2015年12月09日

GDP改定値が示す不都合な真実

 7-9月期のGDP(国内総生産)の2次改定値が発表されました。先月発表された1次速報では2四半期連続マイナス成長だったものが一転。プラス成長に転じたので、驚きを持って伝えられています。

『GDP改定値 景気依然足踏み 7〜9月、年1%増』(12月8日 毎日新聞)http://goo.gl/9qPOBB
<内閣府が8日発表した2015年7〜9月期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)改定値は、年率換算で前期比1.0%増になり、マイナス成長だった速報値(0.8%減)から2四半期ぶりのプラス成長に転換した。>

 2四半期連続マイナス成長となると、本来は国際的な定義により自動的に景気後退局面と認定されます。しかし、日本政府は1次速報が出たときに、短期的な分析と長期的な分析を分けて発表。足元はあまり良くないものの長期的には成長の兆しがみられるという理屈で景気後退局面に入ったことを認めませんでした。それ自体も首をかしげる内容でしたが、それ以上に不思議なのがマイナス0.8%(年率換算の実質)がプラス1.0%(同)と、実に1.8%分も押し上げられていること。新聞各紙は判で押したように、設備投資の数字が修正されたからだとしています。

<GDPがプラスに転換した要因は、設備投資が速報値の前期比1.3%減から同0.6%増に上方修正されたことが大きい。>

 これだけ数字のブレが大きいと、当然のように数字そのものが疑問だという記事が出てきます。

『GDP改定値0・8%減→1%増の謎 推計精度で大きな"ぶれ" 信認損なう恐れも』(12月8日 産経新聞)http://goo.gl/zPkM0f
<速報値でマイナス成長だった7~9月期の実質GDPが一転、プラス成長となったのは、速報値における設備投資の推計方法の精度に問題がある。GDP速報値では、工作機械や発電機など、機械を作る企業を対象にした調査(資本財出荷)などに基づき、設備を供給する側の動きから設備投資額を推定している。
(中略)
一方、GDP改定値に使う法人企業統計は、設備を導入する需要側の企業約2万7千社に、実際の設備投資額を聞いている。速報値で使う調査には含まれない建築やソフトウエアの投資も調査しており、より幅広い業種の投資状況が反映されている。>

 内閣府が出している元のデータでも、その違いが如実に表れています。
『2015(平成27)年7~9月期四半期別GDP速報 (2次速報値)』(内閣府HP)http://goo.gl/LUEz8g

 各紙が指摘している通り、季節調整済みの実質で民間企業設備が前期比マイナス1.3からプラス0.6へ。GDPへの寄与率で見てマイナス0.2だったものがプラス0.1と押し上げ要因に変貌しています。もう一つの押し上げ要因が民間在庫品増加で、寄与率マイナス0.5だったものがマイナス0.2になっています。在庫調整が進んで在庫が減ったからGDPを押し下げている、これはいいマイナスだという論評が1次速報の時には一部でされていましたが、今回の在庫積み増しはどう評価するのか?私は家計部門の消費が細っているために意図せざる在庫が積みあがってしまい、それが今だに調整しきれていないと見ているんですが...。

 さて、ここまでは新聞各紙も指摘している景気低迷、足踏みの要因なんですが、内閣府から発表されているこの数字を見ていてハタと気づきました。
逆に1次速報から今回の2次速報で大幅に下がっている数字があったんです。それが、公的固定資本形成。同じく季節調整済み前期比でマイナス0.3だったものがマイナス1.5まで下げ幅を拡大しています。

『公的固定資本形成とは』(weblio辞書)http://goo.gl/ZSGJ8K
<公的固定資本形成(こうてきこていしほんけいせい, government fixed capital formation)とは、政府が行う社会資本整備などの投資である。>

 ということは、企業の設備投資は政府の期待にある程度応えて伸ばしている。個人消費は冷え込んでいるがこれは消費税増税の後遺症。そんな中で、本来デフレ脱却に向けて音頭をとるべきの政府がむしろ公的支出を絞って足を引っ張っている。こんな構図が見えてきます。ただ、7-9月期はまだ当初予算を消化している段階。これを見て補正予算が積み増されれば景気を下支えしてくれるんじゃないかと期待したんですが、それは叶わぬ願いのようです。

『「1億総活躍社会」に1・2兆円...補正予算案』(12月8日 読売新聞)http://goo.gl/ZWDzNG
<総額は3・3兆円で、「1億総活躍社会」の実現に向けた緊急対策に1・2兆円、環太平洋経済連携協定(TPP)の対策に0・3兆円を計上する。さらに、地方自治体の財源不足を補う地方交付税交付金を1・3兆円追加する。>

 その後総理が会合で3.5兆円規模だと発言したそうですが、それでも2000億円の積み増しにすぎません。本来の日本経済の実力に対して不景気でどれだけ押し下げられているかを示すGDPギャップは内閣府発表ではおよそ10兆円の需要不足と言われています。それに対して3兆余りでは全く力不足。しかも今回の補正予算は税収が予想よりも増えた分と、前年度の予算の使い残しを合わせた額とピッタリ一致します。つまり、新たな持ち出しは全くせず、手近なところからのカネをひっかき集めた補正。そこに「デフレから脱却するために何でもやるぞ!」という意図を感じることはできません。とりあえず何もしないわけにいかないからやってます。という意識がありありです。

 新聞各紙はGDP1次速報と2次速報でこれだけぶれると信認が疑われるなんて書きますが、本当に信認が疑われているのは、「デフレ脱却に向けて政府は本気なのか?」という点。ここが疑われ出したら、個人消費も設備投資も伸びなくなってしまうのではないでしょうか?本気でデフレ脱却というのであれば、それを数字で見せてほしいものです。
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プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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