先週から集団的自衛権の行使を容認する安全保障法制改正に関する審議が始まりました。どうやって我が国を守るのか、今後日本はどのように世界と関わっていくのかといった議論よりは、揚げ足取りのようなやり取りに終始しています。そして、総理のヤジや外相、防衛相の答弁に対する批判の応酬などが飛び交い、揚句先週末にはついに審議が空転してしまいました。
この議論が地に足の着いたものになっていないというのは議論のそこここに見られるわけですが、典型的なものが共産党の志位委員長の質問の中に見ることができました。
<イラクには、対戦車弾、無反動砲、重機関銃を携行――これが戦闘でなくて何なのか
(中略)
志位 いま、初めて、持って行った武器の内容が示されました(パネル2)。パネルにどんなものか写真を掲げております。持って行った武器は、ピストルや小銃にとどまらないんですよ。110ミリ対戦車弾、84ミリ無反動砲、12・7ミリ重機関銃など、文字通りの重装備ですよ。「人道復興支援」といわれたイラクのサマワでも、これだけの武器を持って行ったんです。
「戦闘地域」での「後方支援」となれば、さらに強力な武器を持って行くことになるでしょう。必要な場合は、こうした武器を使って反撃するということになります。相手方が、仮に戦車で攻撃してきて、必要に迫られた場合には、自衛隊はこの110ミリ携帯対戦車弾を使って反撃するということになるでしょう。これが戦闘でなくて何なのか。こういう武器を持って行っているんですよ。場合によっては使うから持って行っているんです。>
記事中では審議で使ったパネルと同じ写真が掲載されています。この質問こそまさに、現場を知らずに国民に恐怖のイメージを植え付ける質問です。
「対戦車弾」「無反動砲」「重機関銃」という単語とともに写真を見せられれば、たしかにこんなに物騒な武器を持って行く必要はなかろう...と大部分の人が考えてしまうかもしれません。しかし、ここで決定的に抜け落ちているのはこれらの武器の具体的な性能、あるいは現場ではどのように使うのか?というところです。
たとえば、84ミリ無反動砲(カールグスタフ)は射程700m~1000m。110ミリ個人携帯対戦車弾(パンツァーファウスト3)は射程300m~500m。ずいぶん遠くまで飛ぶじゃないかと思われるかもしれませんが、軍事の常識から言うとこれらの武器は『盾』にあたる武器で、難民や各国のPKO部隊などを守りながら襲撃集団の侵攻を遅らす「遅滞行動」をとる時には必需品です。襲撃集団を追撃し、蹴散らすために使うにはあまりに射程が短すぎて、敵に近づきすぎ、結果として反撃にあうリスクが高まります。そうした局面がもしあるとすれば(今審議されている法律ではそうした事態は想定されていませんが)、射程30キロ~40キロの自走榴弾砲などを持って行くはずです。しかし、そうした武器は過去の国際貢献活動でも持って行きませんでした。
というわけで、これらの武器は、もっぱら襲撃集団の進撃を遅らせたり、その場に釘付けにしたりしながら安全地帯まで下がるために使われるものです。そうした武器を持って行くことですら「戦闘に行くつもりか!?」と批判するということは、危険地帯で丸腰で退却せよと言うのでしょうか?
今回の国会審議は上滑りの議論だ!政府の説明不足だと言われ批判されているわけですが、果たして現実に即した議論が出来ているのか?野党側も政府側も、果たして現場のことをどこまで承知して議論しているのか、甚だ疑問です。