多いのです。イエスが生まれた所とされる聖誕教会で話を伺った方は、中国・内モンゴル地区のカトリック教徒。讃美歌を中国語で合唱し、一心に祈っているその姿は印象的でした。しかしながら、中国共産党政府とカトリックの総本山、ローマ法王庁(バチカン)とは微妙な関係。国交もありません。余計なお世話ながら、本国でのお立場はどうなんだろう...、と思ってしまいました。

 さて、イメージとは違い平和じゃないかと思ったエルサレム滞在。私が宿泊したのは、エルサレム旧市街にあるホスピスでした。といっても、このホスピスは病気療養者のための施設ではなく、キリスト教巡礼者用の宿坊のことをそう呼ぶそうです。エルサレムの旧市街には、こうしたホスピスがそこここにあり、一部は私のようなキリスト教徒ではない人間でも泊めてくれます。夕方、屋上に立つと、目の前に開けるのは夕日を浴びて輝く神殿の丘。イスラム教の聖地、岩のドームがキラキラと光り、ベージュの旧市街の建物群がオレンジ色に染まる光景は何とも言えない艶めかしさがありました。

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ホスピス屋上から見渡した旧市街。左の金色の丸屋根が、岩のドーム。

 さて、そんな平和な滞在だったんですが、実は滞在前後にホスピスから半径200m以内で3件のテロ事件(未遂も含む)が発生していました。以下、外務省海外旅行登録「たびレジ」文面から。
「最近の事案としては、(2月)19日午後、エルサレム旧市街のダマスカス門付近において、パレスチナ人による刺傷事件が発生、警察官2名が負傷し、犯人は、その場で射殺されました。20日午後、同ダマスカス門付近において、パレスチナ人による刺傷未遂事件が発生、犯人はその場で逮捕されました。24日午後、同ヘロデ門付近において、パレスチナ人による爆発物所持事件が発生、犯人はその場で逮捕され、爆発物は無事処理されました。」
 この3件が全て宿泊地の間近、徒歩2分以内で到着できるところばかりです。特に、私が到着したのは22日ですから、24日の爆弾テロ未遂は滞在中でした。期せずして現場周辺を通りかかっていたことになります。(たびレジの情報は後から知った)道路が封鎖され、路線バスの運行も打ち切り。自動小銃を携帯し、引き金に指を掛けた状態で警備する警察官多数。非常に物々しい雰囲気に包まれていました。その後は、辻々に自動小銃で警戒する警察官が立つようになりました。警戒勤務中はもちろんですが、見ていると休憩中と思われる、コーヒーを飲みながら仲間内で談笑する警官たちも自動小銃はスタンバイ状態。銃を置いて休憩することは、私が見ていた限りでは一度もありませんでした。そこで気づきました。これは、『見せる警備』を行う意味もあるのではないかと。

 もちろん、こうしたテロ事件が起こる背景には、イスラエル政府によるパレスチナ地域への強行入植、経済的圧迫などの固有の事情があります。
実際パレスチナ側、ヨルダン川西岸地域も歩きましたが、その格差には愕然とさせられました。インフラ整備が遅れていて、建物もボロボロ、一部ガラスが割れているようなところも...。イスラエルが代行徴収した税金が回されていない、回ってきても腐敗で中抜きされているという事情があるといいます。そもそも土地を奪われたという意識、所得の格差、待遇の差がテロを呼び込んでいる側面を考えると、イスラエル側のテロ警戒の方法は特殊な事例と一蹴することも可能です。しかし、私はそれでもなお日本の警備に参考になる部分が少なくないと思うのです。

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イスラエルとパレスチナを隔てる高さ10mほどある分離壁。その壁面にはこのようなアートが多数描かれている。

 兵士たちの普段の生活でも、テロ警戒でも、国境警備でも、警備する側が装備を前面に出して、見せることで犯罪を抑止しようという考えが徹底されています。銃が生活の隣にある社会を目の当たりにして、抑止力の究極とはこういうことなのかもしれないと思いました。

 翻って日本のことを考えると、基本的に『見せる警備』など論外です。もしこんなことを始めたら、マスコミを挙げての大騒ぎになるでしょう...。「過剰警備!日本はいつから戦争に参加するようになったんだ!?」という見出しが目に浮かびます。
 一方それでいて、悪いことにテロ事件が起こった場合、これまた大騒ぎになることが火を見るよりも明らかです。今度は、「警備は何をやっていたのか!?」、「政権のタカ派的外交がこの事件を呼び込んだ!」といった見出しが踊ることになるでしょう。まさに、テロリスト側の思うつぼ。事を起こしやすい環境の上に、事後の波及効果も計り知れません。

 「大丈夫、日本の警察にもSATのような特殊部隊がいるから。」という人もいるかもしれません。もちろん、特殊部隊のような一選抜のメンバーはとても優秀だと思います。が、しかし。警察官全員がSATなわけではありません。パリの事例を見るまでもなく、同時多発的に起こるのが今のテロです。むしろ、一般的な警察官の実力こそが問われるわけですが、それは非常に心許ないものがあります。

『警察官が人襲った体長120センチ「紀州犬」に13発発砲し射殺 千葉県警「拳銃使用は適正」...住民「バンバンバンの銃声、テレビ番組かと...」 千葉・松戸』(2015年9月14日 産経新聞)http://goo.gl/iYbrWh

 問題は拳銃使用が適正であったかどうかではないはずなんです。記事を見ると、男性署員3人がかりで犬一頭に13発かかったそうですが、深夜であったことを割り引いてもどれだけの腕かと...。銃の使用はおろか、見せることすら忌避する銃アレルギーの世論の空気の中では、警察官たちもどこまで拳銃の使用訓練が出来たのか怪しいところです。普通科(歩兵)の陸上自衛隊士官に聞くと、銃の使用もある程度までは場数。どれだけたくさん弾を撃ったかがモノを言うと教えてくれました。銃アレルギーの空気が場数を踏むのを妨げているとしたら、それ自体がリスクだと言わざるを得ません。

 もちろん、アメリカのような銃社会がいいと言うつもりは毛頭ありません。一般人が銃を持つことを規制する今の日本の法律は素晴らしいと思います。しかし、今のような極端な銃アレルギーの社会で、果たして有事に対応できるのか?イスラエルほど極端ではないにせよ、サミット、ラグビーW杯、オリンピックに向けて、『見せる警備』は検討に値するのではないでしょうか?イスラエルで山ほど自動小銃を見かけて、そんなことを思いました。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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