2015年05月05日

連休で息を吹き返す緊縮派

 先週土曜のザ・ボイスのイベントにお越しくださった方々、本当にありがとうございました。また、翌日曜の私のささやかなトークショーにお越しくださった方々、重ねて本当にアリアが問うございました。本当に暖かなお客様ばかりで、拍手や笑いで緊張してガチガチだった私は大いに後押ししてもらいました。今後とも、ザ・ボイスをよろしくお願いいたします。

 さて最近、各新聞の経済欄の論調が変わりつつあるようです。以前は、緊縮、財政再建一辺倒で、金融緩和についてはとにかく懐疑的。日銀の黒田総裁が主導した金融緩和で円安が進んだ時など、「円安不況到来だ~!」とばかりに政権批判、金融当局批判を繰り広げていましたが、足元の景気回復でそうも言っていられなくなったようです。市場関係者が明かします。
「政権からの圧力うんぬんなんかじゃなくて、ある新聞なんて実体経済を目の前で見ている証券部がいい加減にしろってクレームを入れたらしいよ。一面で政権バッシングしてたって、実際に株価が上がっているからね。駅売り主体のその新聞は、そんな一面の見出しで部数が伸びるか!って社内中から叩かれて、最近社内の緊縮派が居場所を失くしつつあるらしい」
業界の噂の真偽はさておき、たしかに最近はあまり金融緩和批判を見なくなりました。

 ただし、ゴールデンウィークはまた別のようです。この時期は国内のストレートニュースが少なくなりますから、各社の社論が大きく紙幅を取るようになります。そして、鬼の居ぬ間の何とやらで、普段は我慢していたフラストレーションをここで発散したりするのです。昨日の日経、一昨日の産経、いずれも財政健全化目標についてのリーク記事を一面トップに持ってきました。

『財政健全化計画、消費税10%超盛り込まず』(5月3日 産経新聞)http://goo.gl/2gnPEd
<安倍晋三首相は2日、今夏に策定する平成32年度までの財政健全化計画に関し、消費税率の10%超引き上げによる財政再建は盛り込まない方針を固めた。>

『財政健全化、高成長が前提 消費税10%超は封印』(5月4日 日本経済新聞)http://goo.gl/Kh9SVD

 改憲を掲げる産経が、憲法記念日の5月3日にわざわざ一面トップでこの記事です。私はそのことに非常に驚きました。さて、いずれの見出しも消費税率について書いていて、言外に「ホントに大丈夫?上げた方がいいんじゃない?」ということを暗示しています。日経はリードの中にも、
<実質2%以上という高い経済成長率を前提にした「成長頼み」の計画で、消費税の10%超への引き上げは当面検討しない。>
と、わざわざ「成長頼み」とカッコ付きで書いていて計画に対して懐疑的であることをにじませています。さらに、日経は3面で解説&有識者インタビューを行う大展開。こちらはさらに露骨に批判しています。

『成長頼み、何度も誤算 健全化へ歳出切込み不可欠』(5月4日 日本経済新聞)http://goo.gl/blhXPg

 見出しだけでも明らかに緊縮路線で行くべきだという論調です。成長を期待しても今までできなかったでしょ?ならば、歳出を削減するか増税するかしか財政健全化は出来ませんよという理論。ただ、総理の意向として消費増税は10%以上には上げないというのがすでに知れ渡っているので解説記事には載せづらい。そこで、有識者インタビューという形で載せるわけです。

『(月曜経済観測)消費増税と景気 悪影響薄れ、脱デフレへ 日本租税研究協会会長 西田厚聡氏 』
この記事の中で西田氏の発言として、
「消費税の増税は避けては通れない。国民全体が広く負担する消費税はこの国の基幹税だ。膨大な財政赤字を抱える日本でこの増税が進まないと、経済が崩壊してしまう。」
「所得税が問題だ。日本では所得税率が10%以下の人が全体の80%以上にも達する。(中略)高所得者にもっと負担してもらってもいいが、人数が限られるので大きな税収にならない。やはり広く負担してもらうことが欠かせない。」
と載っていて、消費税にしろ所得税にしろ、広く負担させる方向へ議論を持って行こうとしています。所得税も広く負担ということになると、各種控除を縮小して税金をしっかり取ろうという方向ですから、これは低所得の人ほど負担感が重くなる逆進性があるのは明らかです。

 財政再建ももちろん大切で、それごと否定するつもりはありませんが、物事にはタイミングというものがある。このブログで何度も主張してきましたが、日本経済にとって財政再建を唯一絶対の目標のように扱うのはどうかと思うのです。

 大雑把にいって、経済には3つの主体があります。「家計」「企業」「政府」の3つですが、今、企業セクターはだいぶ景気が上向いてきています。一方、家計セクターは大企業で賃上げなどもありは徐々に上向いてきたものの、全体で見ればいまだに個人消費が冷え込んでいる通り、まだまだ景気がいいとは言えません。そして、政府セクター。ここが積極的に投資していくのか、それとも引き締めに入るのか。ご紹介した日経、産経が主張したように政府セクターが引き締めに入れば、家計も引き締め、政府も引き締めとなります。そうなると、積極的にお金を使っていこうという需要を生み出すのは主に企業セクターとなり、今よりさらに需要不足が起こるかもしれません。

 ちなみに、今の需要不足がどのくらいあるかというと、およそ10兆円。本来は需要を伸ばしてこれを埋めなくてはいけないんですが、デフレ期はお金を持ち続けた方が得をしますから民間セクターは積極的に使おうとはしません。今は企業は景気が上向いてきましたが、家計セクターの個人消費はまだ期待できるほど回復していません。つまり、企業同士の取引は期待できても、GDPの6割を占める個人消費には期待が出来ないんですね。そこでさらに政府セクターの公共投資も期待できないということになると、企業は国内の需要の見通しに対して非常にネガティブになるでしょう。今は金融緩和で円安が進み、相対的にコストが安くなったので製造業の国内回帰などと言われていますが、それもどこまで続くか。それに加えて、歳出カット、増税ということになると、せっかく上向きかかった日本経済も再び沈みかねません。もっと国内景気が過熱していって、未曽有の好景気になってから増税すれば済む話だと思うのですが...。

 いずれにせよ、休みの間は普段登場しないような記事が出て来るので、まったく油断なりませんね。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

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