2015年05月11日

一体どこの国のメディアだ!?

 戦後70年の今年、中国・韓国両国が日本に対して歴史認識問題で攻め立ててきているのは周知のとおりです。それに対し、安倍総理はじめ日本政府としては先日の訪米、日米首脳会談、そして上下両院合同会議での総理演説で一定の結果を出した形になりましたが、韓国はさらなるジャブを繰り出してきています。ゴールデンウィークのさなか、韓国・聯合ニュースはこんな記事を配信しました。

『世界の歴史学者ら声明 安倍首相に歴史の直視訴える』(5月6日 聯合ニュース)http://goo.gl/JSLacS
<世界的に著名な日本学、歴史学などの学者187人が米東部時間の5日、安倍晋三首相に対し旧日本軍慰安婦問題とこれに関連した歴史的な事実をねじ曲げることなく、そのまま認めるよう求める声明を共同で発表した。>

さらに、日本の通信社も追いかけるように翌日、同じような内容で報じています。

『日本は言葉と行動で過去清算を 欧米などの学者187人が要望』(5月7日 共同通信)http://goo.gl/dsHSrL
<欧米などの日本研究家187人が6日までに、戦後70年の今年は「言葉と行動で過去の植民地支配と侵略の問題に立ち向かう絶好の機会だ」とし、アジアの平和と友好のため「できる限り偏見のない過去の清算を(後世に)共に残そう」と日本政府に呼び掛ける声明を発表した。>

『「偏見なき過去の清算を」=学者187人、安倍首相に声明』(5月7日 時事通信)http://goo.gl/dauMQo
<欧米を中心とする日本研究者187人が6日までに、安倍晋三首相に、日本の過去の過ちを率直に認めるよう求める声明を送付した。戦後70年談話を念頭に「過去の植民地支配と侵略の問題に立ち向かう絶好の機会」と指摘し、「可能な限り完全で、偏見のない(過去の)清算をともに残そう」と呼び掛けている。>

 3つの異なるメディアのリードをそれぞれ引きましたが、本当に似たような内容ですね。これだけ見ると、安倍総理に向けて「過去を清算しろ!謝れ!」と欧米を中心とする学者たちが呼びかけているように見えます。さらに、その声明を出したのは、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を書いたエズラ・ボーゲル氏(ハーバード大名誉教授)など錚々たるメンバー。私もこの記事を最初に読んだときには「マズイものが出たなぁ...」「これだけのネームバリューの人たちが声明を出したのは安倍外交にとって厳しいなぁ...」という感想を持ちました。ただ、聯合ニュースの記事をよくよく読んでいくと、この声明のタイトルが「日本の歴史家を支持する公開書簡」ということが分かります。あれ?日本を、安倍政権を非難する声明のはずが、支持?どういうことだ?と思い、この原文を探してみました。

『日本の歴史家を支持する声明』(日本語版PDF)https://goo.gl/Pg9Gru
※英語版など、元となるページはこちら。
『Open Letter in Support of Historians in Japan』https://goo.gl/m4EfWX

 この日本語版の原文と記事の内容を照らし合わせてみると、愕然とします。先に挙げた3つの記事、それらが全て、声明を一部分だけ抜き出し、再構成して、まるで日本政府、安倍政権を批判しているがごとく見せているものだったのです。

 たとえば、共同通信では<アジアの平和と友好のため「できる限り偏見のない過去の清算を(後世に)共に残そう」と日本政府に呼び掛ける声明>と表現し、時事通信も<安倍晋三首相に、日本の過去の過ちを率直に認めるよう求める声明>としていますが、この声明では文中には、

<元「慰安婦」の被害者としての苦しみがその国の民族主義的な目的のために利用されるとすれば、それは問題の国際的解決をより難しくするのみならず、被害者自身の尊厳をさらに侮辱することにもなります。しかし、同時に、彼女たちの身に起こったことを否定したり、過小なものとして無視したりすることも、また受け入れることはできません。>

としていて、中・韓の一部のようなナショナリズムを煽るために慰安婦問題を使うのも許しがたいし、一方で日本の一部勢力にあるような事実を否定したり矮小化するのも問題だと指摘しています。つまり、この声明は日本側だけに狙いを絞っているわけではなく、歴史家として真摯に向き合うためにはどちらか一方に与するものではなく、専門家として冷静に見つめて行こうというものなのです。

 また、前記共同の記事では過去の過ちの清算を日本政府に求めているような書きぶりでしたが、これについても前後を読むとちょっと意味が違ってきます。

<私たちの教室では、日本、韓国、中国他の国からの学生が、この難しい問題について、互いに敬意を払いながら誠実に話し合っています。彼らの世代は、私たちが残す過去の記録と歩むほかないよう運命づけられています。性暴力と人身売買のない世界を彼らが築き上げるために、そしてアジアにおける平和と友好を進めるために、過去の過ちについて可能な限り全体的で、でき得る限り偏見なき清算を、この時代の成果として共に残そうではありませんか。>

 過去の清算を呼び掛ける前段で、日・中・韓の学生たちの話し合いを引いてきています。若者はしがらみがなく冷静に誠実に話し合いをしていることを例に引きながら、その1世代、2世代上の研究者たちは、我々は『でき得る限り偏見なき清算を』、『共に』残そうではありませんかと呼びかけているんです。その呼びかけのあて先は、果たして日本政府だけでしょうか?私はそうは思いません。「共に」と言っているんですから、我々日本はもちろん、韓国も中国も、思惑抜きにしてファクトを土台にして冷静に話し合いましょうよ。そう呼びかけているように思えてなりません。

 そうなると、この声明のどこが安倍総理に対する批判なのでしょうか?ざっくりと言えば、この声明は今まで問題をややこしくしてきたすべての関係者への批判であり、真摯に歴史に向き合っていこうという学者としての誠実さを訴えるものでしょう。

 聯合ニュースは他国のことですから、日本人である私がとやかく言う筋合いはありません。しかし、同胞たる日本の報道機関である共同通信や時事通信が判で押したように曲解するというのはどういうことなんでしょうか?この声明を出した学者の先生方は非常に誠実で、英語だけでなく日本語の声明も仮訳ではなく精査したものとして出しています。さらに、一部報道によると、メディアによって曲解されることはすでに織り込み済みで、真意がきちんと伝わるように事前に在米日本大使館を通じて総理官邸にも送られているそうです。

 これら研究者の細心の注意にたいして、日本のメディアがいかに荒っぽく記事にしていることか。オフィシャルの日本語版があるんですから、訳が間違っていましたなんて言い逃れは許されません。結論ありきで記事を書いているのではないか?そう疑いたくなる杜撰さです。本当に、原本に当たる、一次ソースに当たることの大事さを思い知らされる記事でした。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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