2015年03月03日

スカイマーク破綻で悔やまれる点

 航空ファンにとって、今年の年明けは衝撃的なニュースに目を覚まされました。
 世間を大きく賑わした、スカイマークの経営破たんです。格安航空会社LCCとの低価格競争に敗れた、無謀な設備投資を行ったなど様々なことを言われていますが、まずは、その経緯です。

『スカイマーク 民事再生法申請まとめ』(2月20日 読売新聞)http://goo.gl/5mRpFC
<国内航空3位のスカイマークは1月28日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、受理されたと発表した。資金繰りが行き詰まったことから、同日夜の臨時取締役会で自力再建の断念を決めた。当面は航空機の運航を継続する方針。>

<スカイマークは2月5日、投資ファンド「インテグラル」(東京都千代田区、代表=佐山展生氏ら)と再生支援基本契約を結び、将来の出資を前提としたつなぎ融資などで最大90億円の資金支援を受けると正式に発表した。>

 そして、先月の終わりにかけて再建を支援する航空会社が次々と名乗りを上げました。

『スカイマーク支援、スポンサー候補出そろう』(2月24日 日本経済新聞)http://goo.gl/Lr1lC8
<国内航空3位、スカイマークの再建を支援する航空会社の候補が出そろった。本命視されてきたANAホールディングスのほかマレーシアの格安航空会社(LCC)エアアジア、米大手のアメリカン航空、デルタ航空が名乗りをあげた。>

 この破たん劇に関しては、上記読売新聞の記事の中にもあるように、『A380』という旅客機の名前がキーワードのように語られています。

<スカイマークは2014年7月、欧州旅客機大手エアバスから大型機「A380」6機を購入する契約の解除に伴って、7億ドル(約830億円)の違約金の支払いを求められ、経営不安に火をつけた。>

 このA380とは、世界最大級の旅客機。世界初のオール2階建て飛行機という触れ込みで、2007年10月にシンガポール航空で就航した際には大きな話題となりました。仮にすべてエコノミークラスにすれば800席を超える座席を配置することができますが、その巨大さゆえに1機当たりの値段も膨大なもの。結果、その代金を用立てることができず、違約金を抱え込むと債務超過になるということで今回の経営破たんに至ったというのが大方の見立てです。

 しかし、この「無謀」と言われたA380購入計画。本当に無謀だったのか?
 実は、購入を発表した際には各メディアとも比較的好意的に受け止めていたのです。

『スカイマーク、国際線で"脱皮" 全座席が上級クラス、料金は半値以下』(産経Biz 2013年4月11日)http://goo.gl/eTsPi
<中堅航空会社のスカイマークが仕掛ける国際線への進出計画が具体化してきた。大手の牙城である長距離の主要路線で超大型機を飛ばし、全席を上級クラスに限定するという大胆な試みに向け、操縦士の訓練など準備を着々と進めつつある。>

 好意的に受け止めるということは、当時のスカイマークの説明には一定の説得力があったということ。そのビジネスモデルは、航空業界の常識を変える可能性を秘めるものでした。

<日本と欧米主要都市を結ぶ路線は、全日本空輸や日本航空の金城湯池で、真っ向勝負しても勝ち目は薄い。そこで考え出したのが、大量の客を運べる超巨大機のA380を導入して1席当たりのコストを下げ、合わせて全席をエコノミーより座席間隔が広いプレミアムエコノミーとビジネスに限ることだった。>

 現在の航空会社の収益構造を見てみると、エコノミークラスは様々な割引運賃など価格破壊が進んだので利幅はかなり薄くなっており、一方でファーストクラスは設定路線がさほど多くないのでこちらもそれほど収益に貢献していません。主に、ビジネスクラスで収益を稼ぎ出しているのが今の実態です。そこに目を付けたのが、当時のスカイマーク・西久保社長。およそ6割の搭乗率で利益を出せると算盤をはじきました。

 考えてみると、スカイマークは創立当初、JAL、ANAの二強寡占体制に価格で勝負し風穴を開けたことで存在感を示しました。当時、JAL、ANAの2社は競合する路線を狙い撃ちにするように値引きをすることで対抗。結果として、一般の消費者にとっては新幹線に並ぶ選択肢になるくらい価格が下がってきて、空の旅が非常に身近になりました。

 そうした、空の旅のイメージを大きく変えるかもしれない大変革が、今度は国際線の、それも憧れのビジネスクラスで実現するのか?『第3の創業』とも呼ばれたこのA380プロジェクトは、当初それだけの期待を集めたものでもありました。
 現在、そんな報道はなかったかの如く、経営陣の判断ミスを指摘する記事があふれています。たしかに、今回の経営破たんで利用者のみならず、スカイマークで働く人々の生活にもネガティブな影響を与えています。それゆえ、経営陣は批判を甘んじて受けなくてはいけませんし、実際受けています。

 ただ、それだけでいいのか?持ち上げるときはどんどん持ち上げるが、叩くとなればそんなことを忘れたように叩くという、メディアの本質を余すところなく映し出す今回の騒動。航空ファンとしてもったいないと思うのはのは、A380という航空機の可能性の芽を摘んでしまったことです。

 実は、このA380、売れていません。

『超大型旅客機A380の販売不振、製造中止も選択肢か』(CNN 2014年12月14日)http://goo.gl/B8svwu
<航空機製造大手の欧州エアバス・インダストリーが、総2階建ての超大型旅客機A380の機体更新もしくは製造中止かの選択を迫られる重大な局面に直面している。(中略)
財務担当責任者は製造中止も選択肢の1つだろうと認めている。>

 大量の人を一気に主要空港に運んで、そこからローカル線に乗り換えて目的地まで運ぶという「ハブ&スポーク」というモデルよりも、そこそこの大きさの飛行機をたくさん揃えて中程度の都市まで直行便を飛ばすというモデルの方が効率的というのが今のトレンドになっています。そんなときに、利幅の薄いエコノミーが大量にある巨大なA380を飛ばしても利益が上がらない。むしろ、燃費が悪くて赤字になる可能性もあるということで、世界中の航空会社がこのA380を敬遠しているのです。

 そんな折に、航空会社にとってうま味のあるオールビジネスクラスのA380を使うというスカイマークのモデルが軌道に乗れば、この旅客機の新たな可能性が開けたかもしれないのです。消費者にとっても憧れのビジネスクラスが格安で使えるとなれば、これは嬉しい。そして、エアバス社にとっては新たな売り込み先ができるということで、近江商人の三方良しを地でいく話になったかもしれません。それだけに、そうした我慢が出来ずに目先の違約金を請求したエアバス社の姿勢は、残念でなりません。

 ビジネスクラスはやっぱり手の届かない、憧れの存在のままのようです...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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