2015年03月16日

山田線着工式取材報告

 先週に引き続き、先日行った東日本大震災被災地取材の報告です。先週の土曜日、JRなど鉄道各社のダイヤ改正が行われ、北陸新幹線、上野東京ラインといった新線開業もありましたが、被災地でも鉄道の復活が続いています。

『JR石巻線、21日に全線再開-震災から4年ぶり』(3月6日 日刊工業新聞)http://goo.gl/o8r6bN
<駅(宮城県女川町)が再建(写真)し、21日に約4年ぶりに全線(小牛田―女川)で運転が再開される。震災から4年を迎えた女川町の新たな一歩となり、街の復興に拍車をかけそうだ。>

『被災地の現状:宮城県 創造的復興へ経済基盤整備』(3月7日 毎日新聞)http://goo.gl/prUr4S
<◇鉄道の復旧8割
道路は全区間復旧したが、鉄道の復旧率は81.3%。>

 8割は復旧したということですが、一路線だけ全く手つかずで残っていた路線がありました。それが、JR山田線の宮古~釜石間。沿線に山田町、大槌町といった津波で甚大な被害を受けた地域を抱え、鉄道自体も路盤の流出、橋桁ごとすべてさらわれたような箇所もあり、鉄道での復旧は絶望視されていた路線です。実際、運営するJR東日本は鉄路での復旧をあきらめ、バスによる復旧を地元自治体に提案していました。しかし、地元は鉄道での復旧にこだわり、県や国も入っての話し合いが続けられてきました。その結果、JR主導で鉄道復旧工事をし、その後第三セクターの三陸鉄道への経営移管するということで話がつきました。そして、先日3月7日、宮古駅で着工式が行われ、私もその模様を取材してきました。

山田線着工式.JPG
着工式には、達増岩手県知事、JR東日本富田社長など関係者が出席した

『<山田線>復旧工事に着手 16年秋順次開通』(3月8日 河北新報)http://goo.gl/Z3IV08
<東日本大震災で被災し、第三セクター三陸鉄道(宮古市)への移管が決まったJR山田線(宮古-釜石間、55.4キロ)で、JR東日本は7日、復旧工事に着手した。
(中略)
山田線は津波で181カ所が被災した。地元側はことし2月、JRが移管協力金30億円を支払うなどの条件で三陸鉄道への移管に合意した。復旧費210億円のうち140億円はJRが負担。復興まちづくりに関わる70億円は国の復興交付金を充てる。>

 式典では、JR東日本の富田社長や国土交通副大臣、岩手県知事、宮古市長といった各分野のトップが挨拶をしましたが、その中でちょっと気になったのが、三陸鉄道の望月社長の挨拶。取締役事業本部長の坂下氏が望月社長のメッセージを代読したんですが、その中にこんな一節がありました。

「山田線は、路盤の弱さ、構造物の老朽化などその維持管理に大きな課題があると認識しております。JR東日本様におかれましては、本日から始まる復旧工事において、こうした課題の解決に最大限のご配慮いただきますとともに...」

 この着工式という機会を使って、三鉄の望月社長はJR東日本に対してしっかり工事をしてくださいと釘を刺した格好です。というのも、今回の工事の主体はJR東日本。三陸鉄道としては、工事が終わって経営が移管されるまでは意見はある程度言えても実際の工事をするわけではありません。さらに、リアス式海岸を走る山田線は、海に面した被災区間と、山の中を走る被災していない区間があります。被災していない区間については既存の鉄道施設が丸々残っていますので、極論すればメンテナンスをするだけで車両を走らせることはできるのです。しかしながら、悲しいかなそれまでの山田線は赤字のローカル線。三鉄の部分と比べると、最高時速で10キロ違うなど、路盤の弱さなどに課題があります。これを三鉄のレベルに合わせてほしいというのは以前から指摘されてきたものでした。

三鉄車両.JPG
三陸鉄道の新型車両

『レール9割以上を三鉄規格に 山田線移管へ現地調査』(2014年7月29日 岩手日報)http://goo.gl/KOvfVK
<JR側は被災していない46キロ区間を新しいレールに交換し、全線の9割以上を三鉄の規格と一致させる方針を示した。>

