2015年12月25日

ミュージックソン御礼・レポート追記

 今年もクリスマスイブからクリスマスにかけて、24時間生放送でお送りした『ラジオチャリティミュージックソン』の特別番組。お聞きいただいた方、募金してくださった方、ニッポン放送本社はじめ、各地の募金拠点、愛の泉にお越しくださった方、皆様本当にありがとうございました。なお、募金は来年の1月31日まで受け付けています。引き続きのご協力を、よろしくお願いいたします。

 さて、今回のミュージックソン、私は視覚障がい者の事故についてのレポートを、25日の朝6時台にお送りしました。そこで伝えきれなかったことを記そうと思います。今年2015年は、視覚障がい者が巻き込まれた事故が数多く報道されました。そのきっかけとなったのは、徳島で起こった痛ましい事故でした。

『徳島の盲導犬と飼い主、無念の事故死 バック警報音「どうして義務づけないのか」...法令の死角』(10月9日 産経新聞)http://goo.gl/2kNDmh
<徳島市内で10月3日、視覚障害のあるマッサージ師、山橋衛二さん(50)が、バックしてきたトラックにはねられ死亡し、一緒にいた盲導犬のヴァルデス号も事故に巻き込まれて死んだ。山橋さんは長年、視覚障害者への理解を求める講演活動に携わり、ヴァルデス号は約1週間後に引退を控えた矢先の事故だった。トラックにはバックの際に警報音声を鳴らす装置があったが、スイッチは切られていたことが判明。法令では義務化されておらず、悲しみに暮れる関係者からは警報音声の義務化を求める声があがっている。>

 当日のニュースや翌日の新聞記事のみならず、テレビのワイドショーなどでも大きく取り上げられたこの事故。さらにこんな報道も。

『視覚障害者が巻き込まれた交通事故32件 1~9月』(11月5日 朝日新聞)http://goo.gl/0W2Kvd
<視覚障害者が巻き込まれた交通事故が1~9月、全国で32件あったことが4日、警察庁への取材でわかった。1人が死亡、11人が重傷、20人が軽傷。盲導犬を連れていて巻き込まれた例も5件あった。担当者は「交通弱者をドライバーが保護するのは当然。守る意識を持って運転して欲しい」と話す。>

 こうした報道を見て、今年は視覚障がい者が巻き込まれる事故が多いなぁという印象を持った人も多いと思います。しかし、視覚障がい者の全国団体、日本盲人会連合(日盲連)の鈴木孝幸副会長は、「数字を見ると、いつもと同じという感じだ。」と話します。
「問題は、この32件という数字は全く氷山の一角に過ぎないということが問題だ。これはいわば、立件され、交通事故と認定されているものに過ぎない。たとえば、自転車に接触して白杖を折られたり、曲げられたりという事故はたくさんある。しかし、こうしたケースで相手の晴眼者が立ち去ってしまったら?我々はその人が一体どんな人だったのか説明することができない。結果、立件されない。泣き寝入りというケースもある」
こうした声は、ミュージックソンの放送中、本社1Fで視覚に障害のあるリスナーの方々と話す中でも非常に良く出てきました。日盲連でも全国規模のイベントや会議でも次々と報告が入ってくるようです。

 視覚障がい者が抱えるリスクは道路上に限りません。鉄道駅でも、今年はこんな事故が発生しています。

『白杖挟んだまま発車、視覚障害の男性転倒しけが 常総線』(11月2日 朝日新聞)http://goo.gl/X5sJMP
<関東鉄道常総線の守谷駅(茨城県守谷市)で先月末、ワンマン運転の列車がホームにいる視覚障害者の男性(74)=同県取手市=の白杖(はくじょう)をドアにはさんだまま発車していたことがわかった。男性は引きずられて転倒。左腕骨折などの重傷を負った。>

 視覚障がいを持つ方に取材をすると、駅のホームは非常に危険であると教えられているし、実際そういう認識のようです。皆さん口々に、「駅のホームは欄干のない橋だ」と仰います。つまり、少し油断しただけで生命の危機に直結する。用心して、用心して歩け!ということです。目の見える我々晴眼者側は、そんな危機意識を持って電車を待っている人がどれだけいるでしょうか?

