先週末の安保関連法制成立を受けて新聞各社が緊急世論調査を行い、その数字が今日の朝刊各紙一面を飾っています。だいたい内閣支持率が落ち、安保法制に関しては議論が尽くされていない、今国会での成立は性急すぎた、説明が足りないといった政権にとってネガティブな見出しが並んでいます。これについては各紙様々な論評・分析をしていますし、正直な話前回衆議院側での採決の時に同じような数字の動きをしていて、ある意味予想通りの展開をたどっています。
むしろ私が気になったのは、せっかく世論調査するのだからということで安保関連法案以外のトピックについても聞いているところ。世論調査を実施した各紙がほぼ横並びで聞いていたのが、『軽減税率』についてでした。
ご存知の通り、マイナンバーを使って食料品などの増税分を後から給付する財務省案「日本型軽減税率制度」というものが今月に入って突然出てきました。新聞業界としては、消費税10%の暁には軽減税率の新聞への適用をずっと求めてきましたから、この財務省案は許しがたい。案が出てきてからずっと反対の論調で紙幅を大きく割いてきた新聞協会会長社、読売新聞は今回の世論調査でも結果を大きく載せています。
<読売新聞社の緊急全国世論調査で、消費税率10%時の負担緩和策について聞いたところ、税率はすべて10%とした上でマイナンバーカードを使って、食料品などの増税分を後から給付する財務省案への「反対」が75%に達し、「賛成」は15%にとどまった。>
<一方、消費税率を10%に引き上げるのと同時に、生活必需品などに軽減税率を「導入すべきだ」と答えた人は63%に上り、「そうは思わない」の29%を大きく上回った。>
同じ設問を共同通信の調査でもしているんですが、わざわざ見出しを一本立てて大きく報じているのは読売のみです。
<消費税率10%への引き上げの際に負担軽減策として望ましいのは「軽減税率」が72・8%で、「還付制度」の13・1%を大きく上回った。>
共同通信加盟社最大手の一つ、中日新聞の紙面でもせいぜい2行足らずの記述ですから、読売の大展開ぶりが際立ちます。それにしても、この軽減税率に関する世論調査で気になるのは、軽減税率について聞いている設問は各紙に見られるのに、肝心の消費税10%への増税の是非について聞いている新聞はほとんどないということ。ザ・ボイスの中でも先週この軽減税率について扱った時に元財務省の高橋洋一さんが指摘していましたが、この議論の中で2017年4月の消費税10%への増税は前提条件になってしまっています。すでに一項目設問を作らなくても、自明の理だろうとばかりの増税への姿勢。今朝の朝刊各紙を見ていても、唯一日本経済新聞だけが消費増税の是非について聞いていました。
<2017年4月に消費税率10%に引き上げる政府方針については賛成が35%で、4月に同様な調査をした時より4ポイント上昇した。反対は57%で1ポイント低下した。自民支持層では賛成が48%と反対の43%を上回り、無党派層は賛成29%、反対61%で傾向が分かれた。男性の41%、女性の30%が賛成し、反対は男性52%、女性60%だった。>
ご覧のとおり、過半数を上回る人が1年半後の消費税増税に対して反対なんですね。同じ日経の調査で安保法制を「評価せず」と選んだ人の割合が54%だったわけですから、同じように「これで増税は問題だ!」となってもおかしくないわけです。ところが、この質問をした日経にしても、見出しだけ見れば10%増税は決まったことのような書きぶり。消費税8%に上げるときにも、10%引き上げを延期した時にも、新聞各紙は東京新聞を除いて右から左まですべて増税大賛成でしたが、今回もやはり一緒ですね。
安保の後は経済に注力するという安倍政権ですが、景気を浮揚させるには国内の個人消費を上げなくてはいけません。そう考えると消費増税はご法度のはずなんですが、この増税一辺倒のメディア状況...。これこそ、熟議が求められるはずなんですが。