先日の東海道新幹線火災事件以来、新幹線のセキュリティについての報道も様々なされています。
<6月30日午前11時40分ごろ、神奈川県小田原市内を走行中の東京発新大阪行き東海道新幹線「のぞみ225号」先頭車両で火災が発生、緊急停止した。男が先頭車両でガソリンのような液体をかぶり、火を付け死亡した。>
<国交省によると、ガソリンなど可燃性液体の持ち込みは鉄道営業法などで原則禁止されているが、乗客の「良心」に頼らざるを得ない。93年、走行中ののぞみ車内で会社員の刺殺事件が起きたが、その後も荷物に危険物が混入していないかチェックする体制は取られてこなかった。
国交省の担当者は「過去に内々で議論したことはあるが、なかなか難しい」と話す。「新幹線は停車時間も短く、対応は難しい」(中部運輸局の野俣光孝局長)。>
どの報道を見ても、セキュリティ上脆弱であることは指摘されている一方で、その利便性や利用者の希望を鑑みると、飛行機に乗る時のような全員の持ち物を検査するのは難しいとされています。たしかに、こうした運営者側に起因しない形の事故は過去にもあり、その都度全員検査の必要が叫ばれながら実現しなかった歴史があります。1968年には走行中の横須賀線の列車内で網棚に置かれていた時限爆弾が爆発した「横須賀線爆破事件」がありました。15人の死傷者を出したこの事件は、警察庁が広域重要107号として指定し当時の社会の耳目を集めましたが、それが手荷物検査にまでは行きませんでした。鉄道会社側、運営側が人を割いたり監視カメラを増やしたりというハード面での対策は時代とともに進歩してきましたが、客の利便性を削ぐ形でのセキュリティ対策は鉄道会社側からはおいそれと言い出せなかったわけです。
今回の事件においても、運営者たるJR東海の広報担当者も同じ見方を示しています。
<広報担当者は「いつでもすぐに乗れるのが鉄道の優位性。検査を導入すれば利便性が損なわれる」と課題を挙げる。>
この「いつでもすぐに乗れる」というのが鉄道の特色であり、これを変える形での安全対策は出来づらいというわけですが、この考え方は在来線列車の延長です。
高速列車、それも時速200kmを超える列車は本来であれば別物と考えなくてはなりません。何しろ、時速200kmといえば、翼があれば浮き上がるだけのスピードです。浮き上がらないように車体を流線形に設計しなければならないほど。
さらに、停止するには一定の時間と距離が必要で、線路脇に信号があっても運転士は視認できないほどのスピードが出るわけです。(それゆえ、車内信号システム=ATCが発達した)その車内で今回のように事件が起こった場合を考えると、リスク対処法も別で考えなくてはなりません。
航空関係者に聞くと、本音では信じられないと言います。手荷物検査がないことのみならず、時速200kmを超す高速で走行するのにシートベルトもなければ荷物入れにカバーすらありません。乗っていると感じませんが、我々の身体も荷物も、時速200km以上で動いているわけです。これが急停車した場合、荷物が飛び出せばこれは凶器と化します。航空の世界では過去にあまたの不幸な事故があった教訓で、荷物棚にはカバーをかけ、着席時には必ずシートベルトをするようになりました。新幹線は今まで無事故で来ましたから、その分開業時から変わらずに来たわけですね。ただ、今まで事故がなかったからと言ってこれからもそうとは限らない。
さらに言うと、これから先リニアの時代となり時速200kmが300km、400km、500kmとさらに高速化していきます。その上、計画されているリニアはその大部分がトンネルです。トンネルで今回のような火災があった場合、どんなに車体を難燃化していても乗客は危険にさらされます。それを考えれば、多少利便性が損なわれようとも少なくとも手荷物検査は行うべきなんだろうと思います。
日本人は水と安全はタダだと思ってきました。そろそろ、その常識を変えなくてはいけません。安全にはコストがかかるのだということです。利便性は、安全を犠牲にしてでも欲しいものですか?