先日、あるテレビのニュース番組の中で『"ちょい呑み"が今ブーム!』という特集をやっていました。ちょい呑みとは、文字通りちょっとだけ飲むこと。腰を据えて2時間3時間と宴会を開くのではなく、少人数で、さくっと1時間ぐらいで上がるという呑み方だそうで、その象徴として牛丼の吉野家が最近展開しだした『吉呑み』です。
牛皿(並)250円、牛すじ煮込み350円など、やはり得意の牛を使った料理が、100円~300円に並んでいます。さらに、グループの京樽の協力でマグロ刺し(2人前・500円)などの居酒屋定番メニューもあるそうです。
さらにこの特集では、ちょい呑みの変形、ファミレス呑みの話に持って行きました。今、ファミレスで呑もうという人も同じように増えているらしく、居酒屋で飲むよりもよっぽど安く飲めるんだそうです。
ファミレスにはドリンクバーがありますから、上の記事の見出しにもある通り、焼酎と合わせれば割り方は自由自在。ボトルキープしておけば一杯100円程度で飲めるということで、節約にもなる。こうした動きについて、専門家の分析は、専門家は酒の飲み方に対する意識の変化がちょい飲み好調の背景にあるとして、
「居酒屋の場合"酒を飲まなければならない""最後までいないといけない"とややハードルが高い。一方、"ちょい飲み"はすぐに帰れる。自分の判断で好きなモノを食べて好きなモノを飲める」
と、分析しています。
この分析にはズッコケました。そもそも、"酒を飲まなければならない"なんて考える人はどんなところで行われる飲み会でも行きません。「"ちょい呑み"はすぐに帰れる」と言いますが、そんなもの、店の形態によるものではなく参加者の気質によるものでしょう。
もちろん、吉野家なりファミレスチェーン各社の企業努力は素晴らしいものであるし、批判する筋合いはありません。問題はむしろこの分析、結論。こうした消費動向は、各外食企業の努力の一方、金を払う客の側にも変化があったというところがすっぽり抜け落ちています。
私は、この吉呑みやファミレス呑みを見ていて、ある種の既視感を覚えました。それは、デフレ居酒屋とまで言われた低価格の均一料金居酒屋。飲み物も食べ物も300円均一とか、ちょっと前に流行りましたよね。インタビューに答えたお客さんが口々にコストパフォーマンスについて話していたのはその象徴であると思いました。消費者の財布の紐が確実に固くなっている。その原因は明らかに消費増税です。消費税を今年の4月に8%に上げたことが確実に消費を冷え込ませている。4月に消費税が上がってから、消費者の具体的な消費行動が変わるまでには2か月ほどかかると言われていて、機を見るに敏な吉野家が吉呑みを本格的にスタートさせたのがこれとピッタリ歩調を合わせるかのように6月。その後の吉呑みの好調を見れば、消費の冷え込みは収束するどころか拡大している一つの証拠とも言えるのではないでしょうか?
アベノミクスで沸いた去年の今頃、消費のブームは『ちょい高消費』でした。週に一度だけちょっと高いものを食べる、月に一度だけちょっと高い服を買う、年に一度だけちょっと高級な旅に出るなどなど、ちょっと景気が良くなってきたかなというブームでした。
それが、今はどうでしょう?たしかに、都会の百貨店などはまだまだ高額消費が好調だといわれ、それをメディアは大きく報じて「景気は落ち込んでいない!」と言い募っていますが、足元のブームはすでに高額消費ではなく、"ちょい呑み"のようなデフレ型に戻りつつあるのではないでしょうか?
吉呑みは現在都心の店舗を中心に10店舗。吉野家によれば、これを来年度中には30店舗まで増やす予定だそうです。ということは、こうした低価格消費=デフレの兆候が来年度も続くであろうという予測を企業は立てているということです。
もちろん、外食産業の動きが日本経済全体を表しているものではありません。ただし、食事を全くしない国民がいない以上、外食産業は日本経済の姿を浮き彫りにするファクターの一つであることは間違いありません。こうした中で消費税をさらに10%に上げようとする危険さ。あのデフレが戻ってくると思うと、冷や汗が噴き出してきませんか?