4~6月期のGDP速報値の発表を前に、エコノミスト予想が出つつあります。
<マイナス成長は3四半期ぶり。天候不順などで消費が振るわなかった上、輸出も低迷した。消費税増税の影響で景気が落ち込んだ後、緩やかな回復を続けてきた日本経済だが、4~6月期は「足踏み状態にあった」(BNPパリバ証券)との見方が多い。>
軒並みマイナス予想ということで、すわアベノミクス失速かという向きもあるようですが、これには数字のマジックがあるので気を付けなくてはなりません。
キーワードは「在庫」。
前期、2015年1~3月期は民間企業の設備投資の増加もさることながら、在庫品の増加が寄与して年率換算3.9%と高い伸びを示しました。たしかに、帳簿上在庫品はプラスの数字で書かれるものですから、在庫を抱えれば抱えるほどGDPは伸びることになります。しかし、これは最終的に売れなければデッドストックとなりますから、景気の動きと数字の動きが逆向きに作用するんですね。すなわち、景気が悪くなると売り先が細ってしまって在庫が増える。在庫が増えると見かけ上のGDPは伸びる。しかし、その後企業は生産を絞って在庫を減らそうとしますから、少し遅れてGDPの数字も下がっていく。
去年は世界経済の見通しが明るかったのもあって企業が生産を伸ばしました。ところが、2015年に入ってからは中国やヨーロッパで先行きが怪しくなって、各国の消費が鈍化。そのため製造業を中心に在庫を抱えたというのが前期の数字というわけです。次の4~6月期はその在庫を吐き出した分だけ下がる、マイナス成長となるのはすでに見えている話であって、これを持ってアベノミクスに黄色信号というのは言い過ぎだということは先に書いておきましょう。
ただし、だからと言って絶好調だとは言えません。今日厚生労働省から発表された毎月勤労統計調査の6月分速報値によると、現金給与総額は2.4%と大幅減となりました、物価を加味した実質賃金は2.9%減となりました。
これは厚生労働省の注釈にもある通り、企業ボーナスの支給時期のズレが大きく影響したものなので割り引いて考えなくてはいけません。それよりも、基本給と残業代を合わせた「きまって支給する給与」は0.4%増となっています。これを総務省が発表している消費者物価指数(CPI)と照らし合わせると、6月のCPI総合がプラス0.4%、5月はプラス0.5%、4月はプラス0.6%ですから、平均するとプラス0.5%。実質の「きまって支給する給与」はほぼ変動なしとなります。すなわち賃金は伸びても縮んでもいないということになり、まさに景気の岐路。少しでも外的な逆風が吹けば吹き飛んでしまうということが言えるのかもしれません。
先日、内閣参与の本田悦朗氏はロイターのインタビューで、3兆円程度の補正予算で下支えする必要があると述べました。
<財政政策では、足元低迷している個人消費が復調しなければ、今年度、国費ベースで3兆円程度の補正予算で下支えする必要があると述べた。>
3兆円というと、ちょうど今年度の税収の上振れ分と相殺となりますから、財務省と厳しい折衝をせずともできる額ということでしょう。安保法制に政治的リソースを割かざるを得ない政権には好都合かもしれませんが、それで果たして足りるかどうか?日銀の試算ではすでに需給ギャップは解消したとのことですが、内閣府の試算によれば今だにおよそ10兆円の需給ギャップが存在するといいます。日本全体で10兆円需要が足りないということですから、単純に計算すると政府サイドで3兆円規模の需要を創出したところでまだまだデフレ圧力は残るということになります。そんな病み上がりの景気で、果たして2017年4月の消費税10%への再増税を迎えられるのか?足元の景気が決して強いとは言えない以上、私はあと1年半では短すぎるような気がしていますが...。