2015年01月23日

郵便法に存在するブラックホール

 世の中、イスラム国による邦人2人殺害警告のニュース一色になっています。もちろん、今回のイスラム国による蛮行を許すことはできないし、安易に身代金を支払ってテロに屈するようなことはできるはずもありません。したがって、メディアのニュースがこれ一色になるのも仕方がないことなんですが、一方でこういった時には、普段ならもっと騒がれてもいいような重要なニュースがスルーされることがよくあります。今回私が「あれっ?」と思ったのはこのニュースです。

『ヤマト、メール便廃止』(1月23日 日本経済新聞)http://goo.gl/LrdnBG
<ヤマト運輸は22日、3月末でメール便サービスを廃止すると発表した。メール便に手紙などの「信書」が交ざると、利用者に刑事罰が科される恐れがあり、誤った利用を避けるためだ。メール便事業では信書の取り扱いを巡りヤマトと総務省の間で争点となっている。取り扱いが減っていることもあり、4月から新サービスに移行してテコ入れする。>

 要するに、ヤマト運輸としてはメール便に手紙などの「信書」が入っていると、お客さんが犯罪者になってしまう恐れがあるからこのサービスは廃止するとのこと。では、信書とは一体何なのか、そして、入っていた場合どんな刑罰があるのか?

『信書に該当するものを教えてください』(日本郵政HP)http://goo.gl/GPNeS

『郵便法』http://goo.gl/mdcl7
<第七十六条 (事業の独占を乱す罪)  第四条の規定に違反した者は、これを三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

※参考
第四条 (事業の独占)  会社以外の者は、何人も、郵便の業務を業とし、また、会社の行う郵便の業務に従事する場合を除いて、郵便の業務に従事してはならない。ただし、会社が、契約により会社のため郵便の業務の一部を委託することを妨げない。
○2  会社(契約により会社から郵便の業務の一部の委託を受けた者を含む。)以外の者は、何人も、他人の信書(特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう。以下同じ。)の送達を業としてはならない。二以上の人又は法人に雇用され、これらの人又は法人の信書の送達を継続して行う者は、他人の信書の送達を業とする者とみなす。
○3  運送営業者、その代表者又はその代理人その他の従業者は、その運送方法により他人のために信書の送達をしてはならない。ただし、貨物に添付する無封の添え状又は送り状は、この限りでない。
○4  何人も、第二項の規定に違反して信書の送達を業とする者に信書の送達を委託し、又は前項に掲げる者に信書(同項ただし書に掲げるものを除く。)の送達を委託してはならない。>

 違反すれば、3年以下の懲役または三百万円以下の罰金という驚くほど重い罪が科せられることになっています。これと同等の罪を調べますと、

・著作権侵害
・産業廃棄物の不法投棄
・児童買春周旋(児童ポルノ禁止法違反)
・強制退去の外国人を匿う
・医薬品の無許可販売
・無限連鎖講(ネズミ講)の開設、運営

などが挙げられます。どれも、常識に照らしても「悪いこと」なわけで、それらの行為と並ぶ(あくまで法律上は)犯罪と隣り合わせで生きているというのはちょっと驚きです。

 さて、上記日経の記事によれば、そうした犯罪行為とみなされるリスクもあるのでこのサービスは廃止にする。ただし、利用客の9割は法人なので、新サービス移行に伴う影響は小さいだろうとのことです。そう書かれると、我々の生活には直接関係のないニュースのようにも読めますが、そうも言っていられません。まず、残りの1割に当たる個人顧客にとっては、コストが大幅にアップします。残り1割というと少ないように感じますが、全部で21億通の1割ですから、それでも2億1千通以上。影響は大きいわけです。

 そして、コスト面から分析すると、現行のメール便は1通当たり80円ちょっと。これが、新サービスに移行すると、倍以上になってしまうことが確実です。類似サービスとして、日本郵政が運営する「ゆうメール」というものもありますが、こちらは最も安くて1通180円。やはり、倍です。さらに、こちらは荷物の追跡ができません。

 この個人で使うヤマトメール便は、インターネットオークションで商品を発送する際によく使われていたそうなんですが、ユーザーは値段もさることながら、ヤマトメール便なら宅急便と同じで荷物の追跡サービスを利用できる安心感で利用することが多かったようです。ユーザーに取材をすると、ただでさえ顔の見えないネットオークションの世界。落札できても商品が手元に届くまで本当に安心はできないが、荷物の追跡が出来れば最小限どこにあるのかが分かるのである程度安心できるし、発送されていなければ即座に問い合わせることが出来る。だから、今回のサービス廃止は非常に残念という声が聞こえてきました。

 さらに問題なのは、ヤマトのメール便のサービスは廃止されても、当然のことながら郵便法76条はなくなるわけではありません。ということは、たとえばオークションで落としてくれた人にお礼状を添えて発送すると、宅配便であっても罰せられる可能性があるわけです。あるいは、親元から子へ宅配便を送るとき、品物に手紙を添えて出すと罰せられる可能性があるわけです。なんて人情のない世の中でしょうか。こうした馬鹿げた規制を取っ払うのが、アベノミクス第3の矢、成長戦略、規制改革の眼目だったのではないでしょうか?もちろん、何でもかんでも緩和すればいいというものではなく、緩和することで新たな既得権者が生まれては元も子もないわけですが、このメール便の件に関しては問題です。何しろ、「これからのイノベーションを育てるための改革」ですらなく、「今すでにあるイノベーション」を潰す悪法としか言いようがないわけですから。

 ちなみに、日本郵政が手掛けている「ゆうメール」も同じ仕組みですから、法律上は全く同じリスクを抱えているにもかかわらず、廃止するという議論は一切聞こえてきません。なぜ、日本郵政は平然としていられるのか...?ここにも、裁量行政の弊害を感じずにいられないのですが...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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