2015年07月14日

悪者はギリシャだけ?

 ギリシャ危機はEUとギリシャの間で最終的に財政再建策で合意しました。

『ギリシャ支援に原則合意 EU側、改革の法制化が条件』(7月13日 朝日新聞)http://goo.gl/gNqIyn
<財政危機に陥ったギリシャへの支援を協議する欧州連合(EU)のユーロ圏首脳会議は13日、新たな支援交渉を始めることで原則合意した。ただし、ギリシャが一部の財政改革を15日までに法制化することなどが条件となっている。>

 ただ、支援には条件が付いていて、これがギリシャの国民投票で問われた緊縮策よりさらにキツイという報道もあります。

<新たな支援交渉を始める条件として、15日までに付加価値税(消費税に相当)や年金などの制度改革を法制化することを求めた。>
<債務の返済や銀行の資本増強のために、500億ユーロ(約6兆8000億円)相当の国有資産を国内に設立する基金に移し、売却・民営化することも合意された。電力公社や地方空港が候補になるとみられる。>

 付加価値税増税や年金の支給開始年齢の引き上げ、さらに公社・空港などの民営化促進...。ほとんど箸の上げ下ろしまで、内政干渉まがいの介入です。しかし、日本国内ではギリシャを擁護するような報道はほとんどありません。ギリシャ人は働かずにストやシエスタばかり、借金を重ねて放蕩の限りを尽くし、今回の危機も自業自得だというように報じられています。まるで、危機を招いた原因はギリシャの国民性だというような論調で、しばしば童話「アリとキリギリス」のキリギリスに例えられたりします。特に、ギリシャに実際に観光や仕事で行ったことのある方は皆、ギリシャ人の国民性の怠惰さを強調し、今回の金融危機の原因とする傾向があるようです。
 私は行ったことがありませんので、実際に見てきた方には勝てません。おそらく、そうした気質があるのは事実なんでしょう。ただ、国民性だけが金融危機の原因なんでしょうか?

 時系列で原因を探ると、危機の前には南欧バブルがありました。ギリシャがユーロに加盟したのは2004年。当時のヨーロッパ社会を見てみると、ドイツはシュレーダー政権下で構造改革にまい進していました。東西ドイツの統一以来経済が低迷していたドイツは不況からの脱出を狙って改革を進めたわけですが、一連の改革は痛みを伴うものでした。解雇の規制を緩める雇用の流動化、公営施設の民営化などなど、供給力を増やす形での改革が進みましたが、国内はそれに見合うだけの需要はおいそれと生まれません。だぶついた国内の在庫をどこに持って行くかというと、ユーロに加盟して購買力を増した南欧諸国でした。

 また、ドイツはこのようにデフレ不況でしたから、金利を低く抑えて金融緩和し景気を下支えしてもらいたい。ということでECBに働きかけて低金利政策を続けさせます。

『ECB政策金利推移』http://goo.gl/RflT9f

 ギリシャがユーロに加盟する前の2003年の半ばから2005年の年末まで、ECBの政策金利は2.0%に張り付いたままです。方、同時期のアメリカFRBの政策金利はというと、

『FF金利の推移』http://goo.gl/RiCWGd

 2003年の半ばに1.0%だったFF金利はその後利上げを繰り返し、2005年の年末には4.25%にまで上がっています。
 政策金利の上げ下げにはその時々で様々な意味が込められますが、基本的には景気を上向かせたいときには利下げ、過熱した好景気を冷やしたい時には利上げをします。
 この時期、世界的に好景気が続いた一方、ユーロ圏では金利が据え置かれお金を借りやすい状況が生まれました。ギリシャを含め南欧諸国も、ECBの低金利政策のおかげでどんどんお金を借りて消費し、さらに好景気が過熱していく。好景気の南欧諸国には金もモノも集まります。不景気にあえいでいたドイツも、好景気のギリシャやスペインに自国製品を輸出してお金を稼いで、少しずつ景気を上向かせました。
さすがにマズイと思ったのか、ECBが景気を少し冷やそうと利上げを画策したこともありましたが、まだまだ景気が本格的に上向いていないドイツとしては具合が悪い。
その上利上げすればユーロ高に相場は振れますから、輸出で稼ぐドイツにとってはやはり都合が悪い。ということでドイツは全力で利上げを止めます。その結果、南欧諸国の景気は際限なく過熱していったわけです。

 その後2006年以降、ECBは矢継ぎ早に利上げを行ってソフトランディングを試みますが、そこへ襲ったリーマンショックとギリシャの財政粉飾発覚。資金の流れが一気に逆回転し、あっという間にギリシャ危機となりました。

 危機の大元を探っていくと、結局ドイツに振り回されているのではないでしょうか。そして、今も金融支援を巡ってやはりドイツに振り回されているヨーロッパ各国。イタリアのレンツィ首相が、ギリシャに緊縮を強制するドイツの強硬さを見かねて「もうたくさんだ」と嘆いたのもうなづけるというものです。

 さて、今回の危機で私が気になるのは、ギリシャの政治環境がこれからどうなるのかというところ。緊縮反対のチプラス氏を首相に選び、国民投票でも緊縮反対の民意を大差で示したにも関わらず、EU、なかんずくドイツの緊縮圧力に屈した形になりました。明確に反対を掲げていたチプラス氏でもまだ弱い。となれば、ギリシャ人はもはや2つの選択肢しか持ちえません。

 さらに強硬な政権を選択するか、EUに頭を垂れ続けて何とか国を回していくか。

 今のところは後者を選択していますが、今後予想される各種緊縮策を実行すれば間違いなく景気はさらに減速し、失業率が上昇し、国民はさらに貧しくなってしまいます。その時に、果たして同じ穏健な政権を選び取るのか?極左か極右か、さらに過激な主張をする政権を選ぶかもしれません。景気がどん底の時には、普段は見向きもされないような過激な意見が庶民の間で受け入れられてしまうというのは歴史が証明しています。

 かつて、世界を巻き込んだ大戦が終わった後、敗戦国には過大な賠償金が課せられました。敗戦国はその勤勉な国民性でコツコツと賠償金を返済してきましたが、世界的な不景気に陥った時に支払いが遅延してしまいました。

 その時、戦勝国は国境付近にある良質な炭鉱を差し押さえてしまいました。石炭を輸出し、あるいは石炭を使った工業製品を輸出して稼いでいた敗戦国は、炭鉱を差し押さえられてしまっては経済がストップしてしまいます。結果、大変なインフレに見舞われてしまいました。

 これでは経済が成り立たないと、敗戦国は戦勝国に頭を下げ、緊縮策を採用する代わりに差し押さえを解除してもらいました。ただ、苛烈な緊縮策を採用したために、今度は激しいデフレが国民を襲います。不景気、失業、貧困化。戦勝国に屈した現政権への不満が高まり、徐々に極論が支持を得て行きます。共産主義政党と民族主義政党が一気に支持を伸ばし、当時世界一進歩的と称された憲法の下での選挙で、民族主義政党が政権を獲得。その後、世界を相手に大戦を引き起こし、人種差別政策で大量虐殺・戦争犯罪を引き起こすことになります。

 お分かりでしょうか?この敗戦国とはもちろん、ドイツのことです。大戦間のドイツが、今のギリシャの姿と重なりませんか?歴史は繰り返すんでしょうか?ギリシャの先行きに、大変憂慮しています。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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