鬼怒川の堤防が決壊し、大きな被害が出た茨城県常総市に発災翌日の9月11日、取材に行ってきました。決壊後大量の水・土砂が流れ込んだ新石下地区。その様子はさながら津波の被害を思わせました。
横倒しになったトラック。土砂にめり込んだようになって止まっている乗用車。基礎がむき出しになって中空に浮かんだようになっている住宅。アスファルトは崩れ落ち、県道は寸断されています。そして、その先には、斜めに傾いた電信柱。水の勢いのすさまじさを感じさせる光景が広がっていました。
時折鼻につく、油の臭い。農家や住居の重油タンクから漏れ出したものでしょうか?水面をよく見ると、油が浮いているのが分かりました。
見上げれば、鳥の声がかすかに聞こえるだけの静寂を突き破るように、衛隊のヘリコプターが低空をひっきりなしに飛んでいきます。上空から、要救助者がいないか確認しているのでしょう。それと並行して、警察・消防が手分けをして、流されずに残った家々を一軒一軒訪ね歩いて住民の安否確認をしていました。
県道357号線が寸断され、アスファルトが崩れ落ちている。
この現場の近くにある建築業の方にお話を伺いました。当日は何としても水を食い止めると、直前まで土嚢を作っては置き、作っては置きを繰り返していたそうです。しかし、水の勢いは強まりこそすれ弱まることはなく、やむなく諦めて避難したと話してくれました。応急工事がどこまで可能か、その目安を見に来たとのことですが、現状の厳しさに言葉を失っていました。一体、復旧までにはどれだけの時間がかかるのか、まずは水が引くのを待つのみと語るのが精いっぱいという表情でした。
また、地元で堤防の維持管理をされている方に話を伺うと、川をずっと見てきた経験からすると、上流で500mm雨が降ると危ないという話はしていたそうです。
「かつて、群馬の水上で大雨が降った時には、利根川が氾濫。合流する鬼怒川は氾濫することはなかったが、合流地点から上流へ鬼怒川が逆流した。それから、那須塩原で大雨だった時には、現地からさらに北の那珂川が氾濫。下流のひたちなかが大きな被害を受けた。それやこれやを考えると、上流の日光あたりで大雨が降れば危ないよなぁという話はしていたんだ」
TVで救出劇が生中継された白い家と、その左に男性が救出までしがみついていた電信柱。
このような被害を二度と出さないために、先入観を捨てて考える必要がある。
上流の山々の保水力が細っていること、想像を絶する豪雨が降るようになったこと、さらに、その豪雨が日をまたいで降り続くこと。それら、気候や環境の変化がこうした新しい形での水害を生み出しています。去年広島の土砂災害の現場を取材した時にも実感したんですが、災害の方が先に行ってしまっていて、従来の形の治水・防災・都市計画が全く追いついていないことがこういった広範な被害につながったと思います。
上流側でさらなる砂防ダムや貯水ダムの必要があるのかもしれません。あるいは、山林の整備を通じて山全体の保水力を高める努力をする必要があるのかもしれません。下流側でいくつも放水路を整備したり、一時貯水池を作るなどして水はけを良くすることが必要なのかもしれません。これらの施策はいずれも、ここ20年、税金の無駄遣いだ!と忌み嫌われ続けてきた『公共事業』です。
しかし、現場でこの被害を目の当たりにすると思います。『公共事業』というだけで無駄と決めつけてきたことが果たして正しかったのか?気候・環境の変化に、我々の考え方も変えていかなくてはならない時期にきたのかもしれません。