ギリシャ危機が一息をつき、一連の債務危機を総括するような記事が出てきています。だいたい、「ギリシャのようになるな!」、あるいは「ギリシャよりも日本の方が危機的!」といったおどろおどろしい見出しで読み手を引き付けるようです。
中身はどれも似たり寄ったりで、まずギリシャは怠け者で働かず、借金を重ねて散財を繰り返した揚句破たんしたということを強調します。その上で、そんな危機に陥ったギリシャよりも借金を抱えているのが我が日本。ギリシャ人に比べれば勤勉なので今は何とかなっているが、それもいつまで続くのか?先人たちの遺産がまだ豊富にある今のうちに生産性を引き上げる構造改革を断行し、借金を早く返さなくては!と続いていくのが常套句のようです。
雑誌のみならず、新聞の経済欄にもこうした論調が散見されますが、もちろんこうしたギリシャ破たん総括の裏に透けて見えるのが、「借金を返すためにも、消費税率10%への増税は予定通りに!」という主張。さらに、政府の財政健全化計画は成長率を高く見積もり過ぎだ!成長に頼るよりも、歳出のさらなる削減と増税で確実な財政健全化を目指すべきだ!と、最終的なゴールは構造改革、緊縮、増税と流れていくのがこの手の記事のスタンダードです。
たしかに、「ギリシャに学べ!」という主張に異論はありません。全く持ってその通りなんですが、学び方にずいぶんとバイアスがかかっているように思います。
まずは、「ギリシャ=怠け者」というイメージがそもそも何を根拠にしているんでしょうか?たとえば、「怠け者」、「勤勉」といった文脈で良く使われる言葉に「生産性」というものがあります。この生産性という物差しをことさら重用することの危うさについては以前このブログにも書きましたが、参考程度に見てみますと驚きました。ギリシャは、日本よりも生産性が高いのです!
『労働生産性の国際比較』(日本生産性本部)http://goo.gl/DuvLSM
国民一人あたりのGDPで比較すれば日本36315ドル(17位)に対してギリシャ25651ドル(28位)と日本の方が1万ドルあまり上回るわけですが、
労働生産性で見れば、日本73270ドル(22位)に対し、ギリシャ78317ドル(18位)と逆転するのです。もちろんこれには理由があって、ギリシャの場合は失業率が高い=就業者数が少ないので、GDPを就業者数で割る労働生産性では高い数字をたたき出せるんですが。ただ、この数字は裏を返せば職に就いている一人一人は日本以上に懸命に働いてGDPを稼ぎ出しているということで、怠け者批判は決して当たらないということです。もしギリシャ人を怠け者だと馬鹿にするのであれば、日本人も同じように怠け者であると認めるのと同じこと。このレッテル貼りがいかにむなしいものであるかが分かります。
次に、構造改革が進まず岩盤規制が残っている上、歳出削減もまだまだ途上だという批判もありますが、それについては数字がその結果を語っています。2010年の第一次ギリシャ危機から5年、ギリシャ政府はEU諸国やIMF、ECBの言いつけを忠実に守って歳出削減と増税を繰り返してきました。
付加価値税の増税、年金支給開始年齢の引き上げ、各種手当の廃止、公的機関の閉鎖、あるいは民営化...。様々な施策の効果はてきめんで、ギリシャ政府はプライマリーバランス黒字を達成しているのです。
その結果どうなったか?
EUやIMF、ECBは当時、それらの緊縮策を講じれば政府がスリムになってギリシャの生産性は向上し、経済が上向く。そして、財政は健全な方向に向かうと言っていました。では、そうなったのか?たしかに財政は健全な方向に行きました。プライマリーバランス黒字を達成したわけですから。しかし、その一方で、GDPは当時の4分の3に縮小しました。失業率は25%を超え、若年層に至っては5割前後まで悪化しました。自殺率も35%上昇。チプラス首相がかつて主張した通り、過去の緊縮策は「失敗だった」わけです。
ギリシャが行った一連の付加価値税の増税、年金支給開始年齢の引き上げ、各種手当の廃止、公的機関の閉鎖、あるいは民営化...。これらすべて、今国内でギリシャに見習えと言っている人たちが主張していることと丸っきり同じことです。ではギリシャに見習って、これらの構造改革、緊縮財政を不景気下で無理に行うとどうなるのか?GDPの減少、失業率・自殺率の上昇、社会不安。国民生活の危機がやってくるのは目に見えています。今我が国は本当に好景気か?私にはそうは思えません。相変わらず個人消費は冷え込んだまま。去年の消費増税のショックからまだ完全に立ち直ったとは言えません。
ギリシャから学ぶべき本当の教訓。それは、不景気下の増税、緊縮は禁じ手。構造改革、緊縮財政は慎重の上にも慎重を期すべきだということではないでしょうか?