中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への我が国の参加を巡って、風向きが少しずつ変わってきています。先週金曜の閣議後の記者会見で、麻生財務大臣が条件付きながら参加に向けた協議に入る可能性にも言及しました
< 麻生太郎財務相は20日の記者会見で、中国の主導で設立準備が進むアジアインフラ投資銀行(AIIB)について、日本の求める条件が確保されることを前提に参加に向けた協議に入る可能性に言及した。英国やドイツなど有力国の参加表明が相次ぐ中、日本としても参加に含みを持たせたものだ。ただ外交戦略も絡み、参加の是非の判断は難しそうだ。>
これに対して閣内では、菅官房長官や岸田外務大臣が懸念を示し、総理も慎重姿勢です。
<一方、菅義偉官房長官は同日の記者会見で「参加については慎重な立場だ」と述べた。
(中略)
岸田文雄外相も同日の記者会見で「現状においては慎重な対応を考えている」と述べた。そのうえで「ガバナンスの確立をはじめ、我々としての考え方を(中国に)引き続き伝えていきたい」との考えも示した。>
<首相は参院予算委員会で、AIIBについて、「IMF(国際通貨基金)や世界銀行とは性格が異なる」と指摘した上で、「中国が国際社会のルールや法の支配を尊重する形で発展をとげる」よう求め、疑問点が解消されないままの参加には消極的な考えを示した。>
財務大臣の会見を見ると突然の方針転換のようにもみえますが、ある財界関係者に聞くと、
「1か月前、すでに外堀が埋められていて、これは既定路線だ。既存のアジア開発銀行(ADB)とは別物として加入すべきだ」
という見方がありました。
1か月前といえば、すでにニュージーランドが参加表明をしていて、イギリスも参加するかもしれないと言われていた時期。先進国でも参加を表明する国が出てきた時点で、今回の方針転換は既定路線であったようです。
しかし、そうなると気になるのがアメリカの動向。なんだかんだ言っても日本はアメリカの意向を忖度します。90年代後半、アジア通貨危機が起こったあと日本政府は、アジア版IMFともいえるAMF(アジア通貨基金)の創設を検討したことがありましたが、アメリカの強硬な反対により取り下げています。では、今回は?政界関係者からはこんな声が聞こえてきました。
「そもそも今回は、英・仏・独・伊のAIIB参加を止められなかった時点で、アメリカが下手を打ったも同然。だから日本が中国を抑える方向で参加すると言った時に止められるわけがない」
すると、こんな報道がアメリカから流れてきました。
<シーツ米財務次官(国際問題担当)は「米国は新たな国際金融機関の誕生を歓迎する」とし、「世銀やアジア開発銀行(ADB)など既存の国際機関との協調融資プロジェクトが実現すれば、実績のある高い融資基準が維持されることになろう」と述べた。>
アメリカはAIIBの中には入らないものの、外からガバナンス体制の整備や透明性の高い運営基準の取り入れに向けて働きかける模様です。一方、中に入る可能性も示唆した我が国としては、どういった条件なら呑めるのか?それについても、すでに財務省からは去年末に具体的な内容が示されています。
財務省の浅川国際局長はAIIBへの参加の条件について、
①ADBとのすみわけをどうするか?
②常任の理事会を置かずに、一部の国の恣意的な融資を防ぐことはできるのか?
③環境に配慮したインフラ構築ができるのか?ちゃんと返せるような適切な融資額にできるのか?
要約するとこのように説明した上で、こう発言しています。
<署名国は、今後1年間ぐらいかけて設立協定を交渉する予定のようです。おそらく、この設立協定の中でガバナンス構造も含めいろいろなことがはっきりしてくると思いますが、今のところはまだ見えてこないものですから、我々としてはAIIBに参加するかどうかの判断はつかないということです。>
参加しないとは言っていない。判断がつかないと言っているわけです。そして、財務省国際局長の立場で「我々は」参加するかどうか判断はつかないとしています。つまり、この問題は外務省マターではなく、財務省マターであるということ。ある霞が関関係者は、このAIIB参加について、
「財務省国際局の所管となれば、間違いなく官邸の意向で動いている。となると、意外と急転直下、今月内に参加表明だってあり得る話だ」
と話してくれました。
戦後70年談話を中心に語られがちな日中関係ですが、今年年央からはこうした経済関連が先行するかもしれません。