 危険な箇所を挙げればキリがありません。階段の脇の狭くなっているところ。ホームの先端。様々ありますが、最近増えた「黄色い線の内側にお下がりください」というアナウンスも新たな問題を引き起こしているようです。道ホーム改善推進協会の今井真紀会長によれば、
「黄色い線の内側と言われると、点状ブロックギリギリに立って待つ人が多くなる。私たち視覚障がい者がまっすぐ点状ブロックに沿って歩いていくと、足が白杖に引っかかったり、足元に置いた鞄につまづいたり...。それに、視線が前を向いていたりスマホを見ていたりするので、まったく予期せずぶつかることになり、お互いに受け身がとれずに危ない。そして、ぶつかった時にどいてくれればいいが、どいてくれない場合こちらが黄色い線からいったん離れることになるが、これほど怖いことはない。自分は真っ直ぐ進んでいるつもりで、斜めに歩いていて転落する危険がある」
と話してくれました。

 また、2010年末に施行された、いわゆるバリアフリー新法によって駅のホームにはエスカレーターが増えました。これも新たな危険を生んでいるようです。鉄道ホーム改善推進協会でこのエスカレーターの問題に取り組む吉本浩二さんによれば、
「エスカレーターの一番の危険は、入ってはいけない出口側から間違って逆走してしまうと転倒の危険が非常に高まるということです。駅のホームでは上りと下りが並んでいるところも多いんですが、右と左どちらが入り口かは一定ではありません。また、時間によって上り下りが変わる駅もあります。我々視覚障がい者は音を頼りにするしかありませんが、エスカレーター入り口の音声案内は一文が長く、必要な情報を得るまでに入り口で待つ必要があります。周りの人が滞留することを考えると、それができずに間違った方に入ってしまう例も散見されます」
 その上で、香港の事例を紹介しています。
 香港では、進入できる向きか、逆方向かを2種類の別々の音サインで通知しているそうで、進入できる方向なら「ピピピピピピ...」と速いテンポ、逆方向なら「ピ、ピ、ピ、ピ...」と遅いテンポとなっています。そして、この音が継続的に鳴っているので、エスカレータに近づいた時に、即座に進入できる方向かどうかを判断することができるというもの。日本のエスカレーターへの応用もさほど難しくないように思われます。

『日本と香港の比較を踏まえた新しいエスカレータの音サイン提案』(吉本氏HP)http://goo.gl/HSp4f7

 さて、ホームでの様々なリスクを見てきましたが、これらを抜本的に解決するのはやはりホームドア。ただ、既存のホームドアは設置に費用が掛かり過ぎるのがネック。一つの駅で数億円というお金が必要になるそうです。行政の支援はあるとはいえ、企業側もそれなりの額を負担しなくてはいけません。
 さらに、扉の数、車両の数が一定でない路線では設置できない、できづらい(特に私鉄)、線形の関係上、設置できない駅もある(設置するとホームが細すぎて人が歩けないなど...)といったハードルもあります。費用の問題に関しては、これをクリアする昇降式ホームドアという新たな提案もありますが、今度はセンサーの感度を強化すると点状ブロック沿いを白杖を頼りに歩いているだけでセンサーが感知し、駅員さんが飛んでくるなんて状況が生まれてしまいます。

『昇降式ホームドア』(日本信号株式会社HP)http://goo.gl/SrFrs6

 問題は、これらインフラを整備するときに、晴眼者側がまず作り、「どうです?こんなもの作りましたけど?」という形でしか視覚障がい者のニーズをくみ取る仕組みがないということ。鉄道ホーム改善推進協会はそうした問題意識から、設備整備の段階で交通弱者の視点を入れることが出来ないか、様々な活動を行っています。

 そうして、ハード面では徐々に改善されていくでしょう。しかし、ソフト面、つまり晴眼者がどう接していくかという面はこれからの課題です。視覚障がいをお持ちの方々に取材をすると口々に仰るのは、「まずは声を掛けてください」ということ。

「何かお手伝いしましょうか?」

 この一言で視覚障がいの方々がどれだけ安心するか。岡山県立大学の田内特任教授に去年お話を伺った際には、心拍数の変化の図を見せていただき、ホームでのひとり歩きがいかにストレスになっているのかを思い知らされました。声を掛け、晴眼者の誘導を受けるだけでも相当のストレス軽減になることが如実に表れています。前述した全盲連の鈴木副会長も、
「たとえ途中まででも、その間は安心して歩けるというのはとてもとても大きいんです。」
と強調します。

 今日も、『欄干のない橋』を渡って職場へ、学校へ通う視覚障がい者がいます。

「何かお手伝いしましょうか?」

 あなたの一言が、その方の命綱になるかもしれません。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
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