2014年10月06日

メディアが伝えない新幹線の偉業とは

 先週水曜、10月1日に新幹線が開業から50年を迎えました。
 1964年(昭和39年)に行われた東京オリンピックに合わせて、開会式の10日前に開業した東海道新幹線。そこから50年の節目を迎え、各メディアが新幹線50年の大特集を軒並み組んでいます。ためしにGoogleで『新幹線 50年』と検索してみると、ニュースだけで8万件を超える検察結果が上がってきました。いかに新幹線が日本国民に根付いているかがわかります。
 そうした記事を眺めていますとよく出てくるのは、50年で56億人あまりを運んだ。その間脱線や衝突などの列車事故で死亡した乗客はゼロだった。というような見出し。あるいは、支えてきた人々のエピソードを紹介するような記事が大半を占めていました。

 こうした新幹線物語の数々は、私のような鉄道ファンからすればどれだけ読んでも飽きがこない、時間を忘れて読みふけりたいものなんですが、一つあまり語られていない新幹線の意義があります。それは、我が国のみならず、世界の鉄道史に燦然と輝く大偉業。
 ちょっと抽象的なんですが、『鉄道そのものの存在価値を見直させた』ということでした。

 新幹線が開業したのが1964年。
 計画が動き出したのがその6年前の1958年(昭和33年)。
 その当時の世界の交通事情がどうであったかというと、こと長距離輸送に関しては「鉄道の時代は終わった」というのが大勢でした。すでに第2次世界大戦前から航空機や自動車との競争に直面していたアメリカでは、州間高速道路網の整備によって長距離バス(グレイハウンド)が台頭。さらに旅客機も新機種の投入が相次ぎます。
 新幹線計画承認の前年、1957年の末にボーイング707が就航し、ジェット旅客機の時代の幕が開きました。その翌年の1958年にはボーイングのライバル、ダグラス社からDC-8、さらにその翌年の1959年にコンベア880が初飛行し、初期ジェット旅客機が揃うこととなります。
 1957年の調査では航空機の旅客量が鉄道を初めて上回ったということで、鉄道の凋落がすでに際立ってきたころでした。
 日本国内でも1957年に名神高速道路「小牧~西宮」間で施工命令が下っていて、アメリカのように航空機と自動車による交通革命が起こるのではないかと言われていました。
 要するに、世界的に長距離輸送は鉄道・船舶から旅客機へという流れが出てきた頃なんですね。そんな世の中で、新規に高速鉄道を敷こうというのは嘲笑の的。特に、海外事情を知るインテリほど反対しました。
 たとえば、鉄道ファンで有名な作家の阿川弘之は「四バカ論」を唱えて反対を表明。「世に四バカあり。万里の長城、ピラミッド、戦艦大和に新幹線。いまさら時代遅れの大建造物を作っても、無用の長物。莫大な建設資金返済に苦しむだけだ」と言ったのです。阿川はその後、新幹線の成功をみて「不明を恥じる」という記事を出していますが、これこそがまさに当時の世界の空気。その空気を一変させたことこそが、新幹線の世界的な意義なのです。

 広大な国土を持つアメリカではすでに線路を剥がした後だったので旅客機と自動車の都市計画が進みましたが、ヨーロッパではその後も鉄道が生き残りました。まさに新幹線のビジネスモデルである都市間移動の手段として、フランスTGV、ドイツICE、スペインAVE、英仏をつなぐユーロスターと、国によって形はさまざまですが高速鉄道というジャンルが定着しているのです。それは、都市と都市の間がアメリカほど離れていないという事情が日本と似通っていたという事情もあるでしょう。しかし、当時の日本以上にヨーロッパでは自動車が普及していたわけで、新幹線の成功がなかったら自動車による短・中距離都市間移動が定着していたかもしれません。

 日米欧で鉄道の灯が消えてしまえば鉄道は本当に時代遅れとなり、鉄道は乗るものではなく写真で見るものになっていた可能性だって否定はできません。シンカンセンの成功は、その流れを強力に押しとどめました。

 鉄道の祖国、イギリスはヨークにある国立鉄道博物館には、世界中から鉄道史に名を残した名車や関連資料が展示されています。その中に、初代新幹線車両、0系があり、訪問したら見るべき10個の展示ジャンルの一つに挙げられているのです。

『Top 10 things to do』(National Railway Museum)http://goo.gl/GGVYHk

 1950年代から60年代の世界の鉄道を救った救世主とも呼べる日本の新幹線。そのことはもっともっと称賛されて然るべきではないでしょうか?我々の先人は、間違いなく世界を変えたのです。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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