 前々から指摘されていたことだけに、関係者にとっては当たり前のこと。これをあえて着工式の挨拶に盛り込んできたところにこの問題の根深さを感じます。被災地では人手不足や資材不足でコストが高騰しています。コストを絞り込みたいJR東日本と、将来の運営移管を考えれば質の高い設備を求める三陸鉄道。祝いの式典を取材しながら、駆け引きは続いていくなぁと思いました。

 そして、もう一つ、被災地の鉄道復旧の難しさを感じる出来事がありました。岩手県から宮城北部の三陸の海沿いを走る鉄道を北から並べると、三陸鉄道北リアス線(久慈~宮古)、JR山田線(宮古~釜石)、三陸鉄道南リアス線(釜石~盛)、JR大船渡線(盛~気仙沼)となります。そのうち、もっとも復旧が遅れたのが前述の山田線ですが、では真っ先に仮復旧を遂げたのは?というと、JR大船渡線です。ザ・ボイスの2年前の被災地取材では、このJR大船渡線のBRT開業を取材しました。線路が敷かれていたところにアスファルトを敷き、バス専用道として定時運行を目指す、バス・ラピット・トランジットの略、BRT。将来的には鉄路での復旧を目指すということで仮復旧の形だったんですが、そのまま本復旧のメドが立たず今に至っています。

大船渡線BRT.JPG
大船渡線BRT(盛駅)

『JR大船渡線 鉄路早期復旧へスクラム 気仙両市議会が要望』(1月24日 東海新報)http://goo.gl/K8oc1R
<東日本大震災で被災し、BRT(バス高速輸送システム)による仮復旧での運行が続くJR大船渡線の鉄路復旧早期決定を要望。昨年2月にJR側が自治体からの補助を受けての高台移設策を掲げてから目立った進展がみられぬ中、両市議会とも復興まちづくりの重要課題であると強調した上で理解を求めた。>

 JRとしては高台を通るルートを提案し、既存ルートの復旧よりもコストがかかるのでその差額を国や自治体に負担してほしいと要望。一方、苦しい台所事情もあって地元は既存ルートでの復旧を推していて現在調整が続いているとのことです。そこへ、第三セクターへの経営移管という形の痛み分けで、山田線は鉄路復旧に着工する運びとなったわけで、最後まで粘ったもの勝ちか?というやるせなさが大船渡線沿線にはあります。山田線の着工式典後のぶら下がり取材でも、この大船渡線鉄道復旧についての質問が出ました。

 まずは、JRの富田社長。

「大船渡線についても、従来から地元と復旧の在り方について議論を続けているが、鉄道の復旧に際しては津波対策等の安全性の確保、街づくりとの整合性、鉄道と道路の立体交差など詰めるべきことがたくさんある。さらに、費用負担をどうするのか?仮に鉄道で復旧したとして、その後の利用者がどれほど見込まれるのか?利用者に対して鉄道というモーダルが最適かどうか、地元の皆さんとさらに話し合う必要がある。」

 今話し合っているこの環境は、JR東日本にとっては悪くはない。BRTの方がコストが安く済みますから、下手に鉄道復旧の結論が出るよりもこのままの方がいいわけです。それが証拠に、鉄道の路盤をバス専用道に作り替える工事がどんどん進んでいます。

 一方、岩手県の達増知事。山田線の三鉄移管をモデルケースに、鉄道復旧と第三セクターへの経営移管をセットにして大船渡線も復旧できないか?という問いに対し、

「"じぇじぇじぇ"という感じですが、山田線の宮古・釜石間というのは、三鉄南北リアス線との連携した運行ということで、これはこれとしてユニークなケースだと思っています」

 3セク移管となれば費用負担が避けられない県としては、山田線は例外としておきたいというのが本音のようです。双方腹の探り合いの中で、結局このまま定着してしまうのか?この議論に、利用者の声が入っていないのが非常に気になります。